なぜ神経のない植物が「離れた場所」に危険を伝達できるのか? その仕組が明らかに

animals_plants 2018/09/19

Point
・植物は危害を加えられた際に、電気信号で他の部分に防御反応を促す能力があることが知られている
・植物の中でカルシウムを蛍光で可視化することで、この信号の広がりをリアルタイムで撮影することに成功
・信号を誘発しているのがグルタミン酸であるということが確認される

植物は私たち人間のような「神経」を持ちません。しかし害虫などに傷つけられると、すぐに離れた器官が活性化することが知られていました。「痛み」を感じないはずの植物が、なぜすぐに情報を伝達できるのでしょうか?謎だったその仕組が、今回明らかになりました。

埼玉大学大学院理工学研究科の豊田正嗣准教授率いる研究グループが、植物が傷つけられたことを感じ、その情報が「グルタミン酸」によって瞬時に全身へ伝わる仕組みを明らかにしました。研究結果は“Science”で発表されました。

Glutamate triggers long-distance, calcium-based plant defense signaling
http://science.sciencemag.org/content/361/6407/1112

植物には神経はありませんが、植物独特の器官である養分を運ぶ管(師管)を介して、カルシウムイオンのシグナル(Ca²⁺シグナル)を全身に伝えています。このシグナルが発生するためには、傷ついた細胞や組織からグルタミン酸が流出し、師管等に発現しているグルタミン酸受容体を活性化させる必要があることがわかりました。

グルタミン酸は「うま味成分」として知られていますが、脳内の神経伝達物質として記憶や学習にも関与している成分です。植物は、師管のような植物独自の器官と、進化的に保存された脳や神経と共通のシステムを組み合わせることで、長距離・高速情報処理を可能にしていると考えられます。

先行研究では、スイスの科学者たちが、防御機構に関連する電気シグナルがグルタミン酸受容体に依存していることを示しています。グルタミン酸受容体を持たない植物では、脅威に対する電気反応が起きなかったのです。

豊田氏らは、この電気反応が起きない植物でもカルシウムの流れを確認することにしました。すると、この植物では、カルシウム信号も完全に消えていることがわかったのです。つまり、損傷部からグルタミン酸が溢れ出し、植物全体に広がるカルシウムの発火を誘発していると考えられます。

この仕組の解明には、カルシウムの流れを追う必要が出てきました。そこで豊田氏らは、カルシウムを可視化できる植物を作成。この植物は、カルシウムが周囲にある場合だけ蛍光するタンパク質を生産するので、カルシウムの濃度と分布を追跡することができます。実験では、この植物を芋虫にかじらせたり、ハサミで切ったりしてカルシウムの流れを追跡しました。

下の動画で、腹を減らした芋虫が、葉っぱを食べて本体から切り離す様子が映っています。そしてその直後、本体部分へと蛍光色が燃え上がり、本体へと広がっていきます。これが植物の「危険信号」です。この信号によって、芋虫やその仲間が将来仕掛けてくるかもしれない攻撃への備えを促しているのです。

この研究によって、植物が損傷に反応し、カルシウムが損傷箇所から他の葉っぱに流れていくさまが、リアルタイムに確認できるようになりました。シグナルの動きは素早く、秒速1ミリメートルほどです。動物における神経パルスのスピードの数分の一にすぎませんが、植物の世界では稲妻の速度。数分もあれば他の葉っぱたちに信号が伝わるでしょう。そして遠くの葉っぱで防御関連のホルモンレベルがスパイクするのは、そのたった数分後です。

 

不活発だと思われがちだった植物も、実際には生き延びるために電気信号を使い、素早い情報伝達を行っていました。それを誘発しているのがグルタミン酸という動物の神経伝達物質と同じであるということも、生態系の神秘を感じる面白い一致ですね。

 

植物は本当に音が「聴こえ」ているのか?科学的学説4つ

 

via:埼玉大学Phys Org/ translated & text by SENPAI

 

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