情報が「負」に? 量子版「マクスウェルの悪魔」によって起こる奇妙な現象

quantum 2018/08/12

新たな研究によって、量子レベルでも、エネルギーや動力を取り出すために情報を使うことができると判明しました。

Information Gain and Loss for a Quantum Maxwell’s Demon
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.121.030604

「熱力学は、科学分野においても人間的なもののひとつです。それは、人間が火に魅せられること、また怠惰さとも関係があります。作業させるための火、あるいは熱は、どうやったら得ることができるのでしょうか?」と、ワシントン大学の物理学准教授ケーター・マーチ氏は改めて問いかけます。

そこでマーチ氏と共同研究者は、この一見何でもない作業を非実体的な量子の大きさ(極低温の顕微鏡下)にまで落とし込み、巨視的な世界同様、情報から動力を取り出せることを発見しました。しかし、そこには罠もあります。ある情報は、この過程で失われる可能性があるのです。

マーチ氏は実験的に、古典的(巨視的)な状況と量子的状況の間の情報の関係を確認。すると、情報喪失の新たな効果がわかってきました。

「マクスウェルの悪魔」を理解する

巨視的には情報からエネルギーを得ることができるということは、マクスウェルの悪魔として知られている思考実験が有名です。

Credit: Htkym / マクスウェルの悪魔。分子を観察できる悪魔は、仕事をすることなしに温度差を作り出せるようにみえる。

分子で満たされた箱を管理する「悪魔」がいます。この箱はドアのある仕切りで2つに分けられています。もし、この悪魔がすべての分子の速さと方向を知っていれば、速く動く分子が箱の左から右に動いている時にドアを開け、この分子を通すことが出来ます。同じことが、遅く動く分子が逆方向に動くときにも出来ます。右から左にゆっくり動く分子をドアを開けて通すのです。

しばらくすると、すべての速く動く分子は箱の右にある状態となります。速く動くということは温度が高いということです。このようにして悪魔は、箱の一方がより熱いと言うような温度の不均衡を生み出します。この温度の不均衡は運動に変換できます。例えば、ちょうど蒸気エンジンが動くような方法でです。

最初、この思考実験は、運動を使うこと無く温度差を生み出すことが可能であることを示したようでした。しかし、これが可能だとすると温度差から運動を生み出すことで、永久機関を作れることになります。これは、温度の低いものから温度の高いものに対しては、他の物体に影響を与えること無しに熱を与えさせることはできないという熱力学第2法則の明らかな違反です。

「結局、科学者たちは悪魔が持っている分子に関する情報に何かがあると気づきました。情報は熱や運動、エネルギーと同じような物理的な特性を持っているのです」

量子スケールでも情報から運動を取り出せるのか

チームは、量子スケールでもこのような方法で情報から運動を取り出すことができるのかを知りたいと思いました。しかし、その場合分子のスピードで分けるわけではありません。もし粒子が励起した状態であれば、それを基底状態(エネルギーが最低の状態)に動かすことで運動を取り出せます。もし基底状態にあれば、何もしません。しかし、彼らが知りたかったのは、「もし量子粒子が励起状態と基底状態の共存状態にある場合はどうなるのか」ということです。この共存は、量子力学で「重ね合わせの原理」と呼ばれているものです。

「エネルギー状態が重ね合わせにあるとき、情報から運動を取り出せるのでしょうか。私たちが知りたいのはそこです」とマーチ氏は言います。しかし量子スケールにおいて情報を取り出すことは、少しばかり話がややこしくなります。

系を観測するときはいつも、その系が変わってしまうというのです。もし彼らがある粒子の状態を正しく知ろうと観測を行うと、その粒子は励起状態と基底状態の2つに収束します。この効果は量子バックアクションと呼ばれています。これを避けるために、系を見るときに研究者(あるいは悪魔)は粒子を長くじっくりと見ないようにします。代わりに「弱い観測」と呼んでいる方法を取ります。それはやはり重ね合わせ状態に影響しますが、完全に励起状態あるいは基底状態へと移行する程には強くありません。エネルギー状態において重ね合わせを維持するのです。

そうは言うものの、この観測は観測者が高い精度でもって、粒子がどんな重ね合わせにあるのかを追跡することを可能にします。これは重要です。というのも、粒子から運動を取り出す方法が、どのような重ね合わせ状態にあるのかに依存するからです。

奇妙な帰結。情報が「負」に

弱い観測法を使ったときでも、情報を得るには研究者は粒子を覗き見なければなりません。つまり光を必要とするのです。光を中に送って、跳ね返ってきた光子を観測します。「しかし、悪魔はいくらかの光子を逃します。半分しか得られません。残る半分は失われてしますのです」

しかしここが鍵となるところで、研究者は他の半分の光子を見ないのですが、これらの光子はそれでもシステムと相互作用するのです。つまり、システムに対して影響をおよぼすということです。研究者にはその効果が何だったのかを知ることはできません。

研究者は弱い観測を行い、いくらかの情報を得ます。しかし、量子バックアクションによって、観測する前よりも情報量が減る可能性があるのです。このバランスから、それは負の情報といえます。これこそがまさに、奇妙な現象なのです。

「量子重ね合わせについて、巨視的、古典的世界に対応した熱力学の規則は適応できるのでしょうか。私たちはその答えがイエスであることを発見しました。しかし、そこには奇妙な例外があります。情報が負になりえるのです。この研究が強調しているのは、量子コンピュータを作るのがどれだけ難しいかということ。旧来のコンピュータでは、ただ熱くなるだけなので、冷やせばいい。しかし量子コンピュータでは、情報が失われる危険があるのです」

 

量子実験で「時間の矢」が逆転することが実証される

 

via: Futurity / translated & text by SENPAI

 

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