「暗黒物質が無い銀河」の謎、ついに解明される!

space 2019/06/05
Credit: Instituto de Astrofísica de Canarias

Point
■2018年の天体ミステリーと謳われNatureに掲載された『暗黒物質の無い銀河』について、これを観測した研究チームが完全に謎を解明したと発表した

■研究チームは、銀河の距離に依存するパラメータ全てに異常があることを発見し、銀河の距離について5つの独立した方法で再測定し直した

■これにより実は銀河の距離測定が誤っていたことが判明、距離を修正することで銀河の質量は当初の測定の約4分の1となり、全質量の大部分は暗黒物質で構成されていることが判明した

ポイントを読んだ段階で、おいおいがっかり記事かよと思ったあなた。残念ながらその通りだ。

銀河の星の質量から考えて、暗黒物質が存在しない、驚きの大発見と発表されていた銀河は、観測したチームにより「銀河の距離間違えちゃった、テヘペロ(・ω<)」と発表されて終わってしまった。

なんともひどいマッチポンプだ。しかし、こうした一連の騒動は、天文学において天体との距離の測定がいかに重要な意味を持つかということをよく表している。

NASAの発表などを連日見ていると、なんだか宇宙の果まで色々知った気になってしまうが、ほとんどの天体観測は実際地球から一切動かずに行っている

望遠鏡に届く遠い星の光だけで、一体どうやって天文学者たちは銀河の距離を測っているのだろうか?

今回は、このがっかりな報告に伴って、せっかくなのでそんな銀河の距離の測定について解説しよう。実は銀河の距離の測定を可能にしたのは、天文台に雇われていたパートタイマーのおばちゃんだったのだ。

ちなみに、今回の研究報告はスペイン・カナリア天体物理研究(IAC)の研究者グループより発表され、英国王立天文協会(MNRAS)の月報に掲載されている。

A distance of 13 Mpc resolves the claimed anomalies of the galaxy lacking dark matter
https://academic.oup.com/mnras/article-abstract/486/1/1192/5380810?redirectedFrom=fulltext

銀河の距離はどう測る?

銀河の距離の測定は、変光星と呼ばれる星を調べることで実現できる

変光星とは周期的に明るさが変化する天体のことだ。変光星が明るさを変える理由には、いくつか種類があるが、代表的な脈動変光星は星内部の核融合反応と星の重力のバランスが取れなくなっているために膨張収縮を繰り返して明るさを変化させている。

核融合が進むとエネルギーが外部へ発散され星の体積が膨らんでいく、すると密度が減って核融合反応が鈍くなり星は明るさを減じていく。大きく膨らみすぎると、今度は自身の重力によってだんだんと収縮していき、星の密度が上がって内部の核融合が活発化して明るく輝くようになる。

こんな調子で明るさを周期的に変化させるのだ。

Credit:国立科学博物館 Copyright (c) 1998-2008 National Museum of Nature and Science. All rights reserved.

ちなみに星が瞬いて見えるというのは、変光星とは何も関係はない。あれは単に星の光が地球の大気に揺らいでいるだけだ。変光星とは200日とか300日という周期で明るさを変化させていく星のことだ。

この変光星は変光周期によって絶対等級という星の本当の明るさが決まっている。つまり同じ周期で明るさの変化する星は、まったく同じ明るさをしているということなのだ。

そして変光周期が長くなるほど、星の明るさは強くなっていく。

Credit:国立科学博物館 Copyright (c) 1998-2008 National Museum of Nature and Science. All rights reserved.

この変光星は、同じ種類・周期であっても地球から見える明るさ(実視等級)が異なる場合がある。

周期が一緒で片方が見かけ上暗い変光星というのは、それだけ地球から遠い場所にあるということだ。この絶対等級に対して明るさが減じている割合によって、その星を含む銀河の距離が測定できるというわけだ。

しかし、この変光星の周期と明るさの関連性はどのようにして見つけ出されたのだろうか?

