space

「別の宇宙」のブラックホールの痕跡を発見したという研究

2021.01.27 Wednesday

2018.08.23 Thursday

Point
■著名な物理学者ロジャー・ペンローズが、現在の宇宙以前に存在した宇宙のブラックホールからのホーキング放射の痕跡が、宇宙マイクロ背景放射に見つかると主張
■主張が正しいとすれば、宇宙が繰り返し生成されているとする共形サイクリック宇宙論を支持する証拠となる
■マイクロ背景放射のデータを使い、ホーキングポイントがランダムデータでは生み出されることがないことを示そうとした

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私たちが住んでいるのは「最初の宇宙」ではないかもしれません。

世界的に有名な物理学者、オックスフォード大学のロジャー・ペンローズ氏らのグループが、少し変わった見解を論文で“arXiv”に掲載しました。

論文によると、なんと「別の宇宙」の痕跡が宇宙マイクロ背景放射の中に見られるというのです。

Apparent evidence for Hawking points in the CMB Sky
https://arxiv.org/abs/1808.01740

彼らの主張は、現在の宇宙以前にも他の宇宙と、別の何十億年という時間が存在していたということ。

この宇宙同様、「以前の宇宙」にも多くのブラックホールがあったと仮定します。そうすると、宇宙の爆発的な誕生の際に放射された名残である「宇宙マイクロ背景放射(CMB)」の中に、それらのずっと昔に死んだブラックホールの名残を検出できるはずだというのです。

ペンローズ氏などが提唱する時空の歴史(共形サイクリック宇宙論[CCC])によると、宇宙は泡となって現れ、膨張し、やがて死に至りますが、その中のブラックホールはそれぞれの痕跡を次の宇宙に残します。

ペンローズ氏は、「これらの痕跡が現存するCMBのデータに見られる」と主張しているのです。

Credit: Festival della Scienza / ロジャー・ペンローズ(2005年当時)。現在87歳

ではどのようにこの痕跡が形成され、一つの宇宙から次の宇宙まで生き延びられるというのでしょうか。

もし宇宙が進展し、ある地点でブラックホールがすべてを飲み込んでしまうと、宇宙にはブラックホールだけが残ります。ホーキング博士の理論「ホーキング放射」によると、ブラックホールはゆっくりとその質量とエネルギーを、グラビトンと光子と呼ばれる質量のない粒子の形で失っていきます。

もしこのホーキング放射が存在するなら、次に起こることは、これらのブラックホールの漸進的な収縮でしょう。ある地点で、ブラックホールは完全に崩壊し、宇宙は質量のない光子とグラビトンの「スープ」のような状態になります。

質量がなく光速で動くグラビトンと光子は、人間や質量を持った動きの遅い粒子が経験するようには時空を経験しません。アインシュタインの相対性理論の記すところでは、質量を持つ物質は光速に近づくにつれて時間が遅くなり、主観的な距離が縮まります。しかし光子やグラビトンのような質量のない物質は光速で移動するため、時間と距離を全く経験しないのです。したがって、グラビトンと光子で満たされた宇宙というのは、時間や空間といった概念を持たないのです。

このブラックホール後の広大で空っぽの宇宙は、ビッグバンが起こる地点での超高密な宇宙と、時間や距離がないという点で似通っています。一説には、そこからすべてが繰り返されるのだともいわれています。

では、もし新しい宇宙に以前の宇宙のブラックホールが含まれない場合、どのようにCMBにその痕跡が残っているのでしょうか。ペンローズに氏よると、その痕跡はブラックホールそのものから出ているものではなく、「ホーキング放射を通して、何十億年も宇宙にエネルギーを放出している天体」によるものだといいます。

ホーキング放射を介して蒸発しているブラックホールは常時、跡を残します。その宇宙の背景放射の周波数で作られた痕跡は、宇宙の死後も生き残ります。もし研究者がこの痕跡を特定できれば、CCCによる宇宙が正しいと信じる理由を得たことになり、少なくとも完全には間違ってはいないことになります。

すでに薄らいで放散したCMB放射の中からかすかな痕跡を特定するために、研究者は天空の領域間である種の統計的トーナメントを行いました。対象は、CMBを圧倒する銀河や、星明りの少ない空の3分の1の領域の円天です。ホーキングポイントが存在する場合に予測される、マイクロ波の周波数に一致する分布エリアに注目しました。

Credit: ESA and the Planck Collaboration / 宇宙マイクロ背景放射の温度ゆらぎ

これらの円天領域をお互いに「競争」させることで、予想されるホーキングポイントのスペクトラムに最も近い領域を特定しました。その後、完全にランダムで生み出したCMBの偽のデータを作り、比較します。その目的は、CMBが完全にランダムな場合に、「ホーキングポイント」が偶然生み出される可能性を除外することです。もし、ランダムに生み出されたCMBデータがホーキングポイントと似たものを生み出さなければ、新たに特定されたホーキングポイントが以前の宇宙のブラックホールからのものであることが強く示唆されることになります。

実はペンローズ氏は以前にも、過去宇宙からのホーキングポイント特定を記した論文を発表しています。物理学者ヴァエ・ガーザディアン氏とともに、2010年に発表された論文です。しかしこの論文は他の物理学者たちから批判を浴び、科学者コミュニティーを納得させることに失敗しています。2つの追試論文が、ペンローズ氏とガーザディアン氏が特定したホーキングポイントの証拠が、実際は「データ内のランダムノイズ」に由来していることを示しているのです。

しかし、ペンローズ氏は引き下がりません。「私たちの宇宙のブラックホールも、いつの日か次の宇宙へと痕跡を残す可能性があるのか」という問いに、ペンローズ氏はこう答えています。

「まさに、そのとおりだ」。

鏡像の並行世界、ミラーワールドを証明する実験! この世界裏設定多すぎ…

via: Live Science/ translated & text by SENPAI

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