ウィルスを使った薬剤耐性菌の治療に世界で初めて成功

life 2019/05/09
Photo credit: naturalismus on Visualhunt.com / CC BY-SA
Point
■耐性菌は抗生物質で殺すことのできない細菌で、これまでその感染症に対して有効な治療法がなかった
■肺の移植によって、感染が広がった少女に対して、バクテリオファージを使った治療が行われた
■ファージは細菌に感染して殺すことができるが、治療は成功し少女は回復した

多剤耐性菌(スーパーバグ)の脅威に対抗する手段を人類は手にしたかもしれない。

イギリスで耐性菌に感染し生死をさまよった少女が、ウィルスの1種であるバクテリオファージを使った治療で見事回復した。

スーパーバグは抗生物質が効かず、人間にとって大変な脅威だったため、今後ファージ療法に多大な関心が集められるだろう。

今回の症例と治療は、5月8日付けで「Nature Medicine」で発表されている。

Engineered bacteriophages for treatment of a patient with a disseminated drug-resistant Mycobacterium abscessus
https://www.nature.com/articles/s41591-019-0437-z

遺伝病に立ち向かった17の少女と教授の出会い

患者はイザベラ・ホルダウェイさん。17歳の女性だ。嚢胞性繊維症という遺伝病を患っていたため、肺に粘液がたまって度々感染症を引き起こしていた。

8年もの間2種類の細菌に感染しており、肺の機能が3分の1似まで低下していたという。生き延びるために肺の移植を行ったのだが、その際、細菌の感染が他の臓器にも広がってしまったのだ。

イザベラの母親ジョーは、インターネットを使って治療法がないか探した結果、ファージ療法へと行き着いた。病院の相談員に相談すると、「それも手かもしれない」と言われたそうだ。

その病院には、30年以上に渡って15,000種類ものバクテリオファージを集めていたグラハム・ハトフル教授とつながりを持つ職員がいた。運良く、彼が治療への協力を引き受けてくれることになった。

ファージ療法が成功、副作用もなし

そこから効果的なファージを探す研究が始まった。ファージは細菌に感染して殺すが、感染できる細菌の種類が限られている。また、1つのファージだけで細菌を殺し尽くすこともできない。細菌が適応することがあるからだ。よって、感染菌に最適なファージの組み合わせを見つける必要がある

一回の実験には1週間かかる。イザベラが衰弱しきって自宅療養に移った直後に、ハトフル教授のチームは、病原菌を効果的に殺す1種類のファージと、感染するが効率の良くない2種類のファージを見つけた。後者の2つのファージについては、遺伝子を操作することで、殺菌力を上げることに成功している。これらを混ぜたカクテルを作って、治療の準備は整った。

イザベラは病院に戻り、いくつかの安全テストを受け後、一日2回、ファージカクテルの点滴を受ける治療が始まった。6週間後に肝臓をレントゲンで確認したところ、事実上病巣は消え、副作用もなかった。

治療はまだ続いているが、現在イザベラさんは学校へ戻り、アルバイトも始め、自動車学校にも通い始めているという。

だが今回の治療は臨床研究の一環として行われた治療ではないため、他の症例でも効果があるのか評価することはできない。治療法を確立するためにも、大規模な臨床試験を研究者たちは望んでいる。

ファージ療法の難点は、それぞれの患者に合わせてファージカクテルを作る必要があるところだ。最適なファージを見つける方法を自動化して効率化することができれば汎用性は高まるだろう。

 

人類への大きな脅威である耐性菌への有効な対応策が、実現可能であると示された。これは人類の未来にとって希望の光が生まれた、歴史的瞬間なのだ。

細菌の会話を「盗聴」して殺すウイルスが発見される

reference: The Guardian / written by SENPAI

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