宇宙誕生の謎を「超流動性」によって説明できるかもしれない研究

space 2019/01/20

Point
■宇宙の初期状態は安定した対称性を維持していたが、対称性が破れることで現在のような複雑な宇宙が生まれた
■対称性を破る原因として考えられるのが、位相欠陥で「半量子渦」と「ヒモ境界を持った壁」が知られている
■ヘリウムを極低温の超流動性にして相転移させる実験で、この2つの位相欠陥が相転移後も維持されることが示された

現在の宇宙ができる前は、全ては超高温で高密度の状態で完全なバランスを保っていました。

私たちの知る「粒子」はどこにもなく、星も、真空さえもありません。宇宙は均質で形のない圧縮された何かで満たされていたのです。そこに、何かが滑り込みました。均質な安定性は不安定へと変化し、物質が反物質を凌駕して宇宙を満たしました。物質の雲が形成され星が生まれ、銀河が生まれ、私たちの知るすべてのものが生まれたのです。

では一様な安定形状態から宇宙が放り出された時、一体何が起こったのでしょうか?科学者たちにとっても、それははっきりしていません。しかし、初期宇宙に不安定を引き起こしたある種の欠陥を、実験室内でモデル化する新しい方法を研究者たちは見つけています。「Nature Communications」に掲載された新たな論文では、アールト大学で行われた研究で、極低温ヘリウムを使って宇宙の初期状態をモデル化できたことが示されています。ビックバン後に存在したと思われる条件の組み合わせを再現できる可能性があるのです。

Half-quantum vortices and walls bounded by strings in the polar-distorted phases of topological superfluid 3He
https://www.nature.com/articles/s41467-018-08204-8

対称性破る「位相欠陥」

この研究が重要なのは、宇宙には、物理学者たちが「対称性」と呼んでいる均衡を保とうとする力が働いているからです。たとえば、物理の公式は時間を進めた場合と、巻き戻した場合の両方で同じように働く時間反転対称性を持ちます。また、宇宙に存在する正の荷電を持つ粒子は、すべての負の電荷を打ち消すのにちょうど良い数存在します。

しかし、対称性が破れることもあります。磁石の2つの極はN極とS極に別れます。初期の宇宙では物質が反物質を圧倒して駆逐しました。初期宇宙の不定形からは固有の素粒子が現れ、個別の力によって相互作用しています。

ビッグバンで宇宙が生まれたとすると、何らかの対称性の破れによる移行が起こっていることは間違いありません。その証拠に、現宇宙は均質な虚無ではなく、複雑性を持った物質の溢れる世界になっています。

対称性を破るランダム性のある変動を物理学者たちは「位相欠陥」と呼んでいます。ある種の特別な位相欠陥が初期宇宙の不定形な物のなかにあって、最初の対称性を破る移行につながった可能性があると考えている研究者がいます。

この欠陥には、「半量子渦」と、「ヒモ境界を持った壁」の2つの構造があると考えられています。これらの構造が自発的に現れて、対称性を持つ系の物質の流れに影響を及ぼし、星や銀河と言ったものをつなぎとめる役割をしているのではないかと、疑っているのです。

実験で相転移を生き延びた半量子渦

これまでの研究では、これらの欠陥の内1つを、極低温ガスと磁場によって実験的に作ることに成功しています。しかし、理論的には、複合的な欠陥が、現宇宙の形成には必要であると考えられているのです。

新たな実験では、絶対零度の数分の1度という極低温のヘリウムを使って、チャンバー内で圧力をかけました。すると、この小さな光の入らない箱の極低温ヘリウムに、半量子渦が現れます。次に、ヘリウムの状態を変えることで、粘性のない液状である2つの超流動相の間で一連の相転移を起こしました。相転移とは液体の水が氷や水蒸気に変わる時の変化です。

相転移は対称性の破れを引き起こします。例えば、液体の水では、水分子が自由に異なる方向へ向くことができますが、凍らせると、分子の向きと位置は固定されます。似たような対称性の破れが超流動相の相転移でも起こるのです。

超流動性ヘリウムは相転移した後も、壁によって守られることで渦は維持されていました。つまり、渦と壁が複合的な位相欠陥を形成し、対称性を破る相転移を生き延びたのです。これは理論によって初期の宇宙に起こることとして示された欠陥を反映していると、研究者は記しています。

この研究によって、初期の宇宙における対称性の破れを説明できるかと言われると、決してそうではありません。どのように初期宇宙が形成されたのかという、ある大統一理論の一側面を研究室内で再現できたに過ぎないのです。こういった理論で、物理学者たちの支持を広く集めるものはありません。

 

しかし、ビックバン後の瞬間を形作るのに、位相欠陥が働きの有無を研究する可能性の扉を開いたのは間違いありません。はたして、初期宇宙における対称性の破れはどのようにして生まれたのでしょうか。小さな量子の振る舞いの研究が、巨大な宇宙の根本原理を完全に解明できる日はくるのでしょうか。

「宇宙は存在しない」。物理学者が「反物質」を調べた結果、驚くべき事実がわかる

reference: Space.com / written by SENPAI

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