想像力の影響は絶大。音を想像するだけでネガティブな経験が「消去」できるという新研究

brain 2018/11/24

Point
・「音とネガティブな経験の連想」を断つには、ネガティブな刺激を取り除いた状態で同じ音を「聴く」ことが効果的だが、その音を「想像」するだけでも同じ効果がある
・音を聴いた場合にも、想像した場合にも、連想を取り消す脳内の「消去」処理に特徴的な前頭前野腹内側部の活動が見られる
・不快な場面を視覚化・再体験することでネガティブな連想を断つという不安障害の治療法の仕組みを理解するヒントが得られる

救急車の音を耳にすると過去に大怪我をした時の痛みを思い出したり、口論する人の声から子どもの頃の両親の喧嘩の記憶がよみがえったり…と、特定の音から不快な経験を連想することは、誰にでも良くあることではないでしょうか。この「音とネガティブな経験の連想」を断つには、ネガティブな刺激を取り除いた状態で同じ音を「聴く」ことが効果的だと言われています。

実は、これと同様の効果が、同じ音を「想像する」だけでも得られることが、最新の研究で明らかになりました。音を実際に聴いた時も、それを想像した時も、「消去(extinction)」と呼ばれる連想を取り消す処理が脳内で起きるためとのこと。米国のマウントサイナイ医科大学とコロラド大学ボルダー校の研究チームによる論文が、11月21日付で雑誌Neuronに掲載されました。

Attenuating Neural Threat Expression with Imagination
https://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(18)30955-3

「これは、私たちの心の活動と、それが現実への反応にどう影響するかを測ろうとする取り組みでした。多くの場合、重要な刺激に対する反応の仕方を調べる時、私たちは環境の中に実際に存在する手掛かりを用います。ところが、同時に脳内でも多くの内的処理が行われているのです。私たちは想像し、画策し、思案し、期待し、予測します」と、マウントサイナイ医科大学のダニエラ・シラー氏は語っています。

研究チームはまず、68名の健康な被験者に特定の高音や低音を聴かせると同時に、痛みをともなわない不快な電気ショックを与えました。その後、今度は電気ショックを与えずに、被験者を3つのグループに分けて、それぞれに異なる行動を指示しました。グループ1には同じ音を聴かせ、グループ2には同じ音を想像するように指示し、またグループ3には心地よい鳥のさえずりや雨が降る音を想像するように指示しました。実験の結果、音を想像しただけの被験者は、音を実際に聴いた被験者と同程度に、音に対する恐怖反応が減少すること、またこの効果が鳥の声や雨の音などを想像することでは得られないことが明らかになりました。

同時に、fMRIで被験者らの脳活動を測定したところ、グループ1とグループ2で同様の脳活動が観察されました。どちらの場合にも、「消去」の特徴である前頭前野腹内側部の活動が見られたのです。前頭前野腹内側は多くの動物で「消去」に関係している領域だと示されており、音を想像しただけのグループ2でこの領域の活動が見られたことは、音を実際に聴いたグループ1と同じ処理を脳が行なっていることを示唆しています。

不安障害の治療ではよく、ストレス、不安、恐怖を引き起こす場面を視覚化するという手法が用いられます。安全かつコントロールされた環境で不快な場面を再体験することで、ネガティブな連想を断つという仕組みです。こうした治療法は試行錯誤をともなう経験をもとに生み出されたもので、その理論やメカニズムはよく分かっていませんでした。今回の研究から、想像力が効果を発揮する仕組みを深く理解するためのヒントが得られたと、研究チームは考えています。

だだし、鳥の声や雨の音を想像したグループに効果が見られなかったことからも明らかなように、想像しさえすれば何でも良いということではありません。恐怖を「消去」するための具体的な方法については、まだまだ解明すべきことがたくさんあります。また、音を想像することが「消去」に効果的なことを確実に証明するには、さらに規模の大きな調査を行い、その長期的な効果を追跡する必要があります。

脳は経験を通じてさまざまなことを学習しますが、その過程に与える想像力の影響ははかり知れませんね。その仕組みを完全に理解すれば、私たちは行動を通じて「感じたい感情を感じ、感じたくない感情を感じずに済む技」を身につけた、脳の優れた使い手になれるのかもしれません。

 

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via: eurekalert / translated & text by まりえってぃ

 

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