インカ帝国で初めて課税の記録と思われる「ヒモ」が見つかる

history_archeology 2019/06/13

Inca Quipu

Point
■文字文化を持たなかったインカ帝国だが、実は紐の結び目を利用したキープという道具で記録を残していた

■今回報告されているキープは、貯蔵庫から穀物の残骸と共に見つかっており、収穫物や貯蓄品から税を引いていた記録と考えられる

■これはインカ帝国が商品課税制度を持っていたことを具体的に示す最初の証拠になる

高度な文明を持っていたことで知られる南米のインカ帝国。しかし彼らは文字の文明を持っていなかったため、その多くが謎に包まれている。

だが発達した文明社会を持ちながら、一切記録方法を持たなかったというのは、少し違和感のある話しだ。

そこで注目されているのがキープと呼ばれる結びの目のある紐の束である。

大ヒットした映画『君の名は。』には伝統工芸として「組紐」が重要なアイテムとして登場したが、インカはまさにそんな色鮮やかな組紐を使って、思いを伝えあっている文明だったようなのだ。

キープは染色された紐の色と結び目の組み合わせで、文字に変わる多様な表現可能だ。これは公的な情報記録や帳簿、手紙としても利用されていたと考えられている。

今回報告されたのは、その発掘状況から収穫物に対する課税や貸借など複式簿記として使われていた可能性が高いというキープだ。

インカ帝国に税制度があったことは以前より予想されていたが、今回の発見は具体的な課税の帳簿記録と考えられ、インカ帝国の経済が具体的にどう動いていたかを知ることのできる初めての資料になる可能性が高い

この研究はハーバード大学を中心とした複数の国際的な研究チームにより発表され、Cambridge Coreに掲載されている。

文字のない文明 インカ帝国

ガイア幻想紀 © 2019 SQUARE ENIX CO.

1993年にエニックスから発売された『ガイア幻想紀』というゲームでは、インカ帝国は文字を持たなかったため風の音を使って後世に記録を伝えたというロマンチックな物語が描かれていた。

しかし実際のインカ帝国は染色された彩り豊かな紐を使い、その色と結び目を組み合わせて文字の代わりにしていたらしい。これがキープと呼ばれるインカの記録道具だ。

今回報告されたキープはインカ帝国の貯蔵施設の下から、ピーナッツやトウガラシなど地域の農作物の残骸に覆われる形で発見された。

状況から貯蔵されていた収穫物に対する記録と考えられ、また色や結び目の配置から貯蔵品に対する課税を行っていたのではないかと推測されている。

キープの表す数字の意味についてはある程度明らかになっており、結び位置に応じて特定の数字を示していると考えられている。

Credit:newscientist

明るい色のキープが足し算を、暗い色は引き算を表していると考えられ、それはある値から固定値を引いた計算記録のようになっていた。

堆積物の状態からは、トウガラシに対する税はピーナッツよりも低かったことが確認できるという。このことからインカ帝国は品目によって税率を変えていた可能性もある。これは農作物やその品質によって価値が異なっていたことを意味しているかもしれない。

もちろんこれらはまだ推測の段階の話しだ。キープについてはまだ完全な解読が完了したわけではなく、まだまだ多くの謎が残っている。

未知の古代言語はどうやって解読するのか?

古代言語の解読はとても骨の折れる作業だろうということは想像がつく。しかし、そもそも未知の言語とはどうやって解読していくのだろうか?

ここで少し古代言語の解読方法について解説してみよう。

実は古代言語の解読は、基本的には暗号文の解読と同じ手法によって解決されている

暗号文というと、私たちにもよく馴染みのある既存の文字を他人に読まれないよう変換したものだ。文字を全く別の記号に置き換えるというのは、非常にオーソドックスな暗号で、これは紀元前の英雄ジュリアス・シーザーも伝令に使っていたと言われている。

変換型の暗号文は基本的には、頻度分析という方法を使って解読される。この手法の非常にわかり易い例は、「シャーロック・ホームズ」に登場する「踊る人形」というエピソードだ。

この話の中で、ホームズは事件に関わる謎の暗号文を解読するのだが、その手段として文字の頻度分析が使われている。

Credit:青空文庫

この短い暗号文の中には、両腕を掲げた人形が4回以上登場している。実はアルファベットでもっとも多く登場する文字は「E」で短い文章の中でもたくさん見つかる。

ホームズはこの短い文章の中に何度も登場する記号が「E」に相当すると推理するのだ。

English-slf-ru
英文字の出現頻度
当てずっぽうのように感じるかもしれないが、これは暗号解読で非常に成功している解読方法である。

ホームズは「E」に相当する文字に見当を付けることで、事件に関係する「ELSIE(エルシィ)」という女性の名前を暗号文から見つけ出し、一気に暗号解読を進めることになる。

古代文字の解読についても、基本は同じことになる。つまりある文章の中で、頻繁に登場する文字、または単語を探しそれが意味するところを探り当てるのだ。

この方法で解読に成功した有名な古代文字がギリシア・クレタ島で見つかった線文字Bだ。

NAMA Linear B tablet of Pylos
線文字B
これは発見された文字の出現頻度と分布から母音に当たる文字を突き止めて、日本語の50音表に当たるものが作り出された。

これを元にクレタ島のクノッソスなどいくつかの有名な地名にあたる単語を発見することができ、一気に解読が進んだ。

線文字Bには語形の変化など複雑な問題があり、暗号解読よりはるかに困難な作業だったが、主に王宮の書記が行政記録のために使っていた文字のため、使用用途が限られていたことも解読を助けた要因だったようだ。

インカ帝国のキープについては、文字ではないためそのまま、暗号解読や言語解読の手法が使えるわけではないかもしれない。

しかし、どういったパターンがどういう頻度で登場するかという問題が、この謎の結び目を読み解く重要な鍵になるのだ。

解読の進むキープに期待

インカ帝国のキープは、思いの外幅広い使い方をされていた可能性があり、一部では書簡として使われたと思われるものも見つかっている。

キープのような古代の記録を解析するために重要なのは、年代がいつ頃のもので、何の記録であるかを正確に特定すること、また読解可能な媒体で同様の記録を見つけることだ。

皮肉なことに、インカ帝国にはこの国を滅ぼした侵略者のスペイン人の記録が多く残っており、キープの記録の中には、このスペイン人の記録と同じ内容やイベントを記録したものが存在している可能性がある。

スペイン語は当然読むことが可能なため、これをきっかけにした解読にも期待がかかっている。

すでにハーバード大学の学生が、スペインの記録とキープを比較して一部の解読に成功した研究も報告されている。

今回の発見は、明確に税や貸借の記録であると考えられており、穀物の堆積物などから記録された量とそれに対する税率などの計算も可能だという。

用途のはっきりした記録は、未知の言語の解読を一気に推し進める可能性がある。文字のなかったと言われるインカ帝国の詳しい姿が、ここから明らかになっていくかもしれない。

それにしても、インカ文明でさえ国民は税から逃れられなかったとは、なかなか世知辛いお話だ。

 

インカ文明の「穿頭手術」、その凄まじい成功率が明らかに

reference:Sciencenews,National Geographic/written by KAIN

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