人によって痛みの感じ方が違うのはなぜ? 6割は「遺伝」で決まる

biology 2018/12/06

Point
・痛みの感じ方が人によって異なるのは、6割が「遺伝的要因」によるもの
・「先天性無痛覚症」などの痛覚異常は、痛みの伝達に必要な遺伝子SCN9Aに含まれるSNPに変異や欠損があることが要因
・痛みと遺伝子の関係についての研究結果は、患者個人の遺伝子に合わせた「痛みの治療法」の設計に役立てられる

世の中には痛みに強い人もいれば、小さなかすり傷にも耐えられないほど弱い人も存在します。このように人によって痛みの感じ方が違うのはなぜなのでしょうか?また、人々を痛みから救うために、この違いを何らかの形で役立てることはできないのでしょうか?

コネチカット大学のエリン・ヤング氏は、痛みは「医療的処置が必要なことを知らせる唯一のサイン」であると説明しています。とは言え、痛みに反応する能力や痛みの訴え方、また治療に対する反応は個人間で異なるため、「痛み」に応じて一人一人に合った効果的な治療方法を探ることは至難の業です。

背の高さや肌の色と同様に、痛みの感じ方の違いの「6割」は遺伝が要因だとヤング氏は説明しています。つまり、痛みへの感受性の違いをもたらす遺伝的な要因を理解できれば、誤用・乱用・耐性などのリスクを伴わずに、患者個人に合わせた方法で、痛みを迅速に和らげることが可能になるかもしれません。

DNAコードを構成する遺伝子の数と配列は無数に存在しますが、ある集団内に現れる「違い」として最も一般的なものが一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)と呼ばれるものです。ヒトのゲノムには約1,000万種類のSNPが存在しており、SNPの組み合わせの違いがその人固有のDNAコードを形づくり、他者のDNAコードとは異なるものにします。そして近年、痛みの感じ方や鎮痛剤の効き方だけでなく、慢性疼痛発症のリスクさえも決定する多くの変異形遺伝子が存在することが明らかになってきました。

「痛みの遺伝学」に関する初期の研究は、生まれつき痛みを感じることができない「先天性無痛覚症(CIP)」の人々に焦点を当てたものでした。無痛覚症は、痛みの信号を伝達するのに必要な単一遺伝子に変異や欠失があるために生じます。主な原因としては、痛みの伝達に必要なタンパク質のチャンネルを符号化する遺伝子「SCN9A」に含まれるSNPに異常があることが考えられます。

痛みを感じずに生きられることは一見好都合にも思えますが、無痛覚症の人々は怪我や病気をしないよう常に配慮しなければなりません。彼らは膝を擦り剥いても、膝の骨を折ってもそれらを認識できず、また、心臓発作や盲腸を発症しても、胸部や腹部の痛みを感じることができないのです。それは、本人が「何かおかしい」と気がつく前に、進行した病気によって死に至る可能性があるということです。

Credit: AP Photo/Stephen Morton / 先天性無痛覚症の少女アシュリー・ブロッカーちゃん5歳

反対に、SCN9Aの遺伝子異常は、通常よりも痛みを強く感じさせ、四肢先端に灼熱痛と紅斑を繰り返す「原発性肢端紅痛」や、直腸・眼球・顎下腺に突発的な痛みが生じる「発作性激痛症」を引き起こす場合もあります。

遺伝子が痛みに与える影響がより深く理解されれば、痛みが「どこから」生まれるかだけではなく、「なぜ」生まれるのかに焦点を当てた治療法の設計が可能になります。ゲノムベースの治療法の普及が進む中、痛みと遺伝子の関係についての研究結果が、患者個人の遺伝子に合わせた痛みの治療法の設計に役立つことが期待されています。

また近年、フグやタコなどの海の生き物が持つ強力な神経毒「テトロドトキシン」が、麻酔薬のように痛みの信号をブロックすることが注目され、すでにガンの痛みや偏頭痛に効果を持つことが証明されています。こうした新薬の導入にも、遺伝子に関する研究結果が役に立ちそうです。

痛みを適切に取り除くための新しいストラテジーの設計は、まだ始まったばかり。私たちが「痛み」といった万人共通の悩みから解放される日はそう遠くないのかもしれません。

 

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via: theconversation / translated & text by まりえってぃ

 

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