「シュレディンガーの細菌」が登場? 量子生物学の可能性

quantum 2018/11/03
Photo credit: Apionid on VisualHunt / CC BY-NC-ND
Point
・あわせ鏡の間に緑色硫黄細菌をおいて、その間で光を反射させて共振させる実験が先行研究として行われ、共振器と光合成分子の間に対になる関係が示される
・この研究を新たなモデルで解析した結果、細菌内部の自由度と光がもつれていることが示される
・今後の研究の発展によって古典力学と量子力学の境目が分かる可能性

量子の世界では、私たちの見ることのできる巨視的世界の古典的力学では説明のつかない現象が起きます。

1つの粒子が2つの異なる状態を同時にとれるという「重ね合わせの原理」や、2つの粒子の重ね合わせが対となって情報を共有し、どれほど離れていようが、片方が収束すると瞬時にもう一方も収束するという「量子もつれ」がその例です。

そして、最も有名な量子力学の思考実験は「シュレディンガーの猫」でしょう。箱の中のネコは量子の状態に生死を握られていて、量子が重ね合わせ状態にあると、箱を開けるまで生と死が重なった状態で存在するというのです。常識で考えるとまったく訳がわかりません。このように、量子力学の世界は直感に反する性格を持っているのですが、実験的にその存在は何度も証明されているので、現実であると認めざるをえないのです。

マクロの世界は古典力学に支配されていますが、ミクロの世界は量子力学に支配されています。それでは、その境目はどこにあるのでしょうか?実は、その答えは誰もわからないのです。

しかし、ひょっとすると、その境目を明らかにするのは「量子生物学」なのかもしれません。量子生物学は、量子力学を使って生命現象を説明しようとする学問です。すでに、いくつかの注目すべき結果を出しています。例えば、以前紹介した光合成において量子効果が見られたとする実験や、鳥の航行能力、嗅覚にも量子効果が用いられているかもしれないことが示されています。とはいえ、生きた生物そのものが量子もつれや重ね合わせといった量子効果を示すことを証明した人は誰もいません。

今回オックスフォード大学の研究グループが発表した新たな論文で、細菌と光子を量子もつれさせることに成功したという驚きの結果が報告されました。論文は、10月10日付で“Journal of Physics Communication”に掲載されています。

Entanglement between living bacteria and quantized light witnessed by Rabi splitting
http://iopscience.iop.org/article/10.1088/2399-6528/aae224/meta

研究は、2016年にシェフィールド大学で行われた実験の解析として行われています。以前の実験は、光合成細菌である緑色硫黄細菌を、「あわせ鏡の間に閉じ込める」という方法で行われています。あわせ鏡の隙間は、髪の毛の幅よりも細い数百ナノメートルまで徐々に縮められます。鏡の間を白色光が反射し続けることで、細菌の光合成分子と、この光共振器が対になると踏んでの実験です。つまり、細菌が反射し続ける光子を絶え間なく吸収、放射、再吸収します。実験は成功し、多くて6つの細菌が対を作ることが示されました。

新たな研究では、この実験が単なる光共振器との対を作るだけにとどまらないと主張しています。彼らの解析によると、実験で生み出されたエネルギーの標識は、光共振器の中の光ともつれを作った細菌の光合成組織と一貫性を持っている可能性があります。複数の光子が細菌の中の光合成分子に対して同時にぶつかったり外れたりする現象がみられましたが、これは量子もつれにも現れる特徴です。筆頭著者のキアラ・マーレット氏は、「記録されたこの現象が、細菌の中のある程度の自由度と光の間の量子もつれのサインであることをこのモデルは示しています」と述べています。つまり、「シュレディンガーの細菌」といった状態になっている可能性があるのです。

自然界での緑色硫黄細菌は深海でも発見されています。非常に限られた光を効率よく利用するために、量子力学を利用するように進化したのかもしれません。

実験の方法などに対して考慮しなければならない欠点もいくつかあり、不確かな点もあるのですが、量子生物学は単なる机上の空論ではなく、現実のものとなりつつあります。いつか、古典力学的世界と量子力学的世界の境目がはっきりする日が来るかもしれませんね。

 

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via: Scientific American/ translated & text by SENPAI

 

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