本物か? 世界を一変させる「室温超伝導」の発見が報告されるも、疑惑の渦へ…

science_technology 2018/08/17

Point
・金と銀のナノ構造物により、室温超伝導を達成したとする論文がarXivで発表される
・独立した2つの実験で相関したノイズがみられるという、普通では考えられない現象が指摘される
・現在著者はサンプルやデータのシェアを拒んでいるが、専門家による検証の結果を出来るだけ早く発表したいとのこと

応用量子力学の分野には、2つの「聖杯」があります。一つは大規模量子コンピュータを作ることで、もう一つは氷点下以上の温度で超伝導を達成すること、つまり俗に「室温超伝導」と呼ばれるものです。超伝導体とは、電気抵抗をもたない材料のことで、電子が何の障害もなくその物質の中を通過できることを意味します。

しかし今の技術では、極低温下でしか超伝導を達成できません。もし室温で超伝導が達成できれば、ロスの無いエネルギー伝達や、素晴らしく速いコンピュータ、驚異的に正確なセンサーなどが実現します。世界は根本的に変わってしまうことになるでしょう。

7月に、インド理科大学院の2人の物理学者が、プレプリント配布専門のWEBサイト“arXiv”に発表した論文で、「室温・常圧環境下で、金のマトリックスと銀の粒子を用いて超電導を達成した」と報告しています。この報告は物理学コミュニティーに驚きを持って受け取られました。それは、2人が室温超伝導を達成したことに加えて、金と銀をつかってそれを達成したとされたからです。金と銀は極低温下でも超電導を起こさないことが知られています。

Evidence for Superconductivity at Ambient Temperature and Pressure in Nanostructures
https://arxiv.org/abs/1807.08572

その2人の研究者とは、物理化学者デヴ・タパ氏とアンシュー・パンディー氏。物理学界では評価の高い人物といわれています。現在、物理学者コミュニティーは彼らのデータを詳しく検証しています。8月10日、MITの物理学者でポスドクのブライアン・スキナー氏が、2人の論文にコメント。2つの独立した測定間にある奇妙な相関に注目しています。

上のグラフの緑と青の点。それらはタパ氏とパンディー氏が超伝導体の磁気への感受性をテストするため行った、2つの独立した実験の最中に現れた測定ノイズを示しています。ノイズは定義上ランダムなので、2つの異なった実験間で相関があるはずはないのです。しかし、上のグラフでは青の点は緑の点と紛れもなく相関しており、若干下にシフトしています。

スキナー氏によると、「もし、異なった時間、若干異なる環境で行われた2つの実験をして、ランダムな多様性のパターンがまさに一致すれば、それは普通ではないことが起こっています。まだ、これらの繰り返されたノイズの意味は明らかになっていません。それは現実である可能性もありますし、以前は知られていなかった自然現象かもしれません。あるいは計測過程で起こった人工的なもので、私達が理解していないものかもしれません。しかし、これは十分に奇妙な観測で、注意をはらう価値があります」

次の週に、スキナー氏は2人から返信があったとツイートしています。スキナー氏によると、2人はこの相関に気づいていなかったといいます。しかし、室温での超伝導を観察したとする主張は取り下げませんでした。とはいえ、この顕著なノイズデータと相関は説明が必要です。

しかし、疑惑はこれだけではありません。11日に、ムンバイのタタ基礎研究所の物理学者プラタープ・レチャウデューリ氏は、このデータが不正ではないことを説明しようと、Facebookにパブリップポストを作りました。レチャウデューリ氏が呈した一つの可能性は、タパ氏とパンディー氏によって報告されたノイズは、本来ノイズではなく、磁場を動く粒子から起こって観測されたシグナルの一部であったというものです。

レチャウデューリ氏の説明では、ある強さを下回る(3テスラ以下)磁場の中で観測されたノイズが再び生み出された可能性があります。この強さを下回ると、粒子は完全には引き剥がされずその結果、初期情報の「記憶」を保持します。そのため、もし、研究者がある強さの磁場を適応した後磁場を切り、それから粒子の同じサンプルに磁場を適用すると、同じノイズパターンを観測し得ます。というのも、粒子が毎回初期状態を保持しているからです。

