マイクロロボットの魚は薬を持って体内を泳ぎがん細胞に遭遇すると自動的に薬を吐き出す
マイクロロボットの魚は薬を持って体内を泳ぎがん細胞に遭遇すると自動的に薬を吐き出す / Credit:Chen Xin,et al,American Chemical Society(2021)
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がん細胞に「体内を泳いで薬を届ける」形状変形マイクロロボットが登場

2021.11.19 Friday

現在の多くのがん治療において、抗がん剤による化学療法が成功を収めています。

しかし、この治療法は、がん細胞以外の正常な細胞まで攻撃してしまうため、大きな副作用が伴います。

この問題を軽減するため、中国の研究チームはがん細胞まで直接薬剤を届けるマイクロロボットの概念実証を行いました

魚やカニなどユニークな形状をしたマイクロロボットは、磁気でがん細胞まで誘導されpHの変化で形状変化して掴んでいた薬剤を放出します。

研究の詳細は、10月19日付でアメリカ化学会の科学雑誌『 ACS Nano』に掲載されています。

Microrobot fish swims through the body to vomit drugs on cancer https://newatlas.com/robotics/microrobot-fish-crab-drug-delivery/ Shape-morphing microrobots deliver drugs to cancer cells (video) https://www.acs.org/content/acs/en/pressroom/presspacs/2021/acs-presspac-november-17-2021/shape-morphing-microrobots-deliver-drugs-to-cancer-cells-video.html
Environmentally Adaptive Shape-Morphing Microrobots for Localized Cancer Cell Treatment https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acsnano.1c06651

がん細胞に直接薬剤をお届けするマイクロロボット

化学治療は多くのがん治療で成功している分野ですが、この治療に使われる薬剤は、がん細胞以外の正常な細胞まで攻撃してしまうという問題があります。

がんとの闘病は過酷な印象がありますが、それは治療法の副作用が影響している部分も多くあります。

化学療法は正常な細胞も攻撃してしまうことで、脱毛や全身の不快感などさまざまな副作用を起こす
化学療法は正常な細胞も攻撃してしまうことで、脱毛や全身の不快感などさまざまな副作用を起こす / Credit:Shape-Morphing Microrobots Deliver Drugs to Cancer Cells,American Chemical Society

化学治療の場合、全身に薬剤を投与することが患者の体へ負担をかける大きな要因となっています。

もし、ターゲットであるがん細胞だけに直接薬剤を投与することができれば、化学療法に伴う副作用の症状を大幅に軽減できるでしょう。

そこで注目されているのが、100マイクロメートル以下という極小サイズのロポットを使い、がん細胞へ直接薬剤を届けるという方法です。

これには多くの研究がありますが、通常このサイズのロボットは非常に単純な動作しかできず、動きを遠隔操作する事もできません。

そこで今回、中国の大学や研究所の研究者が集まった大規模な研究チームは、非常に単純な仕組みのマイクロロボットで、がん細胞へ着実に薬剤を届ける新しい方法について、概念実証研究を行いました。

概念実証というのは、新しいアイデアを開発前に有効かどうか確かめるための実験をいいます。

チームが開発したのは非常に小さなハイドロゲル(寒天やゼリーのような素材)で3Dプリントされた、非常に小さなロボットでした。

3Dプリントでハイドロゲルのマイクロロボットを制作した
3Dプリントでハイドロゲルのマイクロロボットを制作した / Credit:Shape-Morphing Microrobots Deliver Drugs to Cancer Cells,American Chemical Society

これは小さく単純なロボットですが、2つの特殊な機能を備えています。

1つが、磁石によって特定の場所まで誘導できることです。

マイクロロボットは磁力によって所定の部位まで誘導することができる
マイクロロボットは磁力によって所定の部位まで誘導することができる / Credit:Shape-Morphing icrorobots Deliver Drugs to Cancer Cells,

そして、もう1つがpHの低下を感知して、形状を変化させるということです。

がん細胞の周りは酸性環境となるため、マイクロロボットはphの低下で薬剤を離す
がん細胞の周りは酸性環境となるため、マイクロロボットはphの低下で薬剤を離す / Credit:Shape-Morphing icrorobots Deliver Drugs to Cancer Cells,

ここまでカニの形である必要があるのかは不明ですが、研究チームの公開している動画では、マイクロロボットのカニが、pHの低下でハサミを開く様子が映されています。

腫瘍の周辺は酸性の微小環境となっているため、マイクロロボットは目的の腫瘍周辺に到着すると形状を変化させて薬剤を放出するのです。

これは3Dプリントする際に、カニの爪など特定の部分だけ印刷濃度を調節することで、pH応答性の形状変化を埋め込んだとのこと。

こうした方法で、研究者たちはいくつかの動物の形状をしたマイクロロボットの機能をテストしました。

魚型のマイクロロボットは口の開閉で薬剤を咥えて運ぶ
魚型のマイクロロボットは口の開閉で薬剤を咥えて運ぶ / Credit:Shape-Morphing icrorobots Deliver Drugs to Cancer Cells,

このテストでは実際に血管をシミュレートした管の中を、磁石で誘導しながら目的の場所までロボットを移動させることに成功しています。

また目的地はわずかに酸性の溶液となっていましたが、きちんとロボットは咥えていた薬を吐き出し、がん細胞を殺しました。

最近はもっと高機能なテクノロジーのマイクロロボットも研究されていますが、この新しいデザインのロボットは単純な方法で薬物の自動放出が可能なため、特に有望な技術となる可能性があります。

ただ現状では、まだこのロボットは静脈を泳ぐ能力がなく、また体内での行動を画像化して追跡する方法も開発されていないため、実用化への課題は多そうです。

しかし、副作用のないがんの化学療法が実現されれば、それは多くの人たちを苦痛の少ない治療で救うことが可能になるでしょう。

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