2018年の物理学界のハイライト! ひっくり返されまくる暗黒物質論に、量子論のポエムまでを振り返る

science_technology 2018/12/30

 

今年も残すところあと数日。そこで今回は、APS Physicsが選んだ2018年の物理学におけるハイライトを紹介します。

革新的な研究から、量子論のポエム化まで含んだ10項目!今年がどんな年だったのか、物理学から振り返ってみましょう。

新たな超電導体としてのグラフェン

2018年で最も目立った凝縮系物理学の成果をもたらしたのは、2枚のグラフェンシートでした。

日本とアメリカの研究者によって発表された新発見は、2層のグラフェンの一枚をひねって重ねることで、超伝導を発揮するというものです。この超電導は高温超伝導に似たものであると研究者は考えており、その特質を研究するための良いモデルになるのではないかといいます。

APSの5月の学会では、立ち見席だけの会場で結果を報告しており、その模様はロサンゼルス・コンベンション・センターのロビーに設置されたスクリーンで中継され、何百人もの観客を引きつけました。

この実験結果によって刺激された理論研究者たちは、この普通ではない振る舞いを説明しようと試み、一連の理論研究が提唱されました。その中の一つでは、グラフェンの超伝導がトポロジカルで、量子コンピューターに必要とされる特性をも持ち合わせている可能性が示されています。

最も重いクオークと共に現れたヒッグス粒子

2012年にヒッグス粒子が検出された後、次の目標となっていたのが、その行動が予想どおりであるかを確かめることです。

欧州原子核研究機構(=CERN)でそのための実験が2回行なわれ、最も重いクオークとヒッグス粒子の相互作用が5σ(シグマ)の統計的確かさで観測されています。

陽子と陽子の衝突を解析し、CMSとATLASは、どれくらいの頻度トップクォークと反トップクォークと共にヒッグス粒子が生み出されるのかを計測することによって、トップクォークとヒッグス粒子の相互作用の強さを決定しました。

同様の共同作業によって、後ほどヒッグス粒子のボトムクオークへの崩壊が観測されたことが報告されました。この崩壊は、ヒッグス粒子の崩壊においては最も頻度の高いものですが、見つけるのは非常に困難でした。

というのも、通常の実験で生み出されるボトムクオークのバックグラウンドノイズが多く混ざるからです。今までのところ、すべての観測結果は量子論の標準模型の範囲内に収まっています。しかし、残る不確かさによって、新たな物理学への道も開かれています。

ひっくり返されまくる暗黒物質理論

暗黒物質界隈では、今年多くのちゃぶ台返しがありました。

暗黒物質候補として最も注目されていたWIMPsの落胆する結果とともに、WIMP以外の候補が競争のトップに躍り出ました。その一つが原始ブラックホールです。

LIGO-Virgoによるブラックホール融合の観測を機に多くの注目を集めましたが、超新星に対する重力レンズ効果を見た研究で、ブラックホールによってすべての暗黒物質を説明することができないことが分かり、勢いは止まりました。

今年の収穫の一つは、宇宙初期における水素ガスからの吸光シグナルが予想外のものだったことです。この観測を説明するために、理論家によって「水素ガスが冷やされたのは、暗黒物質との相互作用があったからである」という説が提唱されています。

一つの可能性として、暗黒物質は非常に小さな電荷を持っているのかも…。

人工衛星を介した量子暗号通信

中国とオーストラリアの研究者たちが、量子暗号によって守られた「衛星を介した大陸間ビデオ会議」に初めて成功しました。

データの安全性は量子鍵配送(QKD)によって実現されます。QKDでは量子もつれ状態の光子がエンコードの鍵となっています。長距離QKDはこれまでは地上の光ファイバーネットワークを使ってテストされていましたが、ファイバー内での光子の消失によって通信距離は数百キロの範囲に限定されていました。宇宙空間での光子伝播の保存性を利用して、衛星による実験は7600km離れた2つの地上局で行なわれています。

秘密鍵をキロヘルツの帯域で交換することで、量子暗号化された画像を送ることができ、75分間の安全なビデオ会議を続けることができました。

そのデータ量は2ギガバイト。地上局と衛星による世界規模のネットワークで「量子インターネット」を構築することを思い描いている人たちにとって、この成果は良いニュースとなりました。

ニュートリノの謎がまた増える

イリノイ州のフェルミ研究所で行なわれているMiniBooNE実験で、ニュートリノの知られている3つのフレーバーを含む振動とは相容れない信号を検出しました。

液体シンチレーターニュートリノ検出器(LSND)の初期の結果と高い統計的な確度で一致していることから、この発見は、ミューニュートリノが思われていたよりもずっと短い距離で電子ニュートリノに変化できることを示唆しています。

