尻尾はまるで「アステカの棍棒」
化石の発見は2018年2月のこと。約7490万〜7170万年前に当たる白亜紀の岩石から発掘されました。
幸運にも、全骨格の80%がよく保存された状態で回収されています。
腰から下は関節がきちんと整った状態にあり、腰から上は骨が散らばった状態にありました。
このことから、研究チームは「川辺の流砂に下半身が捕まって、最期を迎えたのではないか」と推測しています。
新種の学名は「ステゴロス・エレンガッセン(Stegouros elengassen、以下、S. エレンガッセンと表記)」と命名されました。
属名のステゴロス(Stegouros)は、ギリシャ語の「屋根(stego)」と「尻尾(uros)」の合成語で、種小名のエレンガッセン(elengassen)は、地元先住民のAónik’enk族の神話に登場する「鎧をまとった獣」に由来します。
既知のアンキロサウルスは、約6800万〜6600万年前の白亜紀に、今日の北アメリカ大陸に生息していました。
地球上の大陸は、ジュラ紀(約2億130万〜1億4500万年前)に超大陸パンゲアが分裂したことで、北側のローラシアと、南側のゴンドワナに分かれています。
それに伴って、アンキロサウルスも北と南に分断されました。
そのためか、今回チリで発見されたS. エレンガッセンは、北のアンキロサウルスとは異なる進化を遂げたようです。
S. エレンガッセンの全長は尻尾を含めて約2メートル。胴体は大型犬サイズで、それほど大きくありません。
骨の発達具合から、このサイズで十分に成熟個体に達していたようです。
既知のアンキロサウルスと違う点としては、頭部がかなり大きくて、細く曲がったクチバシを持っていました。
背中には数列の骨盤があるだけの軽装で、手足は細長く、尖った爪もありませんでした。
代わりに、両手両足に丸みを帯びた蹄(ひづめ)のような爪が生えています。
さらに、骨盤がかなり広く、ステゴサウルスに似ていました。
骨盤だけでは誤認してしまいそうですが、ステゴサウルス自体は、はるか昔のジュラ紀後期(1億5000万年前)に絶滅しています。
また、頭蓋骨の断片からDNA分析を行っても、S. エレンガッセンとステゴサウルスは、近縁ではありませんでした。
そして、S. エレンガッセンの最大の特徴は、アステカの棍棒のような尻尾です。
尾は7対の大きくて平らな骨組みから成り、最初の2対は胴体の近くに、あとの5対は平らで強力な武器として融合していました。
従来のアンキロサウルスでは、先端が丸くなったハンマー型やトゲを生やした尻尾が主流となっています。
これまで、北側(ローラシア)のアンキロサウルスが、何らかの方法で南下して、ゴンドワナに至ったかどうかは不明でした。
しかし、今回のS. エレンガッセンと、過去に南半球で見つかった他の2種には、北のアンキロサウルスがジュラ紀中期にはすでに持っていた特徴がないことがわかっています。
ここから、S. エレンガッセンを含む南側のアンキロサウルスらは、ジュラ紀中期以前に北と分裂したことが予想されます。
バルガス氏は、次のように述べています。
「これまで見たことのない尾を持つ装甲恐竜が発見されたことは、とてもエキサイティングです。
しかし、アンキロサウルスの多様性を包括的に理解するという意味で、私たちはまだ表面をなぞっているに過ぎません。
それでも、新種の発見は、適切な時期に適切な場所を探せば、まだまだ多くの化石が眠っていることを思い出させてくれます」
どんな新種恐竜が発見されるのか、今後も非常に楽しみです。