性行為は「伝染する恐怖の癌」を駆逐するための進化だったという新説が登場

biology 2019/06/07
©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

Point
■地上のほとんどの多細胞生物が行う性行為だが、しかしこれは繁殖の手段としては非常に効率が悪い

■性行為(有性生殖)による繁殖は環境や病気への耐性を作りやすく有益といわれるが、相手を見つけなければ子孫を残せないというコストに対して、見合うだけの有益な変異が起きやすいかというと、その考えには疑問が残る

■これに対して、性行為が多くの生物で選択された理由は、伝染性の癌を駆逐する目的だったとする新説が発表された

性行為を行わなければ増えることができない、という生物の仕組みについて疑問に思ったことはないだろうか?

世の中には、単一で増えることの可能な無性生殖の生物が数多く存在している。何百万年も性行為を拒否し続けて、子孫繁栄を成し遂げた彼らの方が明らかに生物としては優れているとは考えられないだろうか?

そもそも有性生殖は性行為をしてくれる相手を見つけないと子孫が残せない上、好ましい相手を見つけたとしても同性のペアだと増えることができない。しかも、性行為は生物としての義務ではなく、性行為を一切行わずに一生を終える個体も多く存在する。無性生殖に比べた場合、どう考えても性行為を伴う有性生殖は効率が悪く、子孫を作るメカニズムとして問題点が多い。多すぎる。どう考えてもおかしいじゃないか! 一人でする方がどう考えても生物として合理的だ。

…別に相手がいないから僻みでこんなことを言っているのではない。

これは純粋な科学的疑問なのだ。

では、なぜ多くの多細胞生物は現在性行為による繁殖という手段を採用しているのだろうか? 気持ち良いからだろうか? 当然そんなはずはない。

この疑問について、新説を提供する研究が発表されている。それによれば、性行為は伝染性の特殊な癌を駆逐するために採用された進化の結果だというのだ。

この研究はフランスのモンペリエ大学進化生物学の研究チームより発表され、PLOS Biologyに6月6日付けで掲載されている。

有性生殖は有益なのか?

Credit:maxpixel

この世の生物には、性行為によって増える有性生殖と、単体で分裂して増えていく無性生殖が存在する。

現在多くの仮説が、有性生殖は生物にとって有益であり有利に働くという考え方で一致している。

その仮説の1つが、無性生殖の場合に発生しうる有害な突然変異の蓄積を減少させるというものだ。

またさらに有名な仮説に、病原体や寄生虫に抵抗する新しい遺伝子を生み出しやすいという考え方がある。

しかし実際、有性生殖によって両者の長所のみを受け継いで有意な変異を起こす確率は非常に低く、また散発的なものだ。さらに有性生殖では、変異を蓄積しづらいという特徴もあり、これは有利な変異が起きやすいという考え方とは対立している。

どうも現在考えられている理由だけでは、ほとんどの多細胞生物が有性生殖を採用した説明に不十分なのだ

当然、有性生殖は単細胞から多細胞へと生物が進化した過程で必要になったために起こったと考えられる。では単細胞生物では問題にならず、多細胞になった際に発生した問題とは一体何であろうか?

それが癌細胞の存在だ。

癌とはなにか?

Credit:depositphotos

今さら改めて説明するまでもなく、癌の脅威は多くの人々が認知している問題だろう。

今回の研究は、性行為がこの癌の克服のために採用された手段であると語っている。

しかし当然、「性行為をしようがしまいが、現在癌は人類相手に猛威を奮っているではないか」と誰しも思うだろう。

そう、ここで研究者たちが語っている癌とは、普段我々が見聞きしている病気の癌とは少し性質が異なる。

個々人の間で起こる癌は、化学物質や放射線など特定の刺激を原因として遺伝情報が変異、破壊されることで発生する。そして癌細胞自体は決して珍しいものではなく、生物であれば普通に体内で発生している。通常悪性の癌へ発展しないのは、異常を来した細胞は排除されるメカニズムが生物に備わっているからだ。

