サメとエイの「キメラ」だった⁈
化石は2012年に、メキシコ北東部のヌエボ・レオン州の石切り場にて発見されたものです。
ミラルカが生きていた頃、当地一帯は「西部内陸海路( Western Interior Seaway)」という巨大な内海に覆われていました。
西部内陸海路は、白亜紀(1億4500万〜6600万年前)の中期〜後期まで存在し、今日の北アメリカ大陸を東西に分断していたとされます。
北は北極海、南はメキシコ湾まで広がり、長さ3200キロ、幅970キロに達していました。
そんな内海を泳いでいたミラルカは、今日生きているどのサメとも違っています。
最大の特徴はやはり、翼のように左右に伸びた胸ビレで、翼幅1.9メートル、全長1.65メートルに達します。
もう一つの興味深い特徴は、頭部が短く、鼻が不明瞭で、口が極端に大きく幅広であることです。
また、歯が保存されていなかったことも含め、プランクトンのような微小生物を濾し取るフィルターをもっていたと見られます。
研究主任のロマン・ブロ氏は「胴体や尾ビレは現代のサメに似ていますが、頭部や胸ビレはエイやマンタに近いです。
これがミラルカに両者の融合したキメラ的外観を与えている」と説明します。
サメやエイのような軟骨魚類(骨格全体が軟骨でできている)は、約3億8000万年前に出現した「板鰓(ばんさい)類」というグループの一部です。
プランクトン食の板鰓類には、ジンベエザメのような典型的なサメ型と、エイやマンタのような平板型の2タイプがあります。
しかし、ミラルカはどちらの特徴も備えており、いずれにも分類できません。
ブロ氏は「ミラルカはエイの祖先や先駆種ではなく、むしろ異なるグループが独立に同じ特徴を進化させた収束進化(convergent evolution)の一例である」と指摘します。
それから、ミラルカには他のサメにある背ビレや腹ビレが見られません。
このことから、ホオジロザメのようなスピードやどう猛性はなく、穏やかなスロースイマーだったと考えられます。
しかし、サメと同じ尾ビレがあるので、エイやマンタよりは俊敏に移動できたのかもしれません。
以上からミラルカは、過去に例のない姿をしていたようですが、他方で「歯や背ビレ、腹ビレは単に化石として保存されなかっただけでは?」との声もあり、断定はできません。
絶滅時期についても不明ですが、ブロ氏は「陸上の恐竜と同じく、約6600万年前の隕石衝突に大打撃を受けたのではないか」と推測します。
隕石により海洋が極端に酸性化した結果、プランクトンが石灰化して、ミラルカのエサがなくなったという説です。
いずれにせよ、ミラルカの正体をあばくには、より多くの化石標本が必要でしょう。