30分で効き始め2時間だけ効果が続く「男性用避妊薬」を開発!
30分で効き始め2時間だけ効果が続く「男性用避妊薬」を開発! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
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利便性の「男性用避妊薬」を開発!マウス実験で服用後2時間の避妊率が100%!

2023.02.16 Thursday

男性側でも確実な避妊手段が取れるようになるかもしれません。

米国のコーネル大学(Cornell University)で行われたマウス研究によって、服用後2時間の避妊率が100%という極めて効果の高い男性避妊薬が開発されました。

この男性避妊薬は体に負担のない非ホルモン性であり、精子の運動能力を一時的に麻痺させることが可能となっています。

また副作用もなく、効果時間が過ぎると精子たちは徐々に運動性を取り戻しはじめ、24時間で完全に通常の動きに戻ります

これまでホルモン系の男性避妊薬は避妊効果を得るまでに8~12週間かかっていたことを考えると、まさに革新的と言えるでしょう。

しかし、いったいどんな仕組みで「精子を一時的に麻痺」させるのでしょうか?

研究内容の詳細は2023年2月14日に『Nature Communications』にて公開されました。

Sperm-Slowing Male Contraceptive Reversibly Inhibits Mouse Fertility https://www.technologynetworks.com/tn/news/sperm-slowing-male-contraceptive-reversibly-inhibits-mouse-fertility-370207
On-demand male contraception via acute inhibition of soluble adenylyl cyclase https://www.nature.com/articles/s41467-023-36119-6

30分で効き始め2時間だけ効果が続く「男性用避妊薬」を開発!

30分で効き始め2時間だけ効果が続く「男性用避妊薬」を開発!
30分で効き始め2時間だけ効果が続く「男性用避妊薬」を開発! / Credit:Canva

アフターピル(緊急避妊ピル)が日本でも承認され話題になったように、人類にとって幸か不幸か、現在50%が「意図しない」妊娠とだと言われています。

避妊方法は数多く提案されているものの、コンドームは適切に使用されないケースが多く、ピルなどの避妊薬は女性側の健康に対する負担が大きいのが問題です。

また男性側で選択できる避妊方法が限定的ないことも、望まない妊娠の大きな原因になっています。

男性の避妊方法としては古くから精管切除やコンドームの使用が行われてきましたが、精管切除は1度やってしまったら元に戻すのは難しく、コンドームは先に言及した通り適切に使用されない場合があり、確実な避妊とは程遠い結果になっています。

ホルモン系に作用して精子を作れなくする男性用避妊薬も臨床研究で高い効果が報告されていますが、効果を発揮するまで8~12週間にわたり薬を飲み続けなければならず、副作用も無視できません。

(※避妊率…パイプカット:100%、コンドーム85%、ホルモン療法:94%)

これは望まない妊娠で問題になりやすい、若い世代にとって大きな問題です。

道徳的な問題を気にする人もいるかもしれませんが、誰もが気軽に利用できる安全で効果の高い避妊薬はどうしても社会に求められるのです。

特に男性側の確実な避妊の選択肢は、待ち望まれています。

そこで今回コーネル大学の研究者たちは、精子が受精能力を獲得するために必須な起動スイッチとも言うべき酵素「可溶性アデニリルシクラーゼ(sAC)」に目を付けました。

射精前の精子は陰嚢上部の領域で休眠状態にありますが、射精段階になると精液と混合され、このとき精液に含まれる重炭酸によって精子内部の起動スイッチ「可溶性アデニリルシクラーゼ(sAC)」がキックスタートされ、運動能力をはじめとしたさまざまな受精能力を獲得します。

つまり精子の起動スイッチ「可溶性アデニリルシクラーゼ(sAC)」さえ上手く不活性化できれば、精子を眠ったままの動かない状態で、射精させることができるのです。

精子を動かない状態にすることは、避妊において非常に重要です。

というのも女性の膣環境は精子にとって敵対的であり、性行為後すぐに子宮内部に入り込まないと膣の自浄能力によって殺されてしまうからです。

まずは試験管内部のマウス精子に試してみる
まずは試験管内部のマウス精子に試してみる / Credit:Canva

早速、研究者たちは起動スイッチを不活性化する化合物を「ツール化合物」から探索しました。

(※ツール化合物は体内に存在するさまざまな酵素と相互作用することが知られている無数の化合物をまとめた巨大な図書館とも言うべき存在であり、創薬分野での活用も進んでいます。今回研究者たちはこのツール化合物の中から候補を探しました。)

すると「TDI-11861」という化合物が精子の起動スイッチに強固に張り付いて、精子の受精能力獲得を邪魔できると判明。

また「TDI-11861」は精子の起動スイッチに張り付く能力は高いものの、結合している時間は永久ではなく「都合がいいくらいほどほど」となっていました。

(※これまでの性科学研究によって一般的な性行為の長さが30分ほどであり、理想とされる性行為の長さも30分~1時間であると報告されています)

実際、試験管内部のマウス精子に「TDI-11861」を加えると精子はわずか15分で動きを止め、停止効果は最大で2時間半持続しました。

しかし3時間後には一部の精子は運動性を回復し、24時間後には全ての精子が元の状態に戻ることが判明します。

しかし試験管内部の精子に効くだけでは、避妊薬としての実用性はありません。

注目すべきは経口摂取が可能という点である。
注目すべきは経口摂取が可能という点である。 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

そこで研究者たちは次に「TDI-11861」をオスマウスに経口投与して(口から食べさせ)て、発情中のメスマウスと2時間の交尾期間を与えてみました。

すると交尾の30分前に「TDI-11861」を投与された52匹のオスマウスはメスマウスを全く妊娠させられなかったことが判明しました。

(※同じ条件で「TDI-11861」を与えずに交尾させたオスマウスは30%の確率でメスマウスを妊娠させられました。)

しかし交尾期間を3時間に増やすと「TDI-11861」の効果の切れ始めが起こり、2.2%(45匹中1匹)のメスマウスが妊娠しました。

さらに交尾期間を8時間に増やすと9%(55匹中5匹)のメスマウスの妊娠が確認されました。

この結果は、オスマウスにおいて「TDI-11861」の避妊効果時間がおよそ2~3時間であることを示します(※確実なのは2時間まで)。

これは使用後2時間は、この薬の避妊率が100%だったということです。

なお、「TDI-11861」の経口摂取によってオスマウスの性行動パターンには目立った変化がみられず、目立った副作用も観察されませんでした。

さらに追加の実験で、採取された試験管内部の人間の精子について同様の実験を行ったところ、マウス精子とほぼ同じ結果になりました。

もし「TDI-11861」の経口摂取が人間にも同じように働く場合、性行為の少し前に飲むだけで非常に高い避妊効果が2時間だけ得られるという、安全性と利便性の高い男性用避妊薬となるでしょう。

研究者たちは現在、「TDI-11861」の臨床試験に向けた準備を行っている、とのこと。

もしかしたら未来の薬局には、コンドームの横に男性用の即効性避妊薬が並んで売られているかもしれません。

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