ダークマターの鍵をにぎるSIMPとは

space 2017/12/17

ダークマター(暗黒物質)の正体について、いわゆるWIMPからとらえどころのないMACHOまで、数多くの粒子がその有力候補として検討されてきました。しかし、WIMPはその存在がまだ科学者によって確認されておらず、MACHOはその可能性が近年の研究で否定されています。

ところが、新たな証拠から、これまでにないタイプの粒子の可能性が示されました。それはSIMPという不思議な粒子で、これが物理学者の支持を集めているのです。SIMPは、自身同士では強く相互作用するが、他の物質とは作用しない粒子と考えられています。

WIMP理論の予測では、ダークマター粒子は滅多に相互作用しないと研究者は説明する。これに対し、村山・ホッホバーグ予測では、SIMPダークマターは、図のように、クォークと反クォークで構成され、互いに衝突して相互作用する。

ダークマターとは

ダークマターは、宇宙の約27%を占めますが、光を反射しないため目には見えません。望遠鏡でも直接には視認できませんが、天文学者に拠れば、可視物質に及ぼす重力効果から、その存在を認識できます。

欧州宇宙機関に拠れば、「完全な暗室で松明を灯せば、我々にはその松明が照らすものだけが見えます。とはいえ、我々の周囲に部屋が存在しないということにはなりません。同様に、ダークマターは、その存在を認識できても、直接に観察できるものではないのです」。

科学者は、ダークマターについて、その存在と宇宙における重要性をかなり確信していますが、その様相や場所は確認できていません。
ダークマターは、数ある銀河を束ねる「糊(のり)」のようなものと考えられています。その一方で、原子や亜原子粒子などの既知の物質は、宇宙の成分の僅か5%に過ぎません。

クォークとは

標準模型に拠れば、素粒子は、フェルミオンとボソンに分類できます。そして、フェルミオンは、レプトンとクォークに分類できます。
クォークには、6つの「フレーバー」(種類)――アップ・ダウン・チャーム・ストレンジ・トップ・ボトムがあります。そして、バリオン(例:グザイ粒子等)は、3つのクォークから成る亜原子粒子です。
バリオンで最もよく知られているのは陽子と中性子ですが、これらは最も軽い「アップ」クォークと「ダウン」クォークで構成されています。
しかし、現存するクォークは6種類ですが、これに加え、理論的には、他種のバリオンを形成しうる様々な組み合せも可能性として多数あります。

「他の物質と相互作用しない」 SIMPのもつ可能性

研究者は何十年もWIMP(weakly interacting massive particles: 相互作用が弱い、質量のある粒子)を探してきましたが、成果が出ていません。こう説明するのは、カブリ数物連携宇宙研究機構(東京大学国際高等研究所)機構長(物理学教授)およびローレンス・バークレー国立研究所上席研究員の理論物理学者・村山斉教授です。

WIMPは、陽子の約100倍の重さで、自身同士では滅多に相互作用しませんが、重力の影響で通常の物質とは頻繁に相互作用する粒子と考えられています。

一方、MACHOは、銀河ハローにある大質量小天体(massive compact halo objects)で、通常物質であっても暗過ぎて観測が困難と言われています。そこには、恒星に成り損ねた天体やブラックホールも含まれます。ただし、すばる望遠鏡でアンドロメダ銀河を観測した最近の調査において、未発見ブラックホールの可能性は除外されたと研究者は言います。

しかし、SIMP(strongly interacting massive particles: 相互作用が強い、質量のある粒子)は、その相互作用の殆どが自身同士のものであるのにも拘らず、その痕跡を通常物質に残すのです。また、WIMPよりサイズは小さいが量は多く、通常物質との相互作用は微弱です。

村山教授に拠れば、銀河団Abell3827内で衝突する4つの銀河に、そのようなSIMPの特徴が現れています。そこでは、各銀河のダークマターの相互作用により、ダークマター同士の融合が遅くなります。通常物質ではそうなりません。

「ダークマターが発光物質に遅れる理由は、一つの理解として次のように考えられます。まず、ダークマター粒子には実質的な大きさがあります。そして、これが互いに衝突して散乱します。そこで、離散した粒子がパートナー粒子を求めて系を結ぼうと移動する時、その押し戻しが発生するのです」と村山教授は言います。

銀河におけるダークマターは、WIMPの場合、中心部の狭い範囲に集中するのに対し、SIMPの場合、中心部から周縁に向って「広がり」を見せる。矮小銀河の実態にはSIMP理論の方がよく合っていると研究者は言う。

「これで、観測事実にも説明がつきます。つまり、ダークマターを新種のクォークの束縛状態と考える私の理論が予測していた問題です」。村山教授に拠れば、SIMPの存在により、WIMP理論の主要問題の解決に一歩近づきます。WIMP理論では、小銀河におけるダークマターの分布を説明できないことが課題でした。

そこで、科学者は、欧州原子核研究機構の大型ハドロンコライダーや日本の国際リニアコライダーなどの地上施設(加速器)を用いてSIMPを探索する実験に着手する予定です。

その際、「次のような積年の難題があります。矮小銀河を見て、それが非常に小さく星も殆どないようであれば、その銀河は間違いなくダークマターで占められています」と村山教授は言います。「そして、ダークマターの凝集過程に関する数値シミュレーションは常に、それが銀河の中心部に向って極度に集中してゆく様子、いわゆるカスプ(尖点)を描いてしまうのですです」。

「しかし、観測結果を見ると、ダークマターの濃度はもっとなだらかで、カスプよりコア(核)と言った方がよさそうです。このコア/カスプ問題はこれまで、重力相互作用しかないダークマターに関する主要問題の一つと考えられてきました」。

WIMPからSIMPへ?

「ところが、ダークマターが実質的な大きさを持つと考えれば、SIMPのように、その粒子は互いに衝突して分散するはずです。その結果、ダークマターは、周縁から中心部に向かって銀河全体に亘り、平坦になってゆくのです。このようなこともまた、SIMPのような理論的概念に寄与する証拠になります」。

ダークマターの候補に挙げられる粒子は、数え切れない程あります。例えば、研究チームでは、アクシオンという仮説上の粒子も探しています。現在SIMPに新たな関心が寄せられているからといって、それ以外を検討しないわけではないと研究者は言います。

しかし、結局はSIMPの方が候補として相応しいということになるかもしれません。「我々はもちろん、WIMPの探索をやめるわけではありません。しかし、実験上の許容度は極めて重要な問題です」と村山教授は言います。

「実験が測定段階に来てしまうと――近い将来そうなりますが、我々はニュートリノさえ実験の前提に置くことになります。これは、想像を絶するものです」。

ニュートリノは、他の素粒子と比較しても小さく、通常物質と滅多に相互作用しません。そして、1秒間に約100兆個ものニュートリノが常に飛び交い、我々の肉体を通り抜けていると考えられています。

「グループ内でも皆が口を揃えて『一体どこまで突き進めばよいのか。けれど、せめて本気で取り組まねば……』という具合です」と研究者は付け足しています。

しかし、WIMPの存在を捉えられそうにないのは明らかで、世間は今、より広い目で考え始めています。ここで一度立ち止まり、また考え直すべき時が来ているのでしょう。

 

via: dailymail / translated by 羽鳥浩一郎

 

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