レチャウデューリ氏のFacebookページ

今の所、レチャウデューリ氏の指摘するように、この説明も論文のすべての問題を解決するわけではありません。そもそも最も異常な点は、金と銀のナノ構造の抵抗性や磁力の超電磁体への切り替わりが同じ温度で起こっていることなのです。

レチャウデューリ氏によると、これが起こるのは実験が同じサンプルで行われた場合であり、著者の主張だとそうはならないとのこと。彼は、この問題を簡単に解消する方法は、著者らが試験に使ったサンプルを研究者コミュニティーに広く提供することであると申し立てていますが、現状まだ行われていません。

「この記述の目的は、タパ氏とパンディー氏を擁護することではなく、単にコミュニティーが考えるべきすべてのあり得るシナリオを提供することです」と、レチャウデューリ氏はFacebookで述べています。「健全な学術的議論のために、2人がデータとサンプルを公にすることが最も重要です」

ここで海外メディアMOTHERBOADがパンディー氏に連絡を取り、サンプルを共有しない理由を尋ねたところ、「結果の検証を各研究分野の独立した専門家に頼んでいる最中である」と答えたそうです。

「この過程は時間がかかります。検証をしないと、合成や装置の組み立てに関する詳細は推測になり、更に混乱を深めます。結果の検証の報告は適切なフォーラムで出来るだけ早くする予定です」

現状は、2人の言う「専門家」の検証を待つしかないようです。

Credit: physics / ラマクリシャン教授

しかしその後、この超伝導ドラマはさらに奇妙な方向へと進みます。レチャウデューリ氏は14日、インドで最も有名な物理学者であるラマクリシャン教授からと思われるメールを受信。そのメールには、彼にSNS上でタパ氏とパンディー氏への批判をするのをやめるように指示が書かれていたといいます。そしてメールには、ラマクリシャン教授とパンディー氏が議論をしていることを示すメールのやり取りが添付されていました。レチャウデューリ氏はラマクリシャン教授のメールに、二次的ソースを元に意見しないようにと返信をしたといいます。

しかし、ラマクリシャン氏に返信を送る際に、教授が普段とは異なるメールアドレスから送ってきているのに気づき、普段のメールアドレス宛に送りました。するとその後すぐ、ラマクリシャン教授から電話がかかってきます。いわく、「そんなメールなど送っていない」。つまり、教授の名を騙った別人からのメールだったのです。レチャウデューリ氏がメールのアドレスをチェックした所、“[email protected]”となっていました。

「悩むのは、注意深く信頼性の高いメールのやりとりを作り上げ、私がFacebookに投稿させないためだけに、暗号化されたメールサーバーを通して送って来るようなことを、誰がしたのだろうということです」

Credit: gravity_levity / ワイルス・リッヒャーのFacebookページ

その後日、スキナー氏が「ワイルス・リッヒャー」を名乗るアカウントから、Facebookのリクエストが届きました。このアカウントは友人がおらず、投稿も「ジュリアス・シーザー。シーザーは止まらなかった」と書かれたものだけ。スキナー氏は最初、このアカウントは「荒らし」だと思ったといいます。しかしよく見ると、リッヒャーのアカウントは、超電導の論文がarXivに投稿されるよりも16日も早く作られていたのです。

今の所、タパ氏とパンディー氏が、世界を一変させる室温超伝導を達成したというのは推測にすぎません。この発見が本物かどうかは、他の研究者による検証を経ないとわからないのです。今までも、科学的大発見に関する捏造事件はありました。しかし、そのような捏造は科学の世界ではすぐにバレてしまいます。検証に耐えられない発見は、認められないからです。今回の発見が本物であり、超電導技術が一般社会でも使われている未来が来ることを望むばかりです。

 

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via: MotherBoard/ translated & text by SENPAI

 

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