なぜ「緑の光」が痛みを軽減させるのかをマウス実験で解明!
なぜ「緑の光」が痛みを軽減させるのかをマウス実験で解明! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
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「緑の光」が痛みを緩和?! 光が持つ不思議な鎮痛効果を解明!

2022.12.19 Monday

光と脳の不思議な関係が明らかになりました。

中国の復旦大学(ふくたんだいがく)で行われた研究によれば、マウスの目から脳に通じる神経を追跡したところ、緑色の光に反応して痛みを抑える脳回路が存在することが明らかになった、とのこと。

緑色の光は網膜で電気信号に変換されると、視床を介して痛みを制御する脳幹に伝達され、マウスの感じる痛みレベルを緩和していました。

研究者たちは緑色の光が脳内でいかにして痛みを軽減させるかを理解することができれば、今後の光療法を大きく改善できると述べています。

研究内容の詳細は2022年12月7日に『Science Translational Medicine』に掲載されました。

Why green light helps reduce pain in mice https://medicalxpress.com/news/2022-12-green-pain-mice.html
Green light analgesia in mice is mediated by visual activation of enkephalinergic neurons in the ventrolateral geniculate nucleus https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.abq6474

なぜ「緑の光」が痛みを軽減させるのかをマウス実験で解明!

過去にアリゾナ大学で行われた研究により、緑の光が人間の片頭痛の痛みを緩和することが報告されています
過去にアリゾナ大学で行われた研究により、緑の光が人間の片頭痛の痛みを緩和することが報告されています / Credit:The University of Arizona . Green Light Therapy Shown to Reduce Migraine Frequency, Intensity

痛みの軽減はしばしば治療よりも重視されることがあります。

特に病気の原因が不明な片頭痛や線維筋痛症、終末期のがんなど原因がわかっていても対処法が存在しない痛みに対しては、緩和処置が治療の大半を担っています。

しかし既存の痛みの緩和法は万全とは言い難く、一部の患者たちには薬による鎮痛効果がないことが知られています。

一方、近年になって、人間やマウスなどの動物を用いた実験により、緑が慢性的な痛みを緩和する効果があることがわかってきました

たとえば2017年に行われた動物実験では、緑色のLEDライト(525nm)にラットを8時間あまり晒したところ、痛みに対して鈍感になっていることが示されました。

また2020年と2021年に人間の片頭痛患者線維筋痛を対象に行った研究では、患者たちに1日あたり1~2時間ほど10週間に渡り市販の緑色のLEDライト(525nm)に照らしたところ、痛みのレベルが大きく軽減したことが示されています。

これらの結果は、緑色の光が視神経を通してに何らかの作用を与え、人間や動物の痛みを緩和している可能性を示します。

しかし既存の研究では、脳内で何が起きているかは不明のままでした。

そこで今回、復旦大学の研究者たちはマウスの目から脳へ通じる神経を追跡し、緑色の光が痛みを緩和する仕組みを解明することにしました。

実験にあたっては、健康なマウスと関節症のマウスが用意され、10ルクス(ほんのり明るい)ほどの緑色の光を1日8時間、6日間にわたって照射し、機械的な痛みや熱による痛みの感受性(感じやすさ)に変化が起きたかを調べました。

結果、緑色の光に照らされたマウスたちは確かに、痛みに鈍感になっていることが判明。

そこで次に研究者たちは、3種類ある網膜の視細胞(錐体細胞・桿体細胞・網膜神経節細胞)を順番に破壊し、目のどの部分が痛み緩和につながる緑色の光をキャッチしているかを調べてみました。

すると緑色の光による鎮痛効果は主に錐体細胞、次いで桿体細胞がかかわっていることが判明します。

錐体細胞は色を感知するための視細胞であり、桿体細胞は暗闇で物体の輪郭を感知するための視細胞として働いています。

(※錐体細胞を破壊すると緑色の光を浴びせても鎮痛効果は完全に得られなくなっていましたが、桿体細胞を破壊した場合には鎮痛効果の減少は部分的でした)

緑の光が網膜の錐体細胞に当たると電気信号に変換されて視床に伝達され、視床から痛みを抑える効果があるエンケファリンが分泌されて脳幹に届けられ、痛みが抑えられる
緑の光が網膜の錐体細胞に当たると電気信号に変換されて視床に伝達され、視床から痛みを抑える効果があるエンケファリンが分泌されて脳幹に届けられ、痛みが抑えられる / Credit:YU-LONG TANG et al . Green light analgesia in mice is mediated by visual activation of enkephalinergic neurons in the ventrolateral geniculate nucleus (2022) . Science Translational Medicine

次に研究者たちは、視細胞から伸びるさまざまな神経を活性化したり抑制化する実験を重ね、緑色の光が脳の視床(外側膝状体のvLGN)にあるプロエンケファリン(PENK)を分泌するニューロン集団を活性化させていることを突き止めました。

プロエンケファリン(PENK)は痛みを和らげる作用のある、エンケファリンの元となるタンパク質として知られています。

また視床にあるニューロン集団は痛みの調整に関与する脳幹(背側被蓋核:DRN)にもつながっていることが突き止められました。

さらに研究者たちがこれら特定された経路のうち、網膜から視床のニューロン集団に通じる神経や、視床から脳幹に通じる神経をそれぞれ個別に遮断したところ、どちらも緑色の光による鎮痛効果も失われることが判明します。

この結果は、緑色の光が網膜の視細胞(主に錐体細胞)にあたると特定の電気信号に変換され、その信号が視床を介して脳幹に注がれ、痛みを緩和している可能性を示します。

(※視床から脳幹への伝達には痛みを抑える作用があるエンケファリンがかかわっていると考えられます)

研究者たちは、緑色の光によって痛みを調節する脳回路が判明したことで、痛みを効果的に治療する光療法の改善につながると述べています。

光療法は特定の光を人間の目や体にあてることで、人間の生理反応を望ましい形に改善することを目指すものであり、体内時計のリセットなどの分野で実用化が進んでいます。

もし緑色の光による鎮痛作用を光療法に取り込むことができれば、既存の鎮痛薬で上手くいかなかった人々の痛みを緩和してくれるでしょう。

もしかしたら未来の薬局には、慢性的な痛みを緩和するために、緑色の光を目に通すように設計されたサングラスが売られているかもしれません。

(※医師の指導なしに目に強い光をあててはいけません)

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