非常に珍しい「地球に近づく銀河」の精密画像をNASAが公開

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■画像はハッブル宇宙望遠鏡により撮影されたM90の画像

■この天体は青方偏移という現象を起こしており、宇宙の大型の天体としては珍しく地球へ向かって接近するように動いている

■画像が階段状に途切れているのは、倍率の異なる4台の光検出器の合成画像のため

この画像は、天の川銀河から6000万光年離れた乙女座銀河団の銀河メシエ90だ。

画像は望遠鏡以外に惑星カメラから集められた赤外線、紫外線、可視光を組み合わせて詳細な画像として再現されている。画像の左上が階段状に途切れた形で生成されているのは、倍率の異なる検出器の画像を位置を調節して組み合わせているためだ。

この画像に映る銀河のスペクトルは、青方偏移を起こしていて、珍しいことに我々の銀河に向かって近づくように移動している

青方偏移は光のドップラー効果によって起こる現象で、これが観測されるということは、対象の天体が光速に近い速度で地球方向へ近づいている証拠になる。ではこの銀河はいずれ我々の天の川銀河とぶつかってしまうのだろうか?

この映像は、5月24日付けでNASAの公式サイトに掲載されている。

メシエ? ハッブル? 知ってるようで意外と知らない天文学者の偉業

Credits: NASA,R. Stoyan et al., Atlas of the Messier Objects

チャールズ・メシエは18世紀のフランスの天文学者だ。

メシエの名前を知らない人でも、「M78星雲」のような天体の名前に「M」のついたナンバーなら聞き覚えがあるだろう。

ウルトラマンの故郷にも使われている、天体名の「M」これこそが「メシエ」のことなのだ。

メシエはもともと熱心な彗星ハンターだったが、当時の天体望遠鏡は倍率がそれほど高くなかった。あるときメシエは、夜空に彗星のように星の光が滲んでいるが移動しない天体があることに気づいた。

そこでメシエは、彗星愛好家の仲間たちが、そんな天体と彗星を間違えて研究時間を無駄に浪費することの無いように、「彗星に似ているが彗星ではない天体」のカタログ編集に乗り出したのだ。

そうして彼が観測してカタログにまとめた天体は現在全部で110点に上り、それぞれに「M」のナンバーが付けられた。「M78星雲」というのはメシエ・カタログの78番目に記録されている天体ということなのだ。

有名なアンドロメダ銀河はM31だ。

ところで、アンドロメダにしろ、ウルトラマンの故郷にしろ、メシエの発見した天体の多くは実は銀河なのだが、なぜか星雲という表現が使われる。アンドロメダも銀河以外に大星雲という呼び方がされているのを聞いたことがあるだろう。

星雲と銀河が混同して使われているのには理由があり、実はメシエの時代には銀河は我々の属する「天の川銀河」以外存在しないとされていた。そのため、銀河のように見える星の滲んだ天体は全て星雲であると言われていたのだ。

これが、現在本当は銀河である天体が、星雲という呼び方もされてしまう原因だ。

Credit: Mt. Wilson Archive, Carnegie Institution of Washington

エドウィン・ハッブルについては、NASAが宇宙望遠鏡の名前に引用しているため、天文学の歴史をよく知らない人でも名前だけは聞いたことがあるだろう。

近代を代表する天文学者の彼だが、名前は知っていてもどんな偉業を成した人なのかは、意外と知らない人が多い。

実は天文学には二種類あり、ホーキング博士のような物理や数学によって宇宙の構造を予測する論理天文学(論理物理学)と、実際に観測して宇宙の構造を実証する観測天文学がある。ハッブルは観測天文学者だ。

そしてハッブルは、観測によって宇宙が膨張していることを証明した人だ。

宇宙は実は風船のように膨張を続けている。このことは今では有名な事実なので、聞いたことがある人は多いだろう。

これはもともとアインシュタインの重力理論から導き出された事実だったが、そんなことを言われても普通は信じられない。そして物理学という世界は、数学的には証明できても、実際実験や観測で証拠を示さないと、事実としては認めない決まりがある。

そこでハッブルは大気の影響の少ない高い山の上にある天文台で、天井を開いて寒さに震えながら天体観測を行い、宇宙膨張の証拠を集めたのだ。

天体観測というと、なんだかロマンあふれる素敵な印象があるが、本気の天体観測は大気の薄い極寒の高所で行う過酷で根気のいる作業なのだ。

光のドップラー効果

今回のNASAが公開したM90が地球へ向かっているという観測にしろ、ハッブルの行った宇宙の膨張にしろ、地球から観測しただけでなぜ天体の移動速度や方向がわかるのだろうか?

