日本人が考案した「量子エネルギーテレポーテーション」をわかりやすく解説
日本人が考案した「量子エネルギーテレポーテーション」をわかりやすく解説 / Credit:川勝康弘
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日本人が考案した「量子エネルギーテレポーテーション」をわかりやすく解説

2024.03.14 Thursday

情報だけでなくエネルギーもテレポートするようです。

東北大学の堀田昌寛氏によって2008年に提唱された量子エネルギーテレポーテーション理論の実証実験が、ここ最近、立て続けに成功しました。

発表当初はその奇抜さゆえ注目されませんでしたが、15年の時を経て、量子エネルギーテレポーテーションは物理学界で最も注目される理論となりました。

量子エネルギーテレポーテーションでは「ゼロ点エネルギーの収集」「真空のゆらぎ」「負のエネルギーの発生」「量子もつれ」「事象の地平面」といったSFの世界のような言葉や概念が飛び交い、私たちの宇宙や空間に対する認識を激変させるものになっています。

量子エネルギーテレポーテーションの応用が進めば、SFでしか耳にしなかったゼロポイントエンジンが実現するでしょう。

今回は「そもそも量子エネルギーテレポーテーションとは何か?」という疑問をわかりやすく解説すると共に、次ページ以降で実証実験の紹介も行っていきたいと思います。

Experimental Activation of Strong Local Passive States with Quantum Information https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.130.110801 Long-range quantum energy teleportation and distribution on a hyperbolic quantum network https://doi.org/10.1049/qtc2.12090

A地点で預けたエネルギーをB地点から絞り出す

A地点で預けたエネルギーをB地点から絞り出す
A地点で預けたエネルギーをB地点から絞り出す / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

