催眠術で「偽の記憶」を植え付け「不安を解消する」という研究

spiritual 2018/07/02
Credit: Shutterstock/Big Think

変わらないと思いがちな「記憶」。過去のショッキングな経験が忘れられず「トラウマ」に苦しめられている人も多い一方、バイアスや願望などによって、時とともに記憶が歪められることもわかっています。

ただ「記憶」は、時間による変化だけでなく暗示をかけることによって形を変えることもあるようです。2017年、その性質に注目したモスクワ大学の2人の心理学者が、「存在しない記憶」を被験者に植え付けることによって、過去の経験からの「不安」を解消できるのかについての実験を行なっています。

On the advantage of autobiographical memory pliability: implantation of positive self-defining memories reduces trait anxiety
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/09658211.2017.1420195?journalCode=pmem20

120人の過去の記憶による慢性的な「不安」を抱えている男女を被験者として行われたこの実験。被験者は4つのグループに分けられました。

1.ディスカッション・グループ:つらい過去の経験による心の傷を、ディスカッションを通して和らげようとするグループ。

2.サウンド・グループ:「自然の音」を35分間聞くことにより不安を和らげようとするグループ。

3.催眠グループ:催眠により、ビーチなどの心地良い環境に身を置いていると錯覚させ、不安を和らげようとするグループ。

4.記憶移植グループ:催眠により過去のつらい経験を「書き換え」、不安を和らげようとするグループ。

各グループは1週間のインターバルを挟み、合計3度のセッションを実施しました。

実際の「4. 記憶移植グループ」の様子を一つ紹介します。

A.Sさん41歳女性。過去のつらい経験について次のように語りました。

私は当時小学校2年生でした。学校で発表会をやっていて、生徒の親がみんな来ていたの。一人ひとり発表をしていって、ついに私の番。私は父に自分を誇りに思ってほしくて、強くそう願って、発表する「詩」を暗記していったの。

絶対自信があったのに、みんなの視線を浴びた途端、急に何も喋れなくなりました。ただ口を開けて口を閉じ、一言も発することができなかったんです。うまくやらなきゃいけなかったのに、期待に応えることができなかった。父親をがっかりさせたに違いありません。

 

催眠状態の中で、A.Sさんの「その記憶」は、「エリクソニアン・アプローチ」と呼ばれる会話を用いた方法によって、次のように書き換えられていきました。

 

研究者:そこはどんな場所ですか?誰がいますか?周りに何がみえますか?

A.S:とても騒がしくて、蒸し暑いわ。周りにはたくさん人がいる。友だちの両親、先生…そして私の父。父が優しく背中を押してくれてるわ。

研究者:あなたはドレスを着ていましたか?

A.S:はい、茶色のベースに白いエプロンのドレスを着ています。みんな着飾っていたわ。ヴィッキーが上手に詩を読んで、みんなが拍手していたわ。そして次は私の番。私は立ち上がって、大声で何かを言い始めたわ。どんな内容かはわからないけど。

研究者:その瞬間に、あなたはどうしたいですか?自分で思う「ベストな行動」をとってみてください

A.S:わかりました。私はあたりを見渡して、おじぎをします。そして茶目っ気たっぷりに、「みなさん、大変申し訳ありませんが、私は詩を忘れてしまいました」と宣言します。

研究者:お父さんや周りのみんなはどんな風に反応しましたか?

A.S:みんな微笑んでくれていたわ。もちろん父も。そして父はこう言ってくれたの。「ハニー、家に帰ってから詩を聞かせてくれるかい?」

 

各グループのセッションが終了した「直後(test2)」と「4ヶ月後(test3)」に、被験者はそれぞれ「不安」の尺度を測るテストに参加しました。以下のグラフがその結果になります。

●:ディスカッション・グループ ◇:サウンド・グループ ▲:催眠グループ ☓:記憶移植グループ 左の数値が高いほど「不安」も大きい。

図が示すように、「ディスカッション・グループ(●)」と「サウンド・グループ(◇)」においては、実験を通してほとんど「不安」についての変化はみられませんでした。

「催眠グループ(▲)」は、実験直後(test2)は著しく不安の数値が低下していますが、4ヶ月後(test3)には元の数値よりも上昇していることが分かります。

そして「記憶移植グループ(☓)」については、実験直後こそあまり変化がみられなかったものの、4ヶ月後に「不安」の指数が大きく低下していることが分かります。さらに被験者は、「実際の出来事」と「書き換えられた記憶」を区別することができなかったといいます。

このことから「記憶の移植」が成功し、脳に「書き換えられた記憶」が定着していることが分かります。そして何よりも、その「偽の記憶」が実際に「不安」を減少させているのです。

とはいえ、この結果の扱いについては注意が必要です。これは不安についての臨床試験ではありませんし、催眠の効果は確実とは言えず、これを「仮の結果」として扱うのが妥当であるといえます。

そしてもちろん、そこには倫理的な問題もあります。「不安」を解消するためとはいえ、人の記憶を「改変」するこの実験、なかなか「お願いします」と言うのも勇気がいるはず。皆さんはこの治療方法、どう考えますか?

 

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via: bigthink / translated & text by なかしー

 

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