世界初の快挙! 反物質を使った2重スリット実験に成功!

mathematics 2019/05/10
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Point

■反物質である「陽電子」を使って、量子力学の象徴的実験「二重スリット実験」を行うことに成功した

■保存さえ困難な反物質を使った物理実験は世界初の快挙

■反物質版「二重スリット実験」の成功により、反物質も「粒子」と「波」の2つの性質を持っていることが明らかとなった

「この世の全てを無に帰し、そして私も消えよう」――

どこぞのラスボスがつぶやきそうな台詞だが、正にこの台詞のような恐ろしい性質を持った物質がこの宇宙には存在する。それが反物質だ。

反物質は宇宙を構成する粒子とまったく正反対の性質を持っており、パートナーとなる粒子とくっつくとこの世界から完全に消滅してしまう(対消滅)。

このやっかいな性質のために、これまで反物質はまともな物理実験はおろか、保存しておくことさえままならない状況だった。

しかし、この度発表された研究では、この反物質を使って「二重スリット実験」という物理学においては非常に有名な実験を再現することに成功したというのだ。

これにより、謎に包まれた反物質も通常の粒子と同様に粒子性と波動性という2つの性質が備わっていることが明らかになった。

この研究報告は、スイスとイタリアの物理学者チームより発表され、5月3日付けでScience Advancesに掲載されている。

First demonstration of antimatter wave interferometry
https://advances.sciencemag.org/content/5/5/eaav7610

宇宙誕生の手がかり 反物質とは?

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「宇宙は無の中から生まれた」と聞いて、無から有が生まれるってどういうこと? と疑問を感じた人は多いだろう。反物質というのは、この何とも不思議な現象において重要な位置を占める存在だ。

素粒子の実験ではもはやお馴染みの大型粒子加速器で、高いエネルギーを持った2つの光子をぶつけると、何もない真空中から電子と陽電子というまったく反対の性質を持った2つの粒子が生まれる

これはいわば無に穴が空いた状態だ。高エネルギーの衝撃により、何もない真空からポロッと陽電子が抜け落ちる。するとそこには陽電子とまったく逆の性質を持った穴が残ることになる。この穴は電子として振る舞うことになる。

こうして安定した一枚の絵画のような状態の無から、ポロッとパズルのピースが抜け落ちるようにして、物質が誕生する。そして物質の誕生には必ずその抜け落ちた穴(抜け落ちたピース)という反物質が誕生するのだ。

これと同じ原理で、宇宙はビッグバンのエネルギーによって、何もない無から誕生したと考えられている。

しかしこの物質と反物質は、生まれてもすぐにまた結びついて元の何もない真空に戻ってしまう。そのためいつまで経っても現在のような物質だけの宇宙にはならない。

これは、長年物理学者たちの頭を悩ませてきた問題だ。しかし、最近の研究では反物質のほうが通常の物質より寿命が短いということが確認されており、そのために宇宙は徐々に物質だけで満たされるようになったと考えられている。

これを「CP対称性の破れ」という。2008年にこれに関連する研究で小林誠氏がノーベル物理学賞を受賞したので、「なんか聞いたことある」という人も多いだろう。

そんなわけで、反物質の分析は宇宙の誕生や成り立ちを探る上で非常に重要な研究なのだ。

少しずつ明らかになる反物質の性質

Doubleslit3Dspectrum
2重スリット実験 スペクトルイメージ
光子や電子などの素粒子は、粒子としての性質のほか波としての性質も持っている。それを示したのが有名な二重スリット実験だ。

光は2つの隙間を空けた衝立越しに照射すると、衝立の向こうのスクリーンに干渉縞という縞模様を残す。これは光が粒子としてではなく波として振る舞っている証拠だ。

この実験を89年に日立製作所が電子を一粒ずつ撃ち出すという方法で行ったところ、やはり同様にスクリーンの衝突跡が干渉縞になったという報告がある。

一粒と確認して撃ち出した電子でさえ、波として空間を伝わった痕跡を残すというのは、常識では考え難い結果だ。これは物理の基本的な実験であると同時に、量子力学のヘンテコさを象徴する重要な実験でもある。

そして今回は、この実験を反物質である「陽電子」を用いて行うことに成功したのだ。

反物質版の実験は、陽電子を低エネルギービームとして生成する方法で実現しており、光を使った実験のように単純な構造ではないのだが、原理としては通常の二重スリット実験と同じことを行っている。

その結果、反物質も通常の素粒子と同様、このおかしな量子力学の原理に従った性質を持っていることが判明したのだ。

物理においては、理論上は明確に予測できるような現象でも、実際に実験を行って確認されるまでは事実として受け入れてもらえない

アインシュタインの相対性理論も、観測によって実証されるまでは物理の世界では評価してもらうことができなかった。宇宙望遠鏡の名前にもなっているハッブルは、観測によって宇宙の膨張を証明した人物だ。

反物質が通常の粒子と同じように波の性質を持っているという報告は、一般の目線ではなんだか当たり前の事のようにも感じてしまう。しかし、反物質を使って実際に実験を行い、研究者たちが自身の目でその事実を確認したというのは物理学の世界ではとつもなく大きな意味があることなのだ。

 

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