はじまりは、ごく簡単な疑問でした。

その疑問とは「本当に真空からエネルギーを取り出せないのか?」というものです。

私たちの存在する宇宙には、真の真空状態というものが存在しません。

空間を拡大すると、そこでは激しいエネルギー変動が存在しており、何もない場所から粒子が現れては消えていくという奇妙でエネルギッシュな世界が広がっています。

宇宙から見た地球の海部分は滑らかですが、実際に近づいてみると常に波立っているのと同じと言えるでしょう。

波が十分に高いエネルギーを持っていれば、水面の膜とは独立した膜を持つ粒子(水滴)が生成されることもあります。

このようなエネルギーのゆらぎがあるため、現在の物理学では真空には「ゼロ点エネルギー」が基底状態として存在すると考えられています。

基底状態とは、何も存在しなくても空間や量子が持つ状態のことを意味します。

SFなどではよく、このゼロ点エネルギーを抽出する発電装置が登場します。

現実世界に波のうねりを利用して発電する波力発電があるように、SF世界には真空の揺らめきからエネルギーを取り出せる装置があるからでしょう。

しかし、現実世界でそれを行うのは極めて困難です。

真空の揺らきは極めてランダムであり、結果として「負のエネルギーを持つ領域」が瞬間的に生成されます。

そのため、たとえ微小な真空から正のエネルギーを抽出できたとしても、次の瞬間には溜めたはずのエネルギーが同じ空間へ吸い取られてしまうからです。

そのため単に空間にコンセントを差し込むような、都合のいいゼロ点エネルギー発電は不可能となっています。

しかし堀田氏は2008年に、ある条件を付け加えれば、この真空の「ゼロ点エネルギー」からエネルギーが抽出できる可能性があるとする論文を発表しました。

その条件とは「量子もつれ」です。

2つの場に「量子もつれ」の関係が成立すると、一方を観測することで、瞬時に他方の変化をうみだします。

ノーベル物理学賞「量子もつれ」をわかりやすく解説

量子もつれにおいて興味深いのは、2つの真空は「一方がαパターンならもう一方がβパターンれになる」という決まりだけが、見えない糸で関連付けられただけの状態にあり、どっちがαパターンかβパターンかといった情報は、観察するまで、まだこの宇宙には存在していない状態にあります。 観察を行った瞬間、αパターンでもβパターンでもなかった空間に変化が起こり、どちらか(図ではαパターン)として生まれ変わります。 そして一方(図では左)がαパターンに生まれ変わったという情報は、2つの間を結ぶ見えない関係性の糸を伝ってもう一方(図では右)に瞬時にテレポートしたかのように転送され、もともとのどっちつかづのパターンがβパターンとして再構成されるのです。
量子もつれにおいて興味深いのは、2つの真空は「一方がαパターンならもう一方がβパターンれになる」という決まりだけが、見えない糸で関連付けられただけの状態にあり、どっちがαパターンかβパターンかといった情報は、観察するまで、まだこの宇宙には存在していない状態にあります。 観察を行った瞬間、αパターンでもβパターンでもなかった空間に変化が起こり、どちらか(図ではαパターン)として生まれ変わります。 そして一方(図では左)がαパターンに生まれ変わったという情報は、2つの間を結ぶ見えない関係性の糸を伝ってもう一方(図では右)に瞬時にテレポートしたかのように転送され、もともとのどっちつかづのパターンがβパターンとして再構成されるのです。 / Credit:川勝康弘

そのため上の図のように、A地点のゆらぎを観測することは、間接的にB地点のゆらぎを観測することにつながります。

またあらゆる観測にはエネルギーコストが必要であり、観測を行ったA地点の空間にはエネルギーが注入されることになります。

面白いのはここからです。

実は、この観測によってA地点に注入されるエネルギーを担保として、B地点ではゼロ点エネルギーの真空からエネルギーを借金することが可能なのです。

その様子を図にすると以下のようになります。

もうそれ以上下がらない基底状態からエネルギーが取り出されると、場には負のエネルギーが出現します
もうそれ以上下がらない基底状態からエネルギーが取り出されると、場には負のエネルギーが出現します / Credit:川勝康弘

①まずA地点とB地点の空間(どちらも真空でゼロエネルギー)が量子的なもつれ状態にあるとします。

②次にA地点に観測を行い、A地点のゆらぎにエネルギーを流し込みます。

③そしてA地点に対して行った観測結果などにかんする情報をテキストメッセージなどでB地点に向けてで送信します。

B地点でエネルギーの取り出しを実現するには、A地点で行った観測結果や観測方法にかんする正確な情報が必要になるからです。

④最後に送られていたテキストメッセージをもとにB地点でエネルギー抽出を実行します。

するとB地点では不可能であると思われていた真空のゼロ点エネルギーのゆらぎから「正エネルギー」の抽出が可能になるのです。

このときB地点で抽出できるエネルギー量の限界は、A地点で注入されたエネルギー量に等しくなります。

⑤その後、エネルギーを搾り取られた反動として、B地点の量子場に負のエネルギーの励起状態が作られます(つまりB地点の真空がゼロ点エネルギー(基底状態)よりも低いエネルギー状態に変化します)。

(※ただしB地点から抽出できる正のエネルギー量は、A地点に注いだエネルギー量を超えることはできません。)

この一連の流れは、途中で抽出にかんする情報がテキストメッセージAB間で送っていることから、光速を超えるものではありません。

またA地点で注入したエネルギーをB地点で抽出するのですから、全体としてエネルギー保存則には反しません。

しかしA地点とB地点の間には、いかなるエネルギーのやり取りがみられないにもかかわらず、A地点に注いだのと同じ分だけB地点から抽出できる点、しかもその抽出がゼロ点エネルギーを源にできる点、さらに反動でB地点で負のエネルギーが励起される点は、驚くべきことでしょう。

私たち人間はA地点の空間とB地点の空間を個別のものととらえがちですが、宇宙にとっては同じ敷地内の出来事なのかもしれません。

次ページ量子エネルギーテレポーテーションの実証にも成功

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