自由に性別を変更できる日が来るかも!? 魚が性転換するメカニズムを解明

space 2019/07/11
©高橋留美子/小学館 NETFLIX

Point

■魚類には成魚となってから性転換可能な種が約500種も確認されている

■魚類の性転換は優勢な雄が存在しないなどの、環境ストレスをトリガーに、雌雄を逆転するよう発現遺伝子が切り替えられて起こっている

■魚類の性発達に重要な遺伝子は、その他の脊椎動物でも同様であり、性の決定・維持についての知見は様々な分野への応用が可能と考えられている

人間にとって性別は、一度決定されれば変更のできない絶対的なものだ。

自分の性別に違和感を感じ変換を求める人達も世の中にはいるが、生物学的に性別を変更することは現在の医学では実現できない。

だが、我々よりも進化系統上下等といわれる脊椎動物の「魚類」は、この問題を容易に解決しているのだ。

魚類には成魚となってからも、環境によって性別を変更できる非常に多くの種が確認されている

ハゼに至っては、一度性転換してから、元の性別に戻ることすらできる。

なぜ彼らは、そんな自在に性別を変更することができるのだろうか? 性転換するとき、彼らの身体にはどのような変化が起こっているのだろうか?

この魚の性転換について、その遺伝的な変化のメカニズムを解明したという研究が発表された。

この研究に関する論文は、ニュージーランドのオタゴ大学の研究チームにより発表され、7月10日付けでSciences Advances誌に掲載されている。

Stress, novel sex genes, and epigenetic reprogramming orchestrate socially controlled sex change
https://advances.sciencemag.org/content/5/7/eaaw7006

熱帯魚の性転換

今回の研究チームが着目したのは、熱帯魚の一周であるブルーヘッドだ。

ブルーヘッドはベラ科の魚で、雌雄の見分けが非常にわかりやすい。雄は大きな体に名前の由来である青い頭をしており、雌は小さく黄色い体をしている。

青い頭の雄(左上)と黄色い雌 Credit:Kevin Bryant

ブルーヘッドは、ハーレムから雄を取り出すと、残された雌の中で一番体の大きな個体が10日間ほどで新しい雄へと変化する

見た目の変化がわかりやすく、また性転換を起こす期間が短いために、この手の研究にはうってつけの魚なのだ。

研究チームはこの過程を観察し、性別の転移する期間中のブルーヘッドの生殖腺と脳を検査していった。

ストレスで発現遺伝子を再プログラミング

最初に訪れるのは性格的な変化だ。雄がいなくなると、最大の雌は攻撃的な性格を持つようになる。そして、徐々に雄の特徴である青い頭へと体色の変化を起こしていく。

これは、脳に分泌されたストレスホルモン「コルチゾール」の影響だという。

コルチゾールは雄特有の行動を促進し、さらに性腺にも関与して、女性ホルモンであるエストロゲンの生成を抑制する

エストロゲンは人間にとっても重要で、女性だと9歳頃から分泌され女性らしい体つきへの成長を助けるホルモンだ。

そして、こうした脳内の変化の他に、ブルーヘッドは遺伝子発現にも変化が現れてくるという。

生物の遺伝子は常に全ての要素が同じ様に発現して細胞を作り上げているわけではない。成長の段階や状況に応じて発現させる遺伝子を化学的な作用によって制御している。これを専門用語ではエピジェネティックという。

性転換を初めたブルーヘッドはこのエピジェネティックの機能を利用して、性別決定のために発現する遺伝子をリプログラミングして、卵巣を精巣へ作り変えてしまうのだ。

これらは連鎖反応で起こっていくという。まず雌の機能に重要な遺伝子を確実にオフにし、その後、雄の遺伝子がオンになるという。

Credit:Erica Todd

魚類はストレスのような外的要因が、性別維持に関わる遺伝子へ簡単に影響を与えるようだ。

性別は生物にとって絶対的なものではない可能性

Credit:depositphotos

この卵巣が精巣へと変化する遺伝子のリプログラミングについては、マウスを使った実験でも確認されている。

この様な研究の結果は、生物が生殖腺の機能を成人期まで男女どちらについても保持していることを示唆しており、魚類の性別逆転のメカニズムにも利用されているということだ。

性別を状況に応じて自由に変化させるという機能は、ブルーヘッドのような性別により役割の決まっている社会性の強い生物にとっては非常に合理的だと考えられる。

ブルーヘッドがより遺伝子を広げようと考えるならば、小さなときは雌として繁殖し、縄張りを守れるほど大きくなったら雄に切り替わって群れ(ハーレム)を引っ張っていけばいい。まさに両性のいいとこ取りだ。

こうした性転換の機構に関する研究は、交配戦略の知見を得るだけでなく、生物の性別を決定する複雑なメカニズムを解明し、様々な分野へ応用していくことが期待できる。

研究者たちが想定している研究の応用先は、水産養殖業への利益的な貢献が主なものになっているが、最終的には再生医療への応用も期待されている。

魚類の性発達に重要な遺伝子の多くは、人間を含むその他の生物においても重要なものであるという。魚類における性転換の仕組みを理解することは、魚以外の一般的な脊椎動物がどのように性を決定し維持しているかの解明にも利用できる。

そのうち、人間も若いうちは女性ですごし、年をとったら男性で生きるなど、ファッションの様に自由に性別を転換して暮らす時代が来るのかもしれない。

reference:phys,vice,日本生物工学会/ written by KAIN

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