人類進化の過程で「精神病」が残り続ける理由

life 2019/03/11
Point
■精神病が人類進化の過程で生き残り続けているのは、生存において利益があるから
■マイナスな感情は、うまくいかない目標から一度身を離し、戦略を変えたりエネルギーを保存したりするのに役立つ
■遺伝子由来の疾患である「双極性障害」は子孫を減らすのではなく、逆に繁栄を促進した可能性がある

精神病は、人類が繁栄し続ける上で「必要」なのでしょうか?

アリゾナ州立大学の精神科医であるランドルフ・ネッセ氏は、進化の過程で精神病が生き残り続けている理由について、「人類にとって有益であるからだ」と答えました。

プラスに働く「マイナス感情」

現代、アメリカではおよそ5人に1人が精神疾患を患っており、私たちも生きていれば1度は何らかの精神病にかかると言われています。精神病には、心精神的な不安定性や行動意欲の減退、また最悪の場合は患者を自殺に追い込むこともあるほどです。

しかし、ネッセ氏によると、よく見られる「不安症」や「うつ病」は、進化の過程で人に有益に働いていたとのこと。同氏の著書『Good Reasons for Bad Feelings』の中では、マイナス感情における2つの有益な理由が説明されています。

1つ目は、「不利益な状況から身を離して、現在の戦略を変更させること」です。うまくいかないことばかりに没頭していると人は生きてはいけません。例えば大昔から人類は、狩猟にせよ採集にせよ、最初のターゲットを捕まえられなければ、別の動物や果実に狙いを変更します。

つまり、うまくいかない時に生じる「マイナス感情」は、切り替えをするための合図というわけなのです。

それから2つ目は「無駄な労力を費やさず、エネルギーを保存すること」です。これも同じようなことですが、エネルギーの無駄な消費は、種の生存において大きな損失となります。現時点で、目標達成の力が不足していれば、ハードルを少し下げてゴールを変更し直す方が得策でしょう。

要するに、マイナスな感情は、生存への立派な適応行動として機能しているのです。

「自然選択」で残り続けた精神病の遺伝子

一方で「不安症」や「うつ病」とは異なり、人間の心理とは関係なく残存している精神病があります。「統合失調症」や「自閉症」「双極性障害」などがそれに当たり、これらは主に親からの遺伝によって発症するものです。

ネッセ氏は「精神疾患に関する遺伝子が、自然選択によって消滅しなかったということは、人類にとって何らかの利益があったからだ」と指摘します。

生物にとって一番の関心は、子孫を繁栄させ、後世にバトンを繋いでいくことでしょう。その中で、遺伝子由来の精神病が子孫の数に悪い影響を与えた例はほとんど確認されていません。むしろ、遺伝子的な疾患が子孫の繁栄を促すことも考えられるのです。

例えば「双極性障害」は、うつ病のように気が沈む状態から、躁状態へと一挙に気分が上がる状態を繰り返すものです。これを受けて、ネッセ氏は「気分の低下から上昇の間に、子孫繁栄に繋がるチャンスを得た事例もあるのでは」と推測しています。

医薬品の使用は天秤にかけて「利益」の大きい方を

ただ、マイナスな感情がプラスに働くからといって「精神安定剤や抗うつ剤などを用いるべきではない」と言う訳ではありません。

これは、熱や風邪のような病における対処法と同じで、身体自身に備わる「防衛機制」…咳や熱、下痢、嘔吐…に任せるか、「医薬品」を使って治療するべきかは、より利益の大きい方を選ばなければなりません。

軽い不安症程度であれば、そのまま放っておいても気持ちのリセットになりえます。ただ、重度の精神病の場合は、精神安定剤などを使って対処する方が命を守る手段として圧倒的に利益が大きいでしょう。

精神疾患を宣告されると「自分は異常だ」と不安がる患者が多いのですが、ネガティブな心理が私たちを助けてくれることも多分にあるのです。ネッセ氏は精神病について「あなたの中で何かが壊れていくのではなく、心があなた自身に語りかけようとしている証だ」と話しています。

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reference: scientificamerican / written & text by くらのすけ

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