人間の薬物依存行動は「古代に感染したウィルス」が影響していた

biology 2018/09/29

Point
・ヒトのゲノム内には過去に感染したレトロウィルスの残骸が多数潜んでいる
・レトロウィルスの一つ、HERV-K HML-2(HK2)が、薬物注射を行った患者のドーパミン活性に関わる遺伝子(RASGRF2)の近くで高頻度で見つかる
・HK2が存在することで、RASGRF2の働きが変化することで、依存症にかかりやすくなっている可能性

オックスフォード大学とアテネ大学が率いた国際研究チームによる新たな研究で、古代のレトロウィルスHK2が薬物依存者で高頻度で見つかったことが“PNAS”で発表されました。

Human Endogenous Retrovirus-K HML-2 integration within RASGRF2 is associated with intravenous drug abuse and modulates transcription in a cell-line model
http://www.pnas.org/content/early/2018/09/19/1811940115

生物の細胞における通常の遺伝子合成では、DNAからRNAに情報が転写されることによってタンパク質の適切な生産が行われています。しかしレトロウィルスは、RNAからDNAへと「逆方向」に転写を行える逆転写酵素を持つウィルスです。本体はRNAですが、逆転写によって細胞内でDNAのコピーが作られ、ゲノム内に忍び込みます。人のゲノムは、実はこういった太古に生殖細胞に感染して増えたレトロウィルスの残骸で「散らかって」います。

そして現代のヒトの中で、未だに増えている可能性のある唯一のレトロウィルスがHERV-K HML-2(HK2)です。ただし、すべての人間がゲノム中にこのウィルスのコピーを持っているわけではありません。HK2にもいくつか種類がありますが、その中でも特殊なあるHK2は、脳内でのドーパミンの活性に関わっている遺伝子(RASGRF2)の近くに存在しています。そして今回この遺伝子が、薬物依存者で多く見つかりました。そのことから、この特殊なHK2が「依存」と有意に関わっていることが判明したのです。

研究者たちは、C型肝炎ウィルスまたはHIVウィルスに感染した患者を調べました。彼らの感染経路は、薬物の注射であることがわかっています。そして、その患者たちのゲノムにHK2が融合している割合が調べられました。RASGRF2領域へのHK2の挿入が見られるのは、普通人口の5-10%です。研究により、依存行動をしていると定義できる薬物を注射する人(PWID)に、RASGRF2へのHK2の融合が2倍から3倍多く見つかりました。つまり、RASGRF2内部のHK2が依存行動を引き起こしやすくなることが強く示唆されたのです。

しかし、レトロウィルスの融合は現代人類の出現よりも前に起こり、ネアンデルタール人やデニソワ人のゲノムにも見つかっています。したがって、依存行動に陥った結果注射器の使い回しなどでウィルスに感染したのではなく、ウィルスの存在自体が依存行動に結びついているのです。もちろん、すべてのPWIDの人たちがこのウィルスを持っているわけではありません。依存症におちいる原因は他にもたくさんあります。しかし、RASGFR2へのHK2の融合は、依存症に陥りやすい人を見分ける良い予想因子となるでしょう。

なぜ、RASGFR2へのHK2の融合が、依存症を引き起こすのでしょうか。まず、人に内在するレトロウィルスは、宿主の複製機構を調節するシグナルを持っています。それをレトロウィルスは自分のコピーを増やすために悪用します。その時に、近くにある遺伝子が巻き込まれて転写量が増加することが考えられるのです。今回の研究における実験で、ある遺伝子領域にHK2が挿入された際に、その遺伝子の転写が有意に変化していることがわかっています。つまり、RASGFR2領域に入ったHK2を増やす過程で、RASGFR2遺伝子も巻き込まれて増えているものと考えらるのです。

 

レトロウィルスであるHIVは、個人間で感染します。一方、HK2の広がりはほとんど遺伝によるものです。とはいえ、HK2の中には感染力を未だに持ち合わせているものもあるかもしれません。HK2を持っている人のすべてが依存症にかかるわけでも当然ありません。ただ、その危険性は持たない人に比べて高いということです。今回の発見から、RASGFR2領域をターゲットとした治療法も将来的には生まれてくるものと思われます。

 

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via: Science Daily/ translated & text by SENPAI

 

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