陶器を見る目の動きから、視覚・認知・道具の平行進化が明らかに

science_technology 2019/03/12
Credit: CSIC / 左から古い順。視線の動きが水平から垂直に変化。
Point
■陶器を見る時の視覚反応から、認知プロセス・物質的発展・社会の複雑さが、平行に進化してきた可能性が浮上
■それぞれの陶器形式における視覚的特徴が、異なる視覚反応を生むことが分かった
■道具や芸術品を作ったり使ったりする中で、神経回路が修正される

人の視覚・認知・道具—。これら三者は、足並み揃えて発展してきたのかもしれません。

ある研究チームが、先史時代に作られた陶器を見る時の人々の視覚反応を調べ、ヒトの視覚行動が、これらの道具や芸術品を作り出す複雑な社会の進化を促した進化傾向と、同じ進化傾向に従って発達したことを明らかにしました。

研究チームは、文化や社会生活が認知に影響を与えると仮定。ヒトの目の動きが、認知プロセス・物質的発展・社会の複雑さと平行に進化してきたことを示すのではないかと考えました。古人類学・考古学・社会学・人類学を組み合わせたこうした新分野は、neuroarchaeologyと呼ばれています。論文は、雑誌「Scientific Reports」に掲載されています。

Coevolution of visual behaviour, the material world and social complexity, depicted by the eye-tracking of archaeological objects in humans
https://www.nature.com/articles/s41598-019-39661-w

新しい道具が神経地図を書き換えた

被験者の数は113名。被験者の目の動きを追跡することで、その視線の進路を分析しました。対象にした陶器は、さまざまな社会で作られたもので、形式もバラバラ。新石器時代から鉄器時代にいたるまでの約4千年の間に製造され、ヨーロッパ中に見られる鐘状ビーカーを含む陶器形式を代表するものでした。研究チームは陶器を、それを作った人々が生きた物質的世界を構成する重要な要素の一つとして考えました。

その結果、それぞれの陶器形式における視覚的特徴が、異なる視覚反応を生むことが明らかになりました。たとえば、もっとも古い時代に作られた陶器では、視線が水平方向に移動するのに対し、社会がより複雑化した後の時代に作られた陶器では、視線が垂直方向に移動することが分かったのです。

私たちの脳には、個人空間や近位空間(手が届くまでの範囲の空間)を表す神経回路、つまり地図が存在しており、これらの回路が私たちの社会や環境への関わり方を決定します。調査を通して、これらの神経表現が、道具や芸術品を作ったり使ったりする中で修正されることが分かります。作り出された物は、神経地図にすぐに書き加えられ、まるで拡張機能であるかのように身体図式の一部になります。

切っても切れない知覚と形式の関係

このように、文化的変化と脳の柔軟性には、かなり密接な相互作用があるようです。文化的価値・信条・習慣の伝達を、脳が制御する仕組みについて、この発見は新しい示唆を与えてくれます。ヒトの視覚システムは、観察の対象物を積極的に内面化するだけでなく、観察する者と観察される物の間に知覚的関係を生みます。知覚と形式は、切っても切れない関係にあるのです。

この観点に立てば、陶器などの物の形とそれらが生む視覚反応のパターンが歴史とともに変化し、また、それらが社会の複雑さだけでなく人々の行動とも結びついていると言うことができます。

さらにこの研究は、人間生活の心理的側面において、テクノロジーがいかに重要な役割を担ってきたかも示しています。2020年までには、1千億個のセンサーが世界中に設置され、あらゆる種類の情報を集めて処理し、お互いの情報を交換しつつ巨大な脳のような機能を果たす時代が到来すると予測されています。社会がさらに複雑になったその時、今回の発見が役に立つ可能性は大きいでしょう。

「学習」で脳は一生変化し続けることが判明

reference: phys.org / translated & text by まりえってぃ

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