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Credit: canva
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100年来の謎を解決!理科の定番「植物の維管束」が複雑に進化した理由

2022.11.26 Saturday

今日の植物は「維管束(いかんそく)」という複雑な内部ネットワークを持っています。

維管束といえば、理科の授業で、根から吸い上げた水分と養分が通る「道管」と、葉で作られた養分が通る「師管」から成ると習ったことを覚えているかもしれません。

その一方で、維管束は最初から植物に備わっていたわけではなく、進化の過程で獲得されたものです。

「なぜ植物が複雑な維管束システムを進化させたのか」は、過去1世紀にわたり専門家を悩ませてきた問題でした。

しかし今回、米イェール大学(Yale University)の研究により、その謎がついに解明されたようです。

それによると、研究チームは「干ばつや水不足への対策として、複雑な維管束を獲得する必要があった」と結論しています。

一体どういうことなのか、植物の出現から順を追って見ていきましょう。

研究の詳細は、2022年11月10日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。

Scientists Solve 100-Year-Old Mystery About How Plants Took Root in Land https://www.sciencealert.com/scientists-solve-100-year-old-mystery-about-how-plants-took-root-in-land Researchers Solve Hundred-Year-Old Botanical Mystery that was Key to the Spread of Plant Life on Land https://environment.yale.edu/news/article/researchers-solve-hundred-year-old-botanical-mystery
Hydraulic failure as a primary driver of xylem network evolution in early vascular plants https://www.science.org/doi/10.1126/science.add2910

維管束システムを進化させざるを得なかった理由とは?

地球上で最初の陸上植物は、およそ4億5000万〜5億年前に誕生したことが分かっています。

当初はサイズも小さくて、構造も簡単なコケのような形態をしていました。当然ながら、維管束のような内部ネットワークもありません。

というのも、これらの植物の分布は辺に限定されていたので、維管束が必要なかったのです。

ところが、植物が内陸の乾燥地帯に進出し始めると、水や日光、栄養分を取り込みつつ、蒸発や脱水から身を守るための新たなシステムが必要になりました。

こうして誕生したのが、根や茎、枝とその内部に走る維管束だったのです。

ただし、このときに獲得された維管束は、ストローを束ねたような円筒形のシンプルな造りでした。

初期の陸上植物は水辺に限定していたので維管束は必要なかった
初期の陸上植物は水辺に限定していたので維管束は必要なかった / Credit: Martin Bouda – Czech Academy of Sciences/Twitter(2022)

そして、ここでも植物は新たな難題に直面します。

水不足や干ばつで植物が乾燥すると、内部で「水蒸気の泡」が発生し、それが維管束の中で根詰まりを起こして、水分や養分を吸い上げられなくなったのです。

特に、当時の原始的な維管束では、造りがシンプルなせいで気泡が容易に拡散してしまい、水や養分の供給を遮断したと考えられます。

こうなると、植物は枯れて死んでしまうしかありません。

しかし、またもや植物は自らの内部構造に革命を起こしました。

化石記録によると、約4億2000万年前から維管束ネットワークが徐々に分割され、サイズや構造もより複雑なものに進化したのです。

維管束の複雑化により、水辺から離れた場所でも繁殖できるように?
維管束の複雑化により、水辺から離れた場所でも繁殖できるように? / Credit: Martin Bouda – Czech Academy of Sciences/Twitter(2022)

とすれば、この進化は「気泡の根詰まり」を解決するための動きと考えるのが自然でしょう。

そこで研究チームは、化石記録として保存されている現生および絶滅した植物のさまざまな維管束システムをコンピュータ上でモデル化し、気泡の拡散をシミュレーションしました。

その結果、原始的な維管束は、円筒形のシンプルな造りのために気泡が拡散しやすく、根詰まりが起きやすいことが判明。

対照的に、今日的な維管束では、内部ストローが分岐していたり、離れたりする複雑な造りのために、気泡の拡散が一部分に限定され、被害を最小化できることが分かったのです。

こちらは、気泡の拡散(赤色)を示したシミュレーション映像で、左が原始的な維管束、右が今日的な維管束を表しています。

気泡の拡散(赤色)を示したシミュレーション
気泡の拡散(赤色)を示したシミュレーション / Credit: Yale University – Researchers Solve Hundred-Year-Old Botanical Mystery that was Key to the Spread of Plant Life on Land(2022)

この結果から研究チームは「植物が複雑な維管束システムを進化させた理由は、水不足や干ばつ時に発生する気泡に対処するためである」と結論しました。

しかも化石記録によると、この進化は2000万〜4000万年という比較的短いスパンで起こっていたようです。

今回の成果について、研究主任の一人であるクレイグ・ブローダーセン(Craig Brodersen)氏は次のように述べています。

「シミュレーションでは、植物が円筒形の単純なシステムを少し複雑化するごとに、干ばつに耐える能力が高まっていました。

植物は、こうした小さいながらも重要な変化を起こすことで、誕生のごく初期に直面した大きな問題を解決できたのです。

そうでなければ、今日のような森林は存在しなかったでしょう」

今日の清浄な空気があるのは、植物の忍耐強い進化のおかげかもしれません。

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