「見知らぬ人」に治療してもらったほうが痛みが和らぐという研究結果

psychology 2018/10/07

Point
・同じ社会集団に属する人よりも、異なる社会集団に属する人からの治療を受けた方が、痛みが和らぐ効果が高い
・人は異なる社会集団に属する人からは「効果的な治療が受けられない」と予想するため、予想に反して効果があった時の「驚き」が大きいと痛みが和らぐ効果が上がる
・実験結果は、結果が予測と大きく異なって「驚き」が生まれる時に経験が脳に効果的に植え付けられる「予測誤差理論」と一致する

子どもの頃、「痛いの、痛いの、飛んでゆけ!」というおまじないで、本当に痛みが和らぐという体験をした人は多いのではないでしょうか?

痛みと心理は密接に絡み合っています。痛みの感じ方には、その人の性格、育ち方、職業、対人関係、経済状態、宗教、ストレスといった複数の心理社会的因子が重要な役割を果たしているのです。

ドイツ、オランダ、スイスの三大学が、こうした心理社会的因子の一つである「帰属集団」が、痛みの経験にどう影響するかについての共同研究を行いました。その結果、驚くことに、「同じ社会集団に属する人よりも、異なる社会集団に属する人からの治療を受けた方が、痛みが和らぐ効果が著しく高い」ことが分かったのです。研究チームを率いたのは、ヴュルツブルク大学病院のグリット・ハイン教授やチューリッヒ大学経済学部のフィリップ・トブラー氏ら。論文はRoyal Society of London B: Biological Sciences誌の最新号に掲載されています。

Pain relief provided by an outgroup member enhances analgesia
http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/285/1887/20180501

研究チームは、スイス人男性40名を対象に実験を行い、痛みの緩和治療を行う前と後における、痛みの主観的な感じ方と、特定の脳領域で発生する痛みへの神経反応を計測しました。被験者らはまず、被験者と同じ国籍、つまり社会集団に属する人による痛みの緩和治療を受けるグループと、異なる国籍に所属するバルカン半島出身の「見知らぬ人」による治療を受ける別のグループに分けられました。そして、手の甲に電気ショックによる痛みを与えられ、感じた痛みの強さに応じて点数を付け、同時にMRI検査で脳の活動が測定されました。

治療前はどちらのグループも、痛みに対して同程度の反応を示しました。ところが治療後の結果を見ると、「見知らぬ人」の治療を受けたグループは、別のグループと比較して痛みが緩和されたという評価が高いことが分かりました。また、MRIの測定結果についても、「見知らぬ人」の治療を受けたグループは、別のグループと比べて脳領域における痛みへの反応活動が減少していることが明らかになりました。「見知らぬ人」の癒し効果が、被験者が主観的に感じる痛みの強さだけではなく、脳の痛みへの神経反応にも現れたのです。

素人には信じがたいこの発見ですが、「結果が予測と大きく異なる時、学習効果が高まる」という学習理論の中核原理と一致するものです。心理学の世界では「予測誤差理論」と呼ばれ、「驚き」が新しい経験を脳に効果的に植え付けると考えられています。「思いがけない結果が出ると、強い印象が残り記憶に留まりやすい」ことは、誰でも経験として知っているものです。

これを痛みの経験に当てはめると、「異なる集団に属する人から治療を受けた被験者は、『効果的な治療が受けられる』とは予想していませんでした」と、トブラー氏は説明しています。つまり、効果を期待していない被験者ほど、実際に痛みが和らいだ時の「驚き」が大きいために、痛みへの反応の減少が顕著だったということです。

 

被験者の数が限定的であるとはいえ、被験者の主観的評価と脳の神経反応の間で結果が一貫しているため、実験には説得力があると、ハイン氏は語っています。ただし、今回の研究はこの分野では初めてのもので、今後は実験室外での調査も必要です。とはいえ、今回の発見は、実際の医療現場で外国人看護師の活躍が目覚ましい昨今を考えると、「たしかに!」とうなずけるものがあります。

 

励ますよりも「批判しないこと」が大切という研究

 

via: myscienceeurekalert / translated & text by まりえってぃ

 

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