音波用の「ワームホール」を3Dプリンターで作成!? 研究者が行った「ズル」とは

science_technology 2018/12/08
Credit: Jian Zhu
Point
・3Dプリンターで作ったワームホールの模型に音波を通して、その特性を調べた研究が行なわれた
・この研究ではワームホールを作るために変換光学がアナロジーとして利用されている
・類似による物理学で新しい発見をしたり、試した理論の正しさが証明されたりすることはない

ワームホールを作ったという論文が“Physical Review Letters”に掲載されています。とはいっても、本物のワームホールを作ったわけではなく、2次元平面を伝わる音波が3次元的に伝播するという、偽のワームホールです。

この研究は「変換光学」が利用されていますが、中々日常では耳慣れない「変換光学」とは何なのでしょうか?

Elastic Waves in Curved Space: Mimicking a Wormhole
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.121.234301

変換光学とは

光学をデザインするのは非常に大変です。光学系に対して期待する効果は分かっていても、それを実現するためには、実験的な試行錯誤を行なわなければなりません。変換光学は、光学と一般相対性理論の間にある数学的な類似性を利用します。空間を曲げたり伸ばしたりすることで、軌道を思うように変えるのです。

空間を曲げたり伸ばしたりすることに対応するのは、光学でいえば屈折率を変化させることです。これを現実の世界に適応するのは、この時点では比較的簡単そうですが、ある問題に行き当たります。

数学的な時空を好きなように曲げたり伸ばしたりするのは簡単です。しかし、必要な屈折率をもった対応する素材を見つけることになると話は違ってきます。そういった素材は存在しない可能性もあります。また、屈折率が実現不可能な値を持つ可能性もあるのです。変換光学は機能します。しかし、すべての問題を解決できないのです。

空間を真似るために波を使う

変換光学は裏を返すと、光学系を通過する波の振る舞いが、婉曲した空間を通過する物質の振る舞いと同じになることを示しています。したがって、ブラックホールやホワイトホール、ワームホールなどの研究できない物質の研究を可能にするのです。

しかしここでは、先述したものと同じ問題に直面しています。ワームホールはある種の光を曲げるエキゾチック素材の布地を必要とします。しかし一つ問題となるのは、研究は通常、様々な屈折率を持つ平面で行なわれることです。この問題を解決するために、研究者はある「ズル」をしました。

行なわれたのは、湾曲した平面を3次元的に作成したということ。つまり、私達が図などでよく見る立体のワームホールを、3Dプリンターで作ったのです。それは二枚のプラスチックの板に穴が空いていて、その穴を短いパイプでつないでいます。角は丸く、スムーズにパイプとつながり、想像通りのワームホールになっているのです。

果たしてこのワームホールは機能するのでしょうか? 穴へと向かう音波を考えましょう。このスムーズなワームホールを、音波は穴を通り抜けて反対側へと抜けます。裏側では音波はあらゆる方向へと飛び去ります。

ここで、2次元的にこのワームホールを見下ろした場合を考えてみましょう。まるで音波は視界から単純に消えたように見えます。反対側から見た場合、音波が異様な形をした音源から突然湧き出してきたように見えるでしょう。

単純な話ですし、学部生なら誰でもできるような実験だと思います。とはいえ、それが悪いわけではありません。音波の振る舞いはまさに、物体がワームホールを通過する時に予測される振る舞いと同じなのです。

類似性による物理学は、やっぱり物理学ではない?

類似による物理学は、観測したり作り出せるワームホールがないので、似たようなものを見つけて研究しようという考えから来ています。

この場合の類似性は、数学的なものです。波の伝播と時空は同じではありませんが似た公式を持っています。なので、ブラックホールやワームホールなどを真似た、光学や音響を使った実験から多くを学ぶことは可能です。

しかし、単純に表現すると、これは馬鹿げてもいます。本物のワームホールを研究しているわけではないので、何ら新しい物理学を発見することはできないでしょう。現存する公式がどのように自然界に当てはまるのかを見ることしかできません。

同じことはコンピューターのシミュレーションでできるし、そっちの方が早いかもしれません。そして、試した公式が正しいかどうかをはっきり言うこともできないのです。

それでもこういった研究をする理由があるとすれば、それは、間違いなく面白く、複雑な現象をとても簡単な方法で視覚的に見せてくれるからでしょう。

 

SF映画でよくみるワープ装置「ワームホール」ってどんな仕組みなの?

 

via: ars Technica/ translated & text by SENPAI

 

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