「因果の逆転」は量子コンピューターにとっては障害にならない

technology 2018/07/29

Matrix Code

Point
・因果の非対称性とは、因果を時間順に追うよりも、逆転した因果をたどるほうが必要な記憶コストが増えるということ
・古典物理学的にモデル化した場合とは違って、量子力学でモデル化した時に、因果の非対称性が抑えられることを発見
・量子的なシミュレーション時により効率的なモデルを作る役に立つ

「映画を逆再生で見ると人間は混乱するが、量子コンピューターは混乱しない」と話すのは、シンガポール国立大学のマイル・グー氏。

“Physical Review X”で発表された研究で国際チームが示したのは、量子コンピューターが通常のコンピューターよりも時間の矢の束縛を受けづらいということです。中には、量子コンピューターがまるで原因と結果の区別を必要としないかのようなケースも見られました。

Causal Asymmetry in a Quantum World

http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevX.8.031013

この新たな研究は、およそ10年前にカリフォルニア大学デービス校の複雑系科学者ジェームス・クラッチフィールドによってなされた影響力の高い発見に発想の源があります。その発見が示したのは、多くの統計データの並びが内在的に時間の矢を持つということです。映画のコマを見るようにデータを始めから終わりまで見ている観測者は、次に何が起こるかをモデル化するのに、それが起こる前の多くない量の記憶だけを使います。逆向きになったシステムをモデル化しようとする観測者は、もっと大変です。というのも、より莫大な量の情報の並びを追跡する必要が潜在的にあるからです。

この発見は、「因果の非対称性」として知られるようになってきています。これは直感的に思えます。結局、時間が逆に進む時にシステムをモデル化することは、結果から原因を推論しようとすることに似ています。これが、原因から結果を予想することよりも難しいということは経験からわかります。普段の生活の中で、次に何が起こるのかを知ることは、今何がおこっていて、その前に何がおこったのかを知っていれば簡単です。

しかし、研究者たちは時間の並びと関係のある非対称性の発見にはいつも興味津々です。というのも、物理の基本則は時間が前に進むのか、後ろに戻るのかを決定できないからです。

「物理学が時間の方向を強制しないのに、因果を逆転させるのに必要な記憶の総量である因果の非対称性は一体どこから来るのでしょうか?」

因果の非対称性の最初の研究は、予測を生み出すのに古典的な物理学を利用したモデルを使いました。そこで、クラッチフィールドとマホニーはグーとその協力者とチームを組んで、量子力学によって状況を変化できるのかを調べ、変化することを発見しました。量子力学を使ったモデルが、記憶の総量を抑えることができることを証明したのです。時間を逆転して過程をエミュレートするようにした量子モデルは、順行時間の過程をモデリングした古典モデルをいつでも、凌駕するでしょう。

この研究は、深い意味合いも持っています。「とても興奮したことは、時間の矢との潜在的なつながりが示されたことです。もし、因果の非対称性が古典モデルにだけ見られるとすれば、それは、私達の原因と結果、ひいては時間の感じ方が、本質的に量子的な世界にあって、出来事への古典的な説明を適用することから生まれている可能性があることを示しているのです」と筆頭著者のトンプソンは言います。

次にチームが理解したいことは、他の時間の概念との結びつき方です。「あらゆるコミュニティーは独自の時間の矢を持っていて、皆、それらがどこから来たのかを説明したがっています」クラッチフィールドとマホニーは因果の非対称性が時間の「返しのついた矢」の一例だと言います。

もっとも象徴的なのが、「熱力学の矢」です。この概念は、すべてのもののエントロピーと呼ばれる乱雑さがいつでも増加し、それは宇宙が一つの大きな熱い混沌になるまで続くというものです。因果の非対称性は熱力学の矢とは同じものではありませんが、相互に関係がある可能性はあります。多くの情報を追跡する古典モデルは、さらなる混乱をも生み出します。「それは、因果の非対称性がエントロピー的な結果を持ちうることをほのめかしています。」

この結果はまた、実用的な価値も持っています。因果の逆転に伴う古典的な重荷を除くことは、量子的なシミュレーションに役立ちます。「映画を逆再生するときのように、本質的にモデル化するのが難しい並びで現れた事柄を理解する必要があることもあります。そのような場合に、量子的な方法を使って、古典的な方法よりも遥かに効率的に、証明することができます」とグーは述べています。

 

量子実験で「時間の矢」が逆転することが実証される

 

via: Eurek Alert!/ translated & text by SENPAI

 

SHARE

TAG

technologyの関連記事

RELATED ARTICLE