大学教授が本気の数学理論を使ってゲーム内の最速宇宙記録を更新してしまう

fun 2019/10/04

Point

■広大な銀河を舞台にしたMMOスペース・アドベンチャー・ゲーム『Elite:Dangerous』で、銀河を股にかけたレースの最高記録が達成された

■このレースは太陽系Solから22000万光年離れたコロニア星系までの飛行時間を競うもので、新記録は1時間38分11秒となった

■このニュースの一番の驚きは、この記録を作ったのがテキサス大学の教授で、グラフ理論を使ったルート検索プログラムを自作することで最短ルートを見つけ出したということ

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ゲームにもかかわらずマップ内で遭難者が出たことでも有名な、『Elite:Dangerous』(E:D)で、またも次元を超えたニュースが話題になっています。

今回報道されているのは、太陽系Solからコロニア星系までの22000万光年の飛行時間を競うレースで、最速宇宙記録が塗り替えられたというものです。

これまで最短だった「CMDR St4r Fox」(CMDRはゲーム世界の宇宙船乗りたちの呼称、コマンダーと読む)の記録1時間50分32秒を約12分更新して、1時間38分11秒のワールドレコードを達成したのです。

「ゲームでしょ? それの何がすごいの?」とツッコミたくなる気持ちもわかりますが、このニュースで注目を集めているのは、この記録を作った人物が現職のテキサス大学コンピュータサイエンスの教授で、専門分野の知識をフル稼働させて、レースの最短ルートを計算したということです。

大学教授が本気出してゲームやってみた、というこのニュースは科学的にも興味深く、教授の所属するテキサス大学ダラス校が自ら公式サイトでこのニュースを報告しています。

UT Dallas Professor Sets Spaceflight Simulation Game World Record
https://www.utdallas.edu/magazine/11465/professor-wins-spaceflight-simulation-game-world-record/

大人気ない? 科学的テクニックを使ってゲーム記録更新

記録を作ったのはテキサス大学ダラス校の教授、Kevin Hamlen博士と、副操縦士を努めた彼の6歳の息子Will君のコンビです。

ゲーム内の宇宙で最短で移動するなんて、目的地まで真っ直ぐ飛べば良いんじゃないの? とゲームを知らない人間は安易に考えてしまいそうですが、「E:D」は非常にシビアに作られているゲームです。

ゲーム内におけるワープ航法「Frame Shift Drive(FSD)」を利用するには、途中の経路に障害物がなく、1回のワープで飛行できる距離は燃料に依存するなど、色々と利用に制約があります。

そのため、数々の設定可能なワープポイントを経由し、燃料の補給も適切に行いながら、着実に目的地へ近づいていくという作業が必要になるのです。

こうした形式で、目的地への最短ルートを計算する方法はグラフ理論の最短経路問題として考えることができます

グラフというのは、頂点とそれを結ぶ経路(パス)で構成された図形のことで、グラフ理論の最短経路問題は、それぞれの経路に距離や移動時間、移動に要する燃料などで重み付けをして、最小コストの移動経路を発見するという離散数学の問題です。

グラフ理論最短経路問題を解くアニメーション。/Credit:Wikipedia Commons/Ibmua

グラフ理論は交通網、分子構造、コンピューターネットワークなどのモデル化や解析に使われる理論で、まさにHamlen氏の教えるコンピュータサイエンスにも関わっている問題でした。

このことに気づいたHamlen博士は、ゲーム内の星図データをダウンロードし、グラフ理論を用いてルート計算するアルゴリズムの開発に乗り出したのです。

「E:D」は天の川銀河の全てをゲームマップとしており、観測で確認されている領域は再現されています。まだ未観測の領域については、独自の設定で作られています。

Hamlen博士は、130万以上の天体を含む星図をデスクトップPCで経路計算するために、様々の技術的なアプローチを試みたといいます。

ヒープデータ構造、距離空間、高速データバッファリングするメモリマップファイルや最新のIntelプロセッサのベクトル演算など、多くのアルゴリズムとプログラミングのトリックを利用し、4時間近くを掛けてコードを書くことで、20,000光年のルート検索を約1分でこなすルート計算環境を整えたのです。

ガチゲーマーだけがわかるテクニックも駆使

今回の記録達成は、経路計算に高度な科学テクニックを利用したというところばかりがピックアップされるのですが、実際Hamlen博士、かなりゲーム内でも重要なテクニックやセッティングを駆使して、記録達成を実現しています。

このゲームでは、「どの船に」「どういったパーツを組むか」というレース開始以前のセッティングの段階から勝負が始まっています。

高価な船は手に入れるのも大変ですが、このゲームは船を手に入れると今度は維持費もかかります。

ワープ航法というと楽ちんな旅に聞こえますが、このゲームでは中性子星のジェットを利用してワープの距離を伸ばすスーパーチャージという技法があり、これも一歩間違うと大事故を起こすリスクを持った難しい航法なのです。

中性子星ジェットへ飛び込む様子。/Credit:Sol to Colonia in 1h 38m 11s (new time record)/CMDR Steve Falken

タイムアタックにはこのスーパーチャージを駆使することも必要で、危険な中性子星ジェットに飛び込む彼の航法は、このゲームの初心者から見るとヒヤヒヤする映像です。

また、このゲームでは恒星のコロナから燃料補給を行います。この燃料補給ユニットも、容量やチャージ速度などでセッティングに悩む部分がありますが、そもそも水素が含まれない恒星からは燃料補給ができません。

恒星での燃料補給。/Credit:Sol to Colonia in 1h 38m 11s (new time record)/CMDR Steve Falken

こうした中性子星や、燃料補給の可能な恒星をルートに組み込む必要性から、ルート計算が難しくなるという側面があるのです。

そして、Hamlen博士…もとい「CMDR Falken(ゲーム内の博士の名前)」は、船の構成に追加8トンの燃料タンクを組み込んだといいます。

このことについて、CMDR Falkenは「多くのレーサーは余分な重量を問題視しますが、私はジャンプ回数を減らすより、燃料補給のために停止する数を減らす方を重視するアルゴリズムを組みました。今回のレースについては、結果的にそちらが有利に働いたのです」と語っています。

うーん、大人がガチでゲームをやるとこうなるんですね。

CMDR Falkenの最短記録の様子は、下の動画から視聴できます。

なお、彼はこの発表の後、さらにアルゴリズムの最適化とアプローチの最適化を行い、1時間29分という1.5時間の壁を破る記録を達成しています。

CMDR Falkenはおそらくこれが、自分の達成できる最高の記録だろうと語っています。

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