アバターに頭の中の声を再現させると幻聴が治る「AVATARセラピー」はなぜ効くのか

science_technology 2017/12/18

「お前は人間のク◯だ」
「宇宙の◯ミ」

人生の下り坂でつい誰もが頭の中で唱えそうなフレーズですが、難治性の幻聴を患っている方にとって、これは実際に「聞こえる」のです。

約65%の総合失調症患者が、「他人」の声から発せられる、敵意に満ちた幻聴に悩まされています。多くの患者が現状の治療で病状を和らげていますが、1/4の精神病患者にとっては効果がありません。そこで難治性の幻聴に悩まされる人へ効果が期待できるのが、「AVATERセラピー(療法)」です。

AVATAR Therapy for Auditory Hallucinations: If You Can’t Beat the Voices, Join Them
http://www.mdmag.com/medical-news/avatar-therapy-for-auditory-hallucinations-if-you-cant-beat-the-voices-join-them

アバター療法とは、難治性のAudio Visual Assisted Therapy Aid for Refractory(難治性の幻聴をもつ人へ音声と映像で手助けする治療法)の頭文字を取ったもので、2009年から2011年に行われた、英国国立衛生研究所の総合失調症患者の治療で注目を集めた実験方法です。

アバター療法では、患者が思い浮かべる「幻聴の声の主」をアバターで作り、さらに幻聴自体も音声で再現することで、患者が自身の幻聴と対話することで治療が行われます。

そしてこの治療法を試験導入した結果、アバター治療を経験した患者は、精神病症状評定尺度の幻聴における数値が8.75減少したといいます。

このアバター療法に関する研究を行ったのは、キングズ・カレッジで社会精神科の名誉教授であるトム・KJ・クレーグ博士です。彼は、今回明らかに症状が改善した患者が数多くいることが、アバター療法が有効だという最たる証拠だと話します。

そして追跡調査では、幻聴の主から患者に主導権が移行したという重要な発見がありました。

詳しい治療方法は、以下の動画をご覧ください。


Avatar therapy for schizophrenia

アバターは、容姿や声を「患者が思い浮かべる幻聴をささやいてくる人物」に近づけて、セラピストもアバターを通じて患者とコミュニケーションを取ります。

しかしこの治療法、一体どのような仕組みで効果が出ているのでしょうか。

ナゾロジーはこの新しい試みの意義について、元臨床心理士の春井星乃さんに突撃してみました。

― このアバター療法では、患者さんの心の中ではどういうことが起こっているんでしょうか?

春井さん: これは認知行動療法の応用なのではないでしょうか。暴露反応妨害法といって、主に不安障害や強迫性障害などの患者さんに用いられる技法です。 つまり、不安や恐怖に直面しても逃げずに、それを徐々に克服していくことで、不安をコントロール可能なものと認識することができるようになります。そうすることで不安が軽減していくんです。

こんな不穏なアバターに自分の不安を直視させられるというのは、大分勇気がいることですね……。では、幻聴役をわざわざアバターにするメリットは何が考えられるのでしょうか?

春井さん: 幻聴というのはあくまで患者さんの中の存在であって、患者さんなりのイメージがあるんです。そのイメージとかけ離れた現実の他人が幻聴役をやっても、上記のような効果は得られにくいと思います。

この治療法は、幻聴という不可視なものを可視化して、認知行動療法を適用可能なものにしたということに意義があるのではないでしょうか。 統合失調症は、現実見当識という客観的判断能力が減退する病気なので、幻聴を治療者と共有し客観視することというのも治療につながるのでしょう。

― 今の日本の精神医療ではどのような治療がなされているのでしょうか?

春井さん: そもそも日本の精神医療では投薬による治療が主で、SST(ソーシャルスキルズトレーニング)などでそれを補っているという感じです。

Credit: Pixabay

― 薬物治療で治るんですかね?

春井さん: 私は薬物治療だけでは難しいと思っています。その上、現在の日本の精神科医療の入院、身体拘束を厭わない体制には非常に疑問を持っています。

― そこで厚かましいお願いなんですけど、ぜひ春井さんのオススメ治療法をお聞きしたいのですが……

春井さん: フィンランドの病院で効果をあげている「オープンダイアローグ」という手法があります。患者さんから要請があると24時間以内に、複数の精神科医療スタッフが自宅に向かい、家族も含めて1時間半程度対話します。その場の全員が対等で、すべての発言が許容され、応答されます。それを10〜12日間続けると急性期の統合失調症の症状が改善するというのです。しかも、フィンランドではこのサービスが誰でも無料で受けられます。 日本では精神科医の斎藤環さんがこの手法を広めようと尽力されていますが、なかなか日本の精神科医療に浸透させることは難しいようです。

― なるほど……。アバター療法は、新しい技術を使っていて注目されやすいし、妄想のコントロール方法を養えるようなので、オープンダイアローグと併用できるといいですね。

クレーグ博士は、アバター療法はまだ認知行動療法や投薬の代わりにはならないと強調しましたが、将来それらに代わって幻聴や精神病の治療の一端を担う可能性は十分にありそうです。

 

将来このアバター療法やオープンダイアローグが、日本でも患者さんの精神治療に貢献してくれることを期待しましょう。

 

via: mdmag.com / text by nazology staff

 

SHARE

science_technologyの関連記事

RELATED ARTICLE