強靭すぎるクマムシ、ついに極限環境を生き抜くメカニズムが判明

biology 2019/10/05
Credit: depositphotos

Point

■極限環境におけるクマムシの高い生存能力を支えるタンパク質Dsupの働きのメカニズムが解明

■Dsupが細胞内のDNAとタンパク質の複合体クロマチンに結びつき、ヒドロキシルラジカルからDNAを保護する雲を形成する

お腹がキラキラ光るクマムシが発見される

クマムシは8本足を持つぷにぷにのゴム人形のような特徴的ルックスから、英語では“water bears”(海のクマ)や“moss piglets”(コケの子豚)といった愛称で呼ばれています。

ただ、クマムシのユニークさはその外見だけに留まりません。体長0.1〜1ミリメートルほどのこの小型無脊椎動物は、厳しい環境の中を生き抜くスーパーパワーを備えた極限環境生物なのです。

カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが、クマムシが極限環境の中で身を守る仕組みをこのほど明らかにしました。論文は、10月1日付けで雑誌「eLife」に掲載されました。

The tardigrade damage suppressor protein binds to nucleosomes and protects DNA from hydroxyl radicals
https://elifesciences.org/articles/47682

極寒にも放射線にも耐える強靭さ

クマムシは世界各地の山地や深海、そして南極の水環境に生息しています。その驚くべきタフさは、マイナス200という極寒の温度や、危険な化学物質にさらされようと決して揺らがないことが、数多くの研究で示されています。

2007年には、休眠状態のクマムシが欧州宇宙機関 (ESA) によって宇宙に打ち上げられましたが、真空状態で大量の放射線が降り注ぐ環境に耐え、地球に生還しました。

クマムシを搭載したESAの衛星フォトンM3のカプセル / Credit: ESA

また、今年2月に打ち上げられたイスラエルの民間プロジェクトによる月面探査気Beresheetの積荷の中にも、数千匹のクマムシが含まれていました。残念ながら着陸は失敗に終わりましたが、この強靭さですから、クラッシュ時の爆発を生き抜いた個体が1匹くらいは残っていても不思議ではありません。

特異なタンパク質Dsupが「保護用の雲」を形成

これまでの研究で、クマムシだけが持つDsup (Damage suppression protein) と呼ばれる特異なタンパク質の存在がすでに特定されていました。Dsupをヒトの細胞に加えると、細胞がX線から保護されることも分かっています。ですが、Dsupが一体どうやってこの特性を発揮しているのかは明らかになっていませんでした。

そこで研究チームは、さまざまな生化学の技術を用いて、極限環境におけるクマムシの生存能力の背景にあるDsupのメカニズムを調べることにしました。

調査の結果、研究チームはDsupが細胞内のDNAとタンパク質の複合体クロマチンに結びつくことを突き止めました。クロマチンに結びついたDsupは、X線が生むヒドロキシルラジカルからDNAを保護する雲を形成することで、細胞を守っていたのです。Dsupには2つのパーツがあり、1つがクロマチンに結びつく役目を、もう1つが保護用の雲を形成する役目を担っていました。

Credit: Carolina Chavez, Grisel Cruz-Becerra, Jia Fei, George A Kassavetis, James T Kadonaga

研究チームは、Dsupのこの機能は放射線からの保護だけを目的としたものではなく、クマムシの多くが生息するコケの多い環境でのヒドロキシラジカルに対する生存メカニズムではないかと考えています。コケが乾燥すると、クマムシは脱水症状により休眠状態(乾眠)に移行します。その間、Dsupによる保護が、生存を手助けするのです。

この研究は、極限環境で長く生存することができる動物の細胞の開発にも将来的に役立てることができるでしょう。また、医薬品開発のための培養細胞の耐久性と寿命の改善にも応用できるかもしれません。

クマムシを乗せた探査機が月に墜落! まさか月面で繁殖…?

reference: ucsdnews / written by まりえってぃ

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