夜空の星を見ても、動いているかはさっぱりわからない。事実、アインシュタインもかつては「宇宙は静止している」と言っていた。もちろん後で訂正したが。

わずかな移動速度の場合、観測ではっきりとその移動を補足することは困難かもしれない。しかし、光速(秒速30万キロメートル)の何分の一というような、飛んでもない速度で地球から離れたり近づいたりしている天体については、ある現象を利用することで知ることができる。

それが光のドップラー効果だ。ドップラー効果については街で救急車に出会った際、近づいているときと、通り過ぎた後ではサイレンの音の高さが変わるという説明で耳にしている人が多いだろう。

音の高低は音の波長で決まっている。音を出すものがこちらに近づいていれば音の波長は縮まり、離れていけば音の波長が広がる。それで物理的に音の高さが変わるわけだ。

この効果は光にも適用できる。光も波の性質を持っており、波長が短いと青色に、波長が長いと赤色に見える

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光速に近い速さで遠ざかっていく天体を地球から観測すると、光の波長が伸びてその天体は赤色にずれて見える。逆に地球に近づく天体は波長が縮んで青色にずれて見えるのだ。

天文学者の間では、この効果についてこんなジョークがある。

先日、知り合いの天文学者が運転中に信号無視で警察に捕まったんだ。急いでいた彼はそこでこう言い訳した。
『僕の車は赤信号に向かって高速で移動していたから、青方偏移が起こって信号が青に見えてしまったんだ』
すると警察はこう言った。
『なら仕方ない。信号無視については見逃そう。代わりに時速2億キロメートルの速度違反だ』
ってね! HAHAHAHA! ゲッツ!

Credit:sunmusic

青方偏移を起こしている銀河

天体観測は単純に光だけを見ているわけではない。もっと細かな光のスペクトルという星の放つ電磁波の成分を分析している

物質は素材によって光の成分を吸収したり反射したりする。鉄はピカピカした灰色だが、土は茶色く見える。こういうのは全て物質がその成分に応じて光の一部を吸収しているためだ。

同じ方法で、光のスペクトルを分析すると、遠い天体の構成材料がわかるようになる。NASAが遠い天体の構成成分まで言及できるのはそのためだ。

同じ成分の天体を見比べたとき、片方が赤く見えた場合それはその天体がすごい速度で遠ざかっていることを意味している。ハッブルはこの方法で、地球から遠い天体ほど離れていくスピードが速いことを発見した。そして、それが宇宙膨張の証拠になったのだ。

Credits: NASA, ESA, STScI, and V. Rubin

今回NASAが公表したM90は、乙女座銀河団に属する銀河の1つだ。この天体は膨張する宇宙の中では珍しいことに青方偏移(ブルーシフト)を起こしており、地球へ非常に速い速度で近づいている状態にあるという。

では、いずれは我々の天の川銀河に到達するのだろうか?

実はそうではない。このM90は、乙女座銀河団が生み出す重力の特殊な軌道に乗っていて、その作用で地球方向へ加速されているそうなのだ。時間が経てばこの銀河は今度は地球から離れる方向へと加速されるだろう。

そして、乙女座銀河団全体は、やはり地球からは遠ざかるように移動しているという。

なんにせよ、膨張を続けるこの宇宙では、青方偏移を起こして観測される銀河というのは非常に珍しい状態だ。

NASAのページでは、今回のM90の他にもハッブル宇宙望遠鏡が撮影したメシエ・カタログの様々な天体写真が掲載されている。興味が湧いたならこの機会に覗いてみるのもいいだろう。

Hubble’s Messier Catalog

火星はもう水の惑星に戻せない? 大量の水が火星から消えた理由

reference:nasa,skyserver/written by KAIN
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