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最短で3週間後に死亡? 「あきらめること」で死に至るケースとは

2021.01.28 Thursday

2018.10.21 Sunday

長生きのお年寄りには、生きがいや目標を持って楽しく生きている方がたくさんいます。反対に「生きる気力を失うと死期が早まる」というのは私たちが経験的に感じていることではないでしょうか?

この事実を裏付ける論文が最近発表され、話題を呼んでいます。研究を行ったポーツマス大学のジョン・リーチ博士は、強制収容所に入れられていた人々や船の沈没事故から生還した人々の症例報告書から、生きることをあきらめてから3週間以内に死亡している事例を突き止め、人を死に至らしめる「あきらめ症候群(give-up-itis)」の5段階の定義づけを初めて行いました。「あきらめ症候群」とは、医学的に「心の死」として知られる状態を表した言葉です。

「あきらめ症候群」は、「死ぬことでしか解決できない」と考えてしまうほどの深刻なトラウマがきっかけとなって生じる病です。周囲からの保護が受けれらない場合、状態の開始から約3週間後には死が訪れるとのこと。「自殺やうつ病と同じでは?」と考えがちですが、それらとは異なります。

リーチ博士によると、「あきらめ症候群」は、目標指向行動の維持を司る前頭葉-皮質下回路の変化によって生じる可能性が高いようです。この変化は、深刻なトラウマが、動機や目標指向行動を制御している前部帯状回投射系の機能不全を引き起こすために生じます。数々の困難に対処して人生を生き抜くためには「生きる動機」が不可欠で、これが欠けると「無気力状態」は避けられません。

「心の死」は「ブードゥー死」とも呼ばれ、ハーバード大学のウォルター・キャノン氏が初めて提唱しました。タブーを犯したせいで超自然的な因果を受けるのではないかという恐怖に支配されたブードゥー教の信者が数日以内に死亡している事例から、このように呼ばれるようになりました。こうした死は、逃避反応に支配されて配所不可能になった際に複数の要素が重なって起きるのだと考えていました。

「あきらめ症候群」に陥った人にとって、死は絶対に不可避かというとそんなことはありません。体を動かしたり、状況を少なくとも部分的には自分で制御できることが理解できれば、改善が可能です。これは、「快感」や「やる気」に影響を与える神経伝達物質ドーパミンが放出されるためです。

自らに選択肢があって人生をコントロールできることを思い出し、自らの傷を癒して人生に新しい目標を持つことができた時、人は死に向かう「あきらめ症候群」の進行を食い止め、覆すことができると、リーチ博士は考えています。リーチ博士が明らかにした「あきらめ症候群」の5段階を見てみましょう。

生きることをあきらめ、人生に打ちのめされ、敗北が確実とわかった人は、人が死に至ることもあると、最新の研究で分かりました。

「あきらめ症候群」の5段階

1. 社会的な引きこもり

心理的なトラウマを負った後によく生じる「社会からの引きこもり」は、感情の欠如、倦怠、無関心、自己陶酔がその特徴です。戦争捕虜が、社会から遠ざかり、受動的で植物状態になることはよく知られています。世の中との感情的関わりを断つことで自分自身の中で感情を整理するための処世術の一つでもありますが、この状態が長期間続くと、極度な引きこもり状態や無関心状態に発展する恐れがあります。

2. アパシー(無関心)

「アパシー(無関心)」とは、失意にふさぎ込んだ深刻な憂鬱状態を意味します。戦争捕虜や、船や飛行機の事故から生き延びた人によく見られる現象です。「無気力」は、怒り、悲しみ、苛立ちとは異なり、自己保存(自分の生命を保存し発展させようとする状態)を停止した状態と呼ぶこともできます。アパシー状態の人は、身なりや身体を清潔に保つことに関心を持たなくなります。アパシーを経験した人は、毎朝目が覚めた時、物事に取り組むエネルギーが起きず、ほんの些細なタスクにも膨大な努力を要すると感じたと語っています。

3. 無為

「無為」はモチベーションが著しく欠けた状態を指し、感情をともなう反応、主導権、決断力の欠如が見られます。この段階にある人は、言葉を発さず、入浴や食事を止め、さらに遁世して奥深い内的世界に閉じ籠ります。周囲からの粘り強い説得や肉体的な攻撃などでモチベーションを取り戻すことも可能ですが、外からの働き掛けが無くなると、またすぐに内的世界へ引きこもってしまいます。無為の状態から復活した経験を持つ人は、当時を心がぐちゃぐちゃで、何も考えが浮かんでこない状態だったと描写しています。この段階にいる人は、心が傍観状態になり、目標指向行動を取る力を失っていると言えます。

4. 心的無動

さらにモチベーションが低下すると、「心的無動」の状態が訪れます。強い痛みを加えられてもそれを感じないため、殴られてもたじろくことがありません。また、失禁したり、その排泄物の上に横になって過ごすことも多いです。ある症例報告では、海辺で強い日差しを避けようとしなかったために、II度のやけどを負った人もいたようです。

5. 心の死

「あきらめ症候群」の最終段階が「心の死」です。この段階になると、人は生きることをあきらめ、自分の排泄物の中に横たわり、何もしなくなります。注意しようが、殴ろうが、頼み込もうが、彼らに「生きたい」と思わせることはできません。強制収容所で「心の死」に至った人は、それまで隠していた貴重なたばこを吸い始めることで、死に近いことが分かるそうです。自分が生き伸びられることを信じられなった人は、まるで死の直前の灯火のように、貴重なタバコを楽しむ行動に出るのだと考えられます。「心的無動」から「心の死」に至るまでは3〜4日を要します。一見すると、心が空っぽの状態が終わって、目標指向行動が再び現れたように見えるのですが、皮肉なことにその目標とは「人生を終わらせること」なのです。

5つの段階、思い当たる箇所はあったでしょうか? 「身体的な病気じゃないし…」と甘くみずに、少しでも心当たりがあったらすぐに心療内科に相談してみてくださいね。

via: medicalxpress / translated & text by まりえってぃ

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