5000年前の遺骨の死因が「溺死」と判明
5000年前の遺骨の死因が「溺死」と判明 / Credit: University of Southampton – Enhanced forensic test confirms Neolithic fisherman died by drowning(2022)
history archeology

法医学鑑定が”5000年前の男性の遺骨”を「浅瀬の溺死」だったと明らかにする

2022.02.16 Wednesday

法医学は遺体の死因を明らかにする医学研究分野の1つで、主に犯罪捜査において活躍しています。

しかし、そんな法医学の新たな利用法が示されました。

チリ北部の海岸にある集団埋葬地で見つかっていた約5000年前の男性の遺骨。

これは死因が不明のままでしたが、サウサンプトン大学(University of Southampton・英)の研究で、海水による溺死であることが判明しました。

この事実を明らかにしたのが、法医学的の手法で、遺骨から海水に生息する「珪藻」を検出したのです。

今回の手法は、先史時代の遺骨の謎をひもとく新たなツールとなるかもしれません。

研究の詳細は、2022年2月8日付で科学雑誌『Journal of Archaeological Science』に掲載されています。

Forensic test confirms Neolithic fisherman died by drowning in the sea https://www.heritagedaily.com/2022/02/forensic-test-confirms-neolithic-fisherman-died-by-drowning-in-the-sea/142803 Enhanced forensic test confirms Neolithic fisherman died by drowning https://www.southampton.ac.uk/news/2022/02/prehistoric-death-drowning.page
Evidence for a mid-Holocene drowning from the Atacama Desert coast of Chile https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0305440322000231?dgcid=author

「浅瀬」での溺死と判明

現代の科学捜査では、被害者の骨中にある珪藻を検査することで、死因が溺死かどうかを判定できます。

珪藻は、海水や淡水に生息する藻類の一種。もし骨の中から珪藻が見つれば、溺死である可能性が非常に高いです。

他方でこの方法は、先史時代の人骨で成功した例がありませんでした。

そこでサウサンプトン大は、チリのコンセプシオン大学(Universidad de Concepción)と協力し、チリ北部の海岸線にある遺跡「コパカ1(Copaca 1)」から出土した遺骨を調べることに。

コパカ1の集団埋葬地からは非常に保存状態のよい遺骨がいくつか見つかっており、そのうちの1人は35〜45歳の狩猟採集民と男性とまで特定されています。

また骨の状態から、頻繁に銛(もり)を打ち、小舟を漕いでいたことが推察され、漁師であることは間違いないようです。

そのため、溺死の可能性を調べるのに理想的な候補者でした。

男性の遺骨を調査する研究チーム
男性の遺骨を調査する研究チーム / Credit: University of Southampton – Enhanced forensic test confirms Neolithic fisherman died by drowning(2022)

研究チームは、骨中の珪藻を調べる試験にくわえ、骨髄の広範囲な顕微鏡分析も実施。

その結果、海水で溺死したことを示すさまざまな海洋粒子が見つかったのです。

遺骨からは、化石化した藻類の他に、堆積物や寄生虫の卵が検出されました。

研究主任のジェームス・ゴフ(James Goff)氏は「これらを見ると、男性は浅瀬で溺死した可能性が高い」と指摘。

「哀れにも男性は、死ぬ最期の瞬間に、堆積物を飲み込んでいたことがわかりました。こうした堆積物は普通、沖合や深い場所では十分な濃度で浮遊しません

古い大量埋葬の痕跡はしばしば、自然災害や疫病、戦争などの事象と関連づいています。

今回の埋葬地も大規模なものであったため、何らかの災害による被害があった可能性も考えられました。

しかし沿岸地域における大量埋葬では、津波の被害などがあったのか、疫病の蔓延があったのかを判別することは非常に困難です。

今回の研究では、何らかの災害により、大勢の人が溺死した可能性も考え、同じ場所に埋葬されていた他の遺骨についても同様の調査が行われました。

しかし他の埋葬された遺骨からは、溺死に関する海洋粒子は見つかりませんでした。

つまり彼らは、津波などの自然災害で一斉に亡くなったのではなく、この男性だけが何らかの理由で溺死したと考えられるのです。

漁師とみられる男性の遺骨
漁師とみられる男性の遺骨 / Credit: University of Southampton – Enhanced forensic test confirms Neolithic fisherman died by drowning(2022)

研究チームは、遺跡にある他の人骨や地質学的な記録を精査し、この地域で起きた自然災害の証拠を調べれば、より詳しいことが明らかになる、と述べています。

ただ今回の研究のもっとも重要な点は、法医学的手法が先史時代の遺骨に適用可能であり、彼らの死因や当時の生活を浮き彫りにできることを示したことです。

ゴフ氏は、こう述べています。

「世界には、海岸部の大量埋葬地がたくさん見つかっていますが、何が原因でこれほど多くの死者が出たのかという根本的な疑問は解決されていません。

今、私たちはこの新しい技術を世界中に持ち出し、先史時代の秘密を明らかにできるでしょう」

法医学は現代の犯罪捜査以外に、古代の謎を明らかにする考古学の世界でも今後活躍していく技術となりそうです。

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