MiniBooNEとLSNDの結果はいずれも、重力としか相互作用しない4番目の「無感」ニュートリノを含む説で説明できます。無感ニュートリノの仮説は、加速器や原子炉から生み出されたニュートリノの結果には一致しないため、深刻な傷を負っていました。

この新たなMiniBooNEの結果は、無感ニュートリノの存在についての議論を再燃させています。無感ニュートリノは暗黒物質である可能性や、宇宙の物質-反物質非対称を説明できる可能性を持っています。

600億RPMでの超速回転

600億RPMで回転するコマを使ったゲームを想像してください。

2つの独立した研究チームが、このスピードで物体を回転させる世界記録を樹立しました。

研究を行ったのは、チューリッヒ工科大学のチームと、インディアナ州のパデュー大学のチームです。周期的に偏光が変わる光を使って電場を回転させ、ナノスケールの物質をスピンさせました。このスピードがもたらす遠心力は、二酸化ケイ素製のコマを散り散りに壊すため、ナノマシンに使う部品の耐久テストに使えると言います。

また、検出の難しい量子ゆらぎによっておこる回転力であるカシミールトルクの研究にも応用できる可能性があります。

SIがキログラム原器を取り下げる

計測のための単位は歴史的には実体のある物質が元になっていました。たとえばある個人の手や、水の体積、金属の塊などです。

しかし、これらの物体は時間経過や場所によって変化する可能性があります。そのため、国際度量衡コミュニティーは11月、もっと普遍的に使える国際単位系を適用するための投票を行いました。

これで影響を受けるのは4つの単位、キログラム(kg)、アンペア(A)、ケルビン(K)、モル(mol)で、すべてプランク定数や電気素量のような基本的な物理定数で定義されることになります。

しかし、体重計や体温計と言った身の回りの計測機器が誤作動するようなことはないので安心してください。

お役御免となって割を食うのは、ながらく世界の質量基準となっていた、パリに保存されているプラチナとイリジウムでできた円筒形の国際キログラム原器だけですから…。

原子レベルでの結晶の成長動画

電子顕微鏡はこの数十年の間、原子や分子の素晴らしい画像を生み出してきました。このナノワイヤーが原子の層を一層づつ成長させていく映像は、最もソーシャルメディアで拡散された人気のある映像の一つです。

それも、この映像が、まるで世界一小さな動作中の3Dプリンターを見ているようだったからかもしれません。どのようにして液体から結晶へと成長中に原子が自らの場所を定めるのかを理解するために、フランスの研究者たちは、透過型電子顕微鏡を使って観察を行いました。

液滴とは、金が飽和したもので、ガリウムとヒ化物の原子に溶け込んでいます。映像では、液滴の下部から原子が抽出されて、液面と固体面の境界の一つの角に足がかりを作っているのが分かります。その足場には新しい原子が加わって結晶層をが作られ、表面上を広がります。

ニットの公式

編み物用の糸は伸びませんが、編み物のセーターはとても伸びます。

矛盾しているようで面白いのですが、パリとリヨンの高等師範学校の物理学者たちが、この編み物が伸びる過程を研究しました。

研究チームは、ナイロンで編まれた織物に、制御された張力を掛けて調査し、観察した素材の持つ特徴を表す、数個の単純な数式を思いつきました。以前も別の研究者によって編み物の伸びが編み目の糸の滑りと、編み目そのものが歪むことで起きていることが示されていました。

しかし、新しい数式は、どのような縫い目パターンにも適応でき、その過程を量的に説明できます。

チームはこの結果が、スマート織物を開発するエンジニアの役に立つと考えているとのこと。

量子力学にポエム表現!?

Credit: Amy Catanzano; ASP/Alan Stonebraker

異なる状態が同時に存在したり、離れた場所で同時に変化が起きたり――。そのような通常の物理法則では説明のできない事柄は、恐らく普通の言葉では説明できないのかもしれません。

そのような奇妙な量子論的世界の表現方法については、研究者だけでなく、芸術家たちも同様に挑戦し続けています

そんな芸術家の一人、詩人のエイミー・カタンザノ氏は、量子力学の複雑な概念を伝えるためのより効果的な言語を生み出すツールとして「詩」が使えると考えつきました。

今年、彼女はこのアイディアを実践に移し、4つの量子ビットからなるトポロジカル量子コンピュータについての詩を考案。この詩は量子コンピュータの背後にある量子論を、単語の選び方と構造で翻訳しようとする試みです。

この詩が研究の場で採用されるかはわかりませんが、専門外や一般の人々が、奇妙な量子的世界を知るきっかけを提供する役割はありそうです。

ブラックホールに飛び込んだ物質は「未来の宇宙」に放出されるという新理論が発表

reference: ASP Physics / written by SENPAI

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