なぜアルコールは「いい記憶」だけを思い出しやすいのか?その理由が解明される

brain 2018/10/26

Point
・ハエを用いた実験により、アルコールが記憶にもたらす影響が解明される
・アルコールはドーパミンの受容体に作用することで、ポジティブな記憶の保持に影響を与えていた
・この記憶のメカニズムはアルコール依存症と深く関係していると考えられ、「グラス1杯のワイン」でさえ記憶に関わる神経伝達経路を変えてしまう

ブラウン大学の神経科学者たちが、キイロショウジョウバエを用いた実験で、アルコールがポジティブな経験や欲望とリンクする脳の領域を変化させて「いい記憶」だけが残りやすくなる仕組みを明らかにしました。研究は10月25日付で科学誌“Neuron”に掲載されています。

Alcohol Activates Scabrous-Notch to Influence Associated Memories
https://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(18)30893-6?

過度な飲酒は体に毒だとわかっていても、中々やめられないのはどうしてなのでしょうか。その状態はすなわち、人がアルコールに関するネガティブな側面を無視して、ただただ欲望のままに酒に手を伸ばしてしまう状況を意味しています。

人間の神経細胞(ニューロン)の数がおよそ1,000億あるのに対して、ハエには10万。数には大きな開きがありますが、その主要な特徴は似ています。そのためハエは、アルコールが人間の記憶にどのような影響を与えているのかを推測する上で最高のモデルとなってくれるものです。

研究チームは遺伝子ツールを用いて、ハエがアルコールのある場所を学習する間に、鍵となりそうな遺伝子を選択的にオフにするという実験を行いました。その結果、ハエがアルコールを好む性質に関わりを持つ遺伝子の一つが “Notch”遺伝子であることを発見しました。

Notch遺伝子のコードしているNotchタンパク質は、Notchシグナル伝達系の最上流にあるシグナル伝達因子です。Nochシグナルは隣り合う細胞同士の情報伝達を担っており、Notchはその経路の「最初のドミノ」のような存在。最初のドミノが倒れることで、次々に下流にあるドミノが倒れていく、すなわち信号伝達が進んでいくのです。その信号伝達は一本道ではなく、広く分岐し様々な下流因子に信号を伝えます。

Credit: Kaun Lab/Brown University

そして、ドミノの下流にあるものの一つが、「快」の感情を引き起こす「ドーパミン」を感知するためのドーパミン受容体(dopamine-2-like receptor)です。記憶をポジティブなものかネガティブなもののどちらかに関連付けるプロセスに関与していることで知られています。Notchの信号によって、このドーパミン受容体の種類が変化することがわかりました。

しかし実際この変化は僅かなもので、直接アルコールの摂取が受容体の「オン・オフ」に関わったり、タンパク質の量自体を変化させているというわけではありませんでした。このわずかな違いがどのように報酬系と関わるのかについては、今回の研究ではわかっていません。

もしこの研究を人間にも当てはめるとすれば、一杯の酒がもたらす報酬系の変化は1時間だけ持続します。しかし、1時間おきに一杯ずつ計3杯飲んだとすると、その効果は24時間にも及ぶのです。ここに、アルコールが依存症を引き起こす鍵があると考えられるのです。

 

少量の酒でさえ死亡リスクを高めるという最新の研究結果もあります。お酒は自分で上手に調整してこそ、楽しめるのかもしれません。

酒は百薬の長ではなかった。少量の飲酒が死亡リスクを高めるという研究

 

via: sciencedaily / translated & text by なかしー

 

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