癌細胞は免疫系に異物として排除される場合もあるし、アポトーシスという異常が発生した場合細胞が自殺を選択するという機構がある。こういったシステムを全てかいくぐったなりすまし細胞が悪性の癌となる。

こうした免疫系を欺瞞する癌細胞は、排除することが難しい。しかし、癌細胞が他人に伝染ることは通常ありえない。免疫は生物の個体ごとに存在し、自身の細胞と他人の細胞を区別しているからだ。臓器移植が難しい理由もここに起因する。

ところが世の中には、ウィルスのように単一種の癌細胞でありながら、別個体へと転移して延々と生き続ける恐るべき癌が存在するのだ。

恐怖の伝染する癌

遊星からの物体X (字幕版)

このモンスターパニック映画にでも出てきそうな伝染する寄生癌の存在は、現在哺乳類ではイヌとタスマニアデビルの2種だけに確認されている。

非常に稀な症例ではあるが、ウィルスのように別の個体へと伝染していく癌がいるのだ。

人間の場合でも、子宮頸癌がウィルス性の癌だという言い方をされる場合がある。しかし、これは子宮頸癌がウィルスの感染により発症リスクを高めているという意味で、癌自体が伝染しているわけではない。

伝染性の癌は、ウィルスなどを介するわけでもなく、自身の細胞が変異するわけでもなく、癌それ自体が宿主から宿主へと寄生虫のように伝播していく。

ちょっと考えただけでもかなり怖い存在だ。

そしてこの伝染する癌細胞が、大昔に生物が単細胞から多細胞生物へと進化した時代に、かなりの勢いで猛威を奮っていたのではないかと研究者たちは予想しているのだ。

単純な無性生殖の場合、新たに生まれた個体は同じ細胞から作られる。そのため癌細胞に侵されていた場合、癌は新しい個体にも容易に乗り移り、生存することが可能になる。

多細胞化した初期の生命たちは、この恐ろしいモンスターにかなり悩まされたと思われる。そして、彼らを排除するために、有性生殖を選択したのではないだろうか。

有性生殖による繁殖を繰り返せば、癌細胞は新しい宿主へ適応することがかなり困難になる

伝染性の癌に対する有性生殖での繁殖は、ウィルスへの抵抗獲得に比べずっと確実で強力な対抗処置なのだ。

性行為が世界を救う 駆逐された伝染性癌

こうして、生物は恐ろしいモンスターから解放された。

一部にまだ生き残りは存在しているようだが、人類を含む多くの生物の間で伝染する癌の脅威が問題にされることはほぼ無い。

それは性行為によって彼らが駆逐されてしまったからだ。

まさに性行為が世界を救ったということだ。

性行為の起源をこのように主張した研究はこれまでに無いと思われるが、研究者たちはこれが非常に理に適った考え方であると認めている。

イヌとタスマニアデビルに確認される伝染性の癌はかなり特殊なものと考えられる。彼らが未だに個体の免疫系を騙し生き続けている理由は現在も不明だ。しかし、これについては1つの癌が1万年以上も生き続けていることになる。

性行為がなければ、こんな奴らがそこら中に蔓延していたかもしれないのだ。

もちろんこれはまだ仮説だ。これを事実と証明することはかなりの困難なことだろう。しかし、こうした予想や仮説が立てられることは、将来多細胞生物の初期の状況を詳しく知る方法が見つかった場合に、進化の過程を検証する重要な指針の1つとなる。仮説がなければ新しい情報を検証することすらできないからだ。

昨今は性行為に関する話題に神経質な人たちが増え、高尚な科学の話しをしているにも関わらず、グーグル先生が「えっちなのはいけないと思います」と叱ってきたりする。

しかし性行為は生物にとって切っても切れない重要な話題だ。つまりこの研究で何が言いたいかというと、みんなもっとえっちな話題に寛容になりましょうということだ。

え? 違うの?

進化を迷走したカニ!?いろんな生物パーツを持つキメラの化石が発見される

reference:sciencealert,National Geographic / written by KAIN

SHARE

TAG