「原因不明の症状」に対する最後の切り札“ISTDP”はどんな治療法なのか?

psychology 2019/01/06

Point
■原因不明の症状を緩和させる “ISTDP” と呼ばれるカナダ発の心理セラピーが注目を集めている
■治療のプロセスは決して優しいとは言えず、ときに故意的に過激な質問でクライアントの感情を乱すこともある
■急進的なこの治療法には批判もあるが、カナダでは試験的な運用が開始されており、通院回数の減少による医療費の削減も期待されている

「声が出ない…」「震えが止まらない…」そんな原因不明の症状に悩まされ、病院を転々としていた患者を、魔法のような方法で救ってしまう精神科医がカナダに存在しています。彼の名はアラン・アバス。彼は、それらの治療は奇跡なんかではなく「科学」であると語っています。

身体表現性障害と呼ばれるそれらの症状に対して、アバス博士が用いる革新的な治療法は「Intensive Short-Term Dynamic Psychotherapy(ISTDP)」といったトーク・セラピーであり、これは、心理学的なアプローチによってクライアントの無意識下に潜むネガティブな感情への対処を試みようとするものです。

ISTDP治療を説明するビデオの中では、杖に体重を寄せて足をひきずっていた男性がアバス博士の治療後に杖を必要とせずに歩きだす様子や、1ヶ月間喋ることのできなかった女性が治療終了時には快活に話し始めるといった、まるで嘘のようなISTDP治療の効果が示されています。

Credit: DARREN CALABRESE/THE GLOBE AND MAIL / 精神科医アラン・アバス博士

長期的な原因不明の体調不良を訴え、仕事や日常生活に大きな支障が出てしまう人も多く存在していますが、そのような人々を「詐欺師」として、実際には感じていない嘘の症状をでっち上げているのだと冷ややかな視線を送る人もいます。

しかし、アバス博士らはそのような症状を「本物」であると信じており、ISTDP治療を用いることで、そのような人々を辛い症状から救おうと試みているのです。

このセラピーは、抑圧された「ネガティブな感情」が慢性的な体調不良として人々の体に表出しているといった考えに基づくものです。そのため、そうしたネガティブな感情を開放することさえできれば、様々な症状が緩和していくことになります。

認知行動療法が「思考パターン」に変化を起こすことで「行動」の変化を促す一方で、ISTDP治療においては、クライアントの「身体の反応」に焦点を当てることで、「怒り」や「罪悪感」といったどうすることもできない感情への対処を試みます。

この治療法のユニークな点の一つは、セッションが録画されており、セラピストが同僚や、あるいはクライアント自身も交えてレビューを行うことができるといった点です。

Credit: DARREN CALABRESE/THE GLOBE AND MAIL / 同僚とのレビューの様子

また、クライアントは平均して約7回のセッションに臨みますが、アバス博士が取り扱ったケースではセッションが60回にも及んだことがあるそうです。

そしてこの治療はその名の通り Intense(激しい)で、優しいものではありませんが、同時に曖昧なものでもありません。

アバス博士はときにセッションの中で、「あなたの(虐待を受けた)母親への怒りは、彼女を殺したいと思うほどですか?」「どのような方法で殺したいですか?」などの際どい質問を投げかけることもあります。

このような方法を行うことでクライアントの感情を乱し、症状に心理学的な要因があることを確認します。そうして症状に関する様々な可能性を探りますが、まれに肺炎や胆石といった医学的なケースが見過ごされている場合もあるので、その場合には、患者はその手のスペシャリストのもとへと送られます。

アバス博士が行った治療のうち実に95%は、クライアントが幼少期に心の奥深くに刻まれた経験を抱え続け、それが原因となって頭痛や腹痛などの様々な症状を引き起こしてしまっているケースだといいます。虐待やネグレクト、親の死や離婚などその態様は様々ですが、子どもの頃の「有害な経験」が、ほとんどの症状の根本原因となっていることが分かります。

また、ISTDP治療を高く評価する人がいる一方で、これに対する批判も存在しています。心理学者のアラン・カーベルング氏は、ISTDP治療について「患者にとって奇妙でストレスフルな環境を作り出しているもの」だと語っています。

あまりに早急に「答え」を出そうとするこの治療は、患者第一ではなくセラピストにとって都合のいいものだと考えられるのです。

そうした批判もあり、当然ながら万能ではないISTDP治療ですが、すでにノバスコシア州では試験的な運用が始まっています。アバス博士をはじめとしたISTDP治療について学んできた専門家たちは、この導入が多額の医療費の節約につながることを信じています。

つまり、原因不明の症状を解明するために病院を転々としていた人々が、この方法によって通院回数を減らすことで医療費の削減効果も期待できるといったことです。

 

ISTDP治療は、カナダの他地域だけでなく、今や世界中で注目を浴び始めています。体に表れた症状を単なる「思い込み」で終わらせないこの治療法は、ひょっとするとこのストレス社会の救世主となってくれるのかもしれません。

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reference: theglobeandmail / translated & text by なかしー

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