生命の根本原理「セントラルドグマ」を東大が理論的に解明!…一体何がすごいの?

biology 2019/10/03
Credit:カラー/Project Eva.

Point

■全ての生物の細胞内では、遺伝情報を担う分子(DNA)と触媒機能を担う分子(RNA)に役割が分化している。これを生命の基本原理「セントラルドグマ」と呼ぶ

■こうした役割分化は原始細胞には存在していなかったと考えられるが、役割分化が起きた理由については、これまで明確に説明されていなかった

■研究はこれを数学的理論でモデル化し、進化の過程をシミュレーションによって再現することに成功

「生物の遺伝情報はDNAに保存されている」ということは周知の事実ですが、DNA単体は実際何の働きもしていません

DNAは生命の設計図の格納場所でしかなく、実際それを元に細胞を作り出して生物を成立させるためには、この情報を転写して工場となる領域へ運び出しタンパク質を合成する触媒RNAが必要になるのです。

こうした「DNAからRNAを経てタンパク質を合成する」という一方向への情報の流れを、分子生物学では生命のもっとも基本的な原理として「セントラルドグマ」と呼んでいます

Credit:藤島皓介

これは、細胞内の分子が厳密に役割分担することで成立している生命活動のシステムですが、原始の生命では、細胞内にこうした役割分担は存在していなかったと考えられています。

では、一体どこから、どうやってこのような統制の取れた生命の基本原理「セントラルドグマ」は発生したのでしょうか?

新たに発表された研究では、この問題について、数学や物理学の基本原理である「対称性の自発的破れ」という考えから説明することに成功したといいます。

某アニメのように難解な用語が含まれる話ですが、一体どういうことなのか解説していきましょう。

この研究は、ニュージーランド・オークランド大学および、東京大学の研究者グループにより発表され、世界最古の学術雑誌「Proceedings of the Royal Society B (英国王立協会紀要)」に、10月2日付けで掲載されています。

The origin of the central dogma through conflicting multilevel selection
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2019.1359

「対称性の自発的破れ」とは?

今回の研究は、「対称性の破れ」という考え方が重要な意味を持っています。直感的には少し意味の取りづらいこの表現は、一体何を意味しているのでしょう?

科学における対称性とは、乱暴に言ってしまえば「結局同じことだから、別にどっちでもいいよ」という意味になります。

この世界に存在するあらゆるものは、基本的に対称構造を好みます。人間の顔や身体も、右と左に分けるとだいたい似たようなものになりますし、左右をひっくり返したからと言って、生命の機能に大きな異変が生じるとは想像しづらいでしょう。

Credit:Wikipedia Commons/Leonardo da Vinci

しかし、例えば心臓の位置は基本的に左寄りで存在しています。対称性が保たれるなら、心臓は別に右でも左でもどちらでも良いはずです。もしくはど真ん中でもいいでしょう。なぜ左に寄ったのでしょうか?

こうした本来どちらでも良かった(対称性を保っていた)ものが、どちらか一方に偏ってしまうことを対称性の破れと言います。

細胞の進化はどう起こったか?

Credit:pixabay

細胞内の分子は、遺伝情報を保管するDNAと、情報を複写・翻訳してタンパク質を作る触媒に役割が分化しています。

作られたタンパク質からDNAへ逆向きに情報が流れることはありません。

これは全ての地球生命に共通した仕組みで、生命の根本原理です。ところがこうした情報と機能の分業化が、どうして分子に発生したのかという問題はわかっておらず、それゆえ「ドグマ(教義)」と呼ばれています。

細胞内分子の役割分担は最初から存在していたものではありません。そのため原始生命の細胞では、分子は遺伝情報の保管と触媒をどちらも担っていたと考えられます。

それは、「どっちをやってもいいよ」と言われていた役割が、いつの間にか現在のように分子ごとに偏ってしまった状態と考えられます。これは、生命進化の中で起きた、対称性の破れです。

そこで今回の研究では、鋳型(DNA)としての役割も、触媒(RNA)としての役割もできる分子を含んだ原始細胞を想定しました。分子は鋳型となったほうがより多く自分の複製を作れるため、鋳型になる頻度を上昇させていき、触媒活性は最小化していきます

しかし、そうなると触媒が減り複製を作る効率は下がっていきます。一方細胞は複製を増やしたいので、分子の触媒活性を大きくしようと進化していくはずです

ちょっと細胞だとイメージが作りにくいので、これを会社に例えてみましょう

原始細胞という企業には、図面の管理をする設計職と、図面から物を作る製造職の社員(分子)がいます。会社は最初「好きな方の仕事をしていいよ」と言っていたのですが、設計職のほうが給料が良いので、社員はみんな設計職をやりたがりました。

設計職のイメージ。/Credit:depositphotos

しかし、全員設計では会社が回りません。会社は商品をガンガン製造したいので、設計職を減らして製造職の社員が多くなるように、徐々に調整を掛けていくようになります。

製造職のイメージ。/Credit:pixabay

こうなった場合、最終的にこの会社はどうなるか、ということを研究者たちは考えたのです。

そして研究者たちは、こうした矛盾した進化的傾向を、細胞と分子が持った場合の原始細胞モデルを使いシミュレーションを実施。その結果、そこには3種類の対称性の破れが発生したのです。

1つ目は、どちらをやってもいいと言われていた役割は、設計と製造で厳密に分化させられることになりました。

2つ目は、設計から製造へ異動となった場合、その社員はもう設計へ戻ることが会社から禁止されるようになりました。

3つ目に、これによって、設計よりも製造の社員のほうがずっと多い状態になっていったのです。

セントラルドグマの成立

研究者たちは、今回の結果を数理的理論を用いて解析しています。

その結果、触媒活性がたまたま少しだけ大きかった分子は、その性質をますます高めることになり、触媒活性が少し低かった分子はその性質をさらに下げて鋳型として特化していくことが示されたのです。

先の例のように、階層ごとに対立的な進化傾向を持った場合、それが「対称性の自発的破れ」をもたらし、分子生物学の基本原理「セントラルドグマ」を成立させるのです。

さらにこうした情報と機能の対称性の破れは、モデルとする原始細胞の分子数が大きくなると発生することが、理論的に示されました。

セントラルドグマは、一定以上の大きさを持った複雑な細胞が複製を続ける上での、必然として生じる現象だったのです。

Credit:depositphotos

この研究結果は、生命起源から辿った細胞進化の研究や、複製細胞の構築実験に新たな視点を与える重要なものです。

また、こうした一部だけが情報を保持し、他は増殖の機能を担うものに分化する生命システムは、社会性昆虫の女王アリや嬢王バチだけが子孫を作り、働きアリや働きバチは子孫を残さないといった、社会的な進化について考える場合にも役立つと考えられます。

この記事では会社に例えてみましたが、この研究は人間社会の進化を考える上でも、重要な視点をもたらすものかもしれません。

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