赤は誰にでも同じ「赤」なのか? 脳卒中患者がもたらした新しい色の理解方法とは

brain 2019/09/06
Credit:depositphotos

Point

■脳卒中により言語に関わる左脳を損傷した患者に対して、色認識に関するテストが行われた

■患者は色を「赤」「青」などの名前で認識する能力を失っていたが、同じ「青」なら、階調が異なっていても同じ色として分類可能

■「白」「黒」「灰色」という色に付いては命名能力を維持しており、グレイスケールの識別は他の色と異なる方法で処理されている可能性がある

これ全部同じ色!? 絶対に脳が騙される「ムンカー錯視」がスゴイのでつくってみた

私はこの色を「赤」と呼んでいるけれど、他の人の見ている「赤」と同じ色なんだろうか? 呼び方が同じだから齟齬が無いだけで、実は全然違う色の世界を見ているんじゃないだろうか?

このような疑問は、誰もが一度は抱くと思います。

一体、私達はどのように色に名前を付けて分類しているのでしょうか? そのとき脳内ではどのようなプロセスが働いているのでしょうか?

今回この問題について、脳の言語システムに損傷を負った脳卒中患者から、新たな知見が見出されたという報告が発表されました。

それによると、言語で色名を認識できなくても、色調の変化や、同種の色の理解は可能なことや、「白」「黒」といった無彩色については、言語システムが損傷を負っていても問題なく色の名前を指摘できるというのです。

この研究は、フランス、ソルボンヌ大学の研究者を筆頭としたチームより発表され、2019年9月3日に生命科学分野の査読付き科学雑誌「Cell Reports」に掲載されています。

Color Categorization Independent of Color Naming
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(19)31026-5#%20

色とはなんなのか?

色収差/Credit:Deborah S Krolls/Wikipedia

私達が「色」と呼ぶものは、連続した階調スペクトルの1点に過ぎません。それは光の波長の変化から生まれるものであり、それぞれの色の間に明確な境界線は存在しないのです。

また色には、それぞれの色名に関連した概念的なカテゴリが存在し、同系統の色というグループ化がなされます。

この曖昧で複雑な色の認識と分類のプロセスがどのように脳内で行われているかは、神経医学や神経心理学の分野でもまだ完全には明らかにされていない問題です。

しかし多くの科学者たちは、こうした色の認識や分類に色の名前という言語システムが大きく関与しているだろうと考えており、実際それを裏付ける研究報告も存在しています。

色の認識には、視覚野から言語野を通じてなんらかの「トップダウン」入力が起こっており、その結果、私達は連続したスペクトルの1点でしかない特定の色について、それが赤のバリエーション(例えば、深紅、朱色、ピンク)であれば、赤色であると認識できるのです。

ところがこうした理解の仕方に、疑問を投げかける症例が見つかりました。

言語野に障害を負った患者の見る色の世界

RGB画像の色の構成とそれらのグレースケール/Credit:©Nevit Dilmen/Wikipedia

今回の研究の主役となる患者は、プライバシーの理由でイニシャルからRDSという名前で呼ばれています。

RDS氏は脳卒中により、言語を司る左脳に障害を残している患者です。彼は診断の結果、見た色が何色であるかを言語化する能力を失っていました

RDS氏にとっては不幸な出来事ですが、色の命名と分類の関係を確かめるには重要な症例です。医師たちは、彼の色の識別能力について、詳細なテストを行いました。

すると、彼は色名はわからずとも、階調が異なっていても同種の色は、同じグループであると認識することが出来たのです。また、異なる種類の色を見分けることにも問題はありませんでした。

さらに興味深いことに、彼は「白」「黒」「灰色」という色については、名前を指摘することができました。これは、グレースケールの識別は、他の色彩とは異なる方法で脳が処理を行っている可能性を示しています。

Salpétrière病院の神経心理学者Katarzynaは、「RDS氏が赤、青、緑といった有彩色には名前が付けられない状態なのに、対象的に白、黒、灰色の無彩色については一貫して名前をつけられることに驚いた」と述べています。

もちろんこれは、たった一人の患者を対象としたケーススタディに過ぎません。広く一般的に、今回のケースが適用可能なのかはまだ分かりません。

しかし、最初に述べたとおり、まだ十分に理解されていない神経科学の分野について、この症例は深い洞察を与えるものです。

また、色の問題だけでなく、私達の言語と視覚認識の間にある関連性についても、今回の報告は重要な知見をもたらしていると考えられます。

Credit:pixabay

モノクロームの映画は、色の濃淡だけで表現された世界ですが、私達はそんな映像から問題なく色彩豊かな世界をイメージし、鑑賞することが可能です。これもよくよく考えると、不思議なことのように思えます。こうした色認識に、今回の研究は何らかの解答を与えてくれるのかもしれません。

常人の100倍「色の数」が見える女性

reference:sciencealert/ written by KAIN

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