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身体が”同時”を認識するメカニズム明らかに オフサイドの誤審がなくなるかも…

2021.01.27 Wednesday

2019.03.10 Sunday

Point
■主観的な「現在」を認識する仕組みが明らかになる
■同時に見えたと感じる時刻は、その出来事が光か音かによって異なることが判明

人はどうやって複数の感覚から「同時」を感じているのでしょうか?私たちの身体は、どうやってタイミングを共有しているのでしょうか?

今回そのメカニズムの一部を、産業技術総合研究所と東京大学の研究チームが解明しました。

チームによると、脳内にある処理の異なる複数の感覚情報が統合され「主観的な現在」が構築される仕組みがわかりました。この研究は国際科学雑誌Scientific Reprtsに掲載されています。

Distinct mechanisms of temporal binding in generalized and cross-modal flash-lag effects
https://www.nature.com/articles/s41598-019-40370-7

このちょっと哲学的に見える命題は、案外身近なところでも私達に関係があるようです。

”オフサイド”誤審の原因は「同時」の認識に対する錯覚だった……?

サッカーの審判は、フィールド半ばから、選手が前線の味方へロングパスを蹴るタイミングと、相手ゴール側へ走りロングパスを受け取ろうとする選手を見る必要があります。

味方からパスを出されるタイミングで、ゴール側へ走る前線のプレイヤーがオフサイドの位置にいないかを見極めないといけないからです。

産総研のプレスリリースで紹介されているサッカーの誤審のメカニズム Credit:産総研

しかし人は動いている物を、その動きの数瞬先の位置にあるように見えてしまうというものがあります。この効果を「フラッシュラグ」といい、錯覚の一種です。これにより、オフサイドの位置にまだいないはずの前線の選手がオフサイドの位置にいるように見え、誤審を誘発します。

このフラッシュラグ効果をヒントに、人が処理の異なる複数の感覚情報をまとめてどう同時を判断しているのか調べるため実験を行いました。実験は以下のような手順で行われました。

①2秒の映像を見る。途中一瞬だけフラッシュか音が発生するようになっている。
②「フラッシュや音が発生していた時の映像がどんな絵面だったか」を映像再生後に2択から答える
③複数の回答から同時に見えたと感じる映像中のタイミングの統計を取った
実験に使われた映像。棒の傾き・顔の向き・人相それぞれ変化し続ける映像の中で一瞬だけ白丸のフラッシュが光るようになっている。Credit:産総研

映像は3種類あり、左右に傾く棒の映像、顔の向きが左右に変化する映像、ある人物から異なる人物へ顔がモーフィング操作によってなめらかに変化する画像が用意されていました。実験用の映像はYoutubeから確認できます。

実験の結果、棒の傾きの映像はフラッシュ光の出現の後のタイミングが「同時であった」と判断され、実際より進んで見える「フラッシュラグ効果」が表れていることが分かりました。

しかし、顔の向きの映像ではフラッシュ光の出現とほぼ同じタイミングが、顔の識別の映像ではなんとフラッシュ光の出現より前の時刻が「同時であった」と判断されていることがわかりました。したがって、フラッシュ光に対しては映像の種類によって全く異なる時刻の映像が「同時」と判断されることが明らかになりました。

このことから、視覚と視覚の同一感覚から得られた複数の情報を統合して時間を判断する場合、映像の種類が違うと脳が必要とする処理時間が違うため、異なる時刻の映像を同時と判断していると考えられるようになりました。また、視覚と聴覚から得られた情報は直接統合できず、同時と感じる仕組みが異なると分かったそうです。

今後この仕組が解明されることで、ヒューマンエラー防止の技術に応用できる研究チームは考えています。

誤審もまさにヒューマンエラーなんですね。将来、試合展開を妨害しない的確な判定に期待が高まります!

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reference: aist.go / written by 白大根

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