時給600円 最強パートタイマー

現代では確立されている銀河の距離の測定だが、20世紀初頭の天文学者たちにとって、遠い天体との距離測定は非常に頭の痛い問題の1つだった。

当時の天文学者たちは、発見されたマゼラン星雲やアンドロメダ大星雲(銀河)が、我々の属する天の川銀河の中にある天体なのか、それとも銀河の外にある天体なのか、それさえもさっぱりわからなかったのだ。

この問題に解決の光を与えたのが、アメリカの女性天文学者ヘンリエッタ・スワン・リービットだ。

Leavitt aavso

今では女性天文学者として伝えられている彼女だが、実はハーバード大学の天文台に時給30セントで雇われたパートタイマーのおばちゃんだった

天文台では毎日膨大な数の天体写真を撮影しているため、その天体写真の分析や管理が非常に大変な作業となっていた。これはきちんと整理してファイリングしなければ、たちまち何の記録なのかワケがわからなくなってしまう。

当初この仕事は、天文台の男性職員が務めていた。しかし、彼らの仕事はかなりずさんだったようだ。当時の天文台所長であったピッカリングはこのことにブチ切れて「うちのメイドの方がずっとマシな仕事をする!」と彼らを解雇してしまった。

そして、本当に自分の家のメイドを天体写真データの整理に雇ってしまったのだ。

だが、このメイドは思いの外いい仕事をした。

このことでピッカリングは、「女性は言われた通りに作業を正確にこなす上、しかも男より給料が安い」として、この天体写真の整理に男性職員を採用することはやめて、積極的に女性パートタイマーを雇うようになった。

そんな中で採用された女性パートタイマーが、リービットだ。20世紀初頭は女性の給料は男性の半分程度だった言われている。女性の社会進出には程遠い時代で、ピッカリングは当時の相場より高い給料を提示してリービットを雇ったというが、それでも現代の相場に直せば時給600円くらいのものだったようだ。

彼女は膨大な天体写真の中からセファイドと呼ばれる変光星を探し出してカタログを作るという作業に従事した。これは撮影された星の明るさを測り、日々の記録の中で明るさが変化しているかを確認して探し出すという、気の遠くなるような大変な作業だった。

しかし、リービットを始め女性パートタイマーたちは非常に勤勉に働いた。連日大量の天体写真を整理して変光星のカタログを作り続けていた彼女たちは、いつの間にやら現職の天文学者たちよりも変光星を見つけ出すのがうまくなってしまった

そしてあるとき、リービットは膨大な数の変光星を観察する中で、変光周期が長い星ほど明るく輝いており、そして変光周期が一致していると星の明るさが同じであるという相関関係に気付いたのだ。

天文学は地道な作業

Credit:maxpixel

リービットの地道な作業から見出された知見により、これまでまったくわからなかった遠い恒星と地球との距離が、変光星の明るさを確認できる6500万光年まで測定可能になった。

星を眺める天体観測は、ロマンあふれる職業にも思えるが、そこには様々な地道な苦労がある。

今回、暗黒物質が存在しないと勘違いされた銀河についても、精密な測定と計算の結果6400万光年と思われていた距離が、4200万光年であることが明らかとなり、銀河の質量についても修正されることとなった。

これにより、やはり暗黒物質は存在しているという結論に落ち着いたようだ。

この距離の測定ならば、リービットの発見した変光星を使った測定も活躍したことだろう。

今回のカナリア研究所の発表は間違いを修正するものとなったが、この研究は天体物理学において、銀河系距離の正確な測定がいかに重要であるかを示してくれている。そして、遠い天体の距離を測定することが、いかに困難な作業であるかということも伝えてくれている。

銀河の距離の測定に最初の光を与えたリービット。彼女の存在を知ったある数学者は「ノーベル賞候補者に推薦したいほど感銘を受けた」と語ったそうだ。

こんな天文学の歴史にも興味を抱いた人は、ぜひ『サイモン・シン筆 宇宙創生』を読んでみよう。

実はブラックホールは蒸発している!? 謎のホーキング放射の実態に迫る

reference:phys,国立科学博物館/written by KAIN

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