中性子星同士の衝突で重元素が誕生していることが初めて観測される

space 2019/10/24
中性子星同士の衝突によりストロンチウムが生成されるアーティストイメージ。/Credit:ESO/L. Calçada/M. Kornmesser

Point
■鉄より重い元素は、恒星の核融合で生み出すことができず、生成過程の多くが謎に包まれていた

■重元素の生成は中性子星同士の衝突により起こっているという仮説が唱えられたが実証は困難だった

■2017年初めて中性子同士の衝突が観測され、このデータ解析によって地球質量の5倍に相当するストロンチウムの生成が確認された

宇宙には様々な元素が存在しますが、元々宇宙には水素しか存在していませんでした。

それ以外の重い元素は全て、元素同士の融合によって誕生しているのです。

もっとも代表的な例は、太陽などの恒星で行われる核融合反応です。太陽も水素を核融合してヘリウムを生み出すことで光り輝いています。

しかし、星の核融合で生成可能なのは鉄までです。それより重い元素は核融合反応では作り出すことができません。でも宇宙には鉄より重い元素は数多く存在しています。

星の核融合では作れないのに、重元素は一体どうやって生まれているのでしょう? これは宇宙の大きな謎の1つでした。

もっとも有力視されていたのは中性子同士の衝突による生成です。今回の研究は2017年に人類史上初めて観測された中性子星同士の衝突データを解析することで、この説が事実であることを確認したのです。

この論文は、デンマークのコペンハーゲン大学の天体物理学者Darach Watson氏を筆頭とした天文学者の国際チームにより発表され、10月23日付けで総合科学雑誌『Nature』に掲載されています。

Identification of strontium in the merger of two neutron stars
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1676-3

重元素の誕生

© 2018-2019 International Year of the Periodic Table of Chemical Elements.

E = mc2という有名なアインシュタインの式が表すように、物理の世界ではエネルギーと質量は変換可能な等価のものとして扱われます。

太陽が凄まじい熱と光を発しているのは、水素と水素を核融合してヘリウムを作った際少しだけ質量が余るので、その余剰分をエネルギーとして放出しているからです。

しかし、この様に核融合で質量が余るのは元素番号26番 鉄(Fe)までです。鉄より重い元素の生成では、元の元素の和よりも少しだけ質量が足りなくなります。つまり核融合によって逆にエネルギーを消費してしまう状態になるのです。エネルギーが足りない状態では、陽子のクーロン力を抑え込んで新しい元素を生み出すことができません。

そのためどれほど巨大な恒星でも核融合は鉄で止まってしまいます。

では、鉄より重い元素はどのように生まれているのでしょうか?

現在の物理学では、重元素はr過程という高速で大量の中性子を獲得する現象によって誕生していると考えられています。中性子は電気的に中性のため、陽子同士をくっつけるような反発は起こりません。大量に中性子が飛び交う状態なら元素は中性子を大量に取り込むことができるのです。

中性子はやがてβ崩壊によって電子を放出し陽子に変わります。こうして重元素が生まれるのです。

ではそのr過程は宇宙のどこで起こっているのでしょうか?

これについてはいくつか説が提唱されていますが、もっとも有力なのは中性子星同士の衝突によって起きるキロノヴァという大爆発です。

中性子星同士の衝突

中性子星の衝突アニメーション。/Credit: NASA/Dana Berry

重元素が宇宙の一部に偏って存在するわけではなく、宇宙にまんべんなく存在していることを考えると、r過程は非常に巨大な爆発を伴う現象によって起こり、重元素を宇宙全体へ飛び散らせていると考えられます。

そうした条件にぴったりなのが中性子星の衝突なのです。

中性子星は中性子を主成分とした超高密度の天体です。これは非常に重いけれどブラックホールになるほど重くはない恒星が寿命を迎えた後に生まれるます。

高密度の天体が衝突した場合、キロノヴァと呼ばれるとてつもない大爆発が起こります。中性子星同士の衝突は重元素を宇宙に生み出す丁度いい現象なのです。

けれど物理学では、理論上ありえそうな話であっても、実際観測で確かめられるまで実際の現象としては扱ってもらえません。中性子星の衝突というレアイベントは、そうそう観測できるものではなく、重元素誕生の原理を明らかにすることは難しい問題となっていたのです。

しかし、2017年8月、人類は観測技術の向上と熱意と幸運が重なってついに中性子星同士の衝突を捉えることに成功したのです。これは地球からおよそ1億3000光年の位置にある中性子連星GW170817で発生したもので、重力波検出器「LIGO」「Virgo」を始め、世界中の天文台で観測されました。

GW170817の中性子星合体を可視光観測したすばる望遠鏡HSCの画像。明るい輝きが減光して近赤外線へと移行する様子が撮影されている。/Credit:国立天文台/名古屋大学

ただ、このとき得られた観測データは、非常にスペクトルが複雑であり、さらに必要な知識が不足していたため、解析には多くの時間を必要としました。

元素は光の決まった波長を吸収します。そのため科学者は波長スペクトルを解析することで、どの波長がどの程度吸収されたかを調査し、そこに現れた元素を特定することができます。

しかし重元素のスペクトルについては、この観測直後はまだ人類の知識が不完全でした。

この現象で生成された元素を特定するために、研究者たちは観測されたスペクトルをモデル化し、それを理解するための研究から始めたのです。

こうした研究の成果によって、この中性子星合体のイベントからは地球質量の5倍に相当する大量のストロンチウムが生成されていたことが明らかとなったのです。

この事実は、中性子星の衝突が実際にr過程を起こして重元素を大量に生み出していることを意味しています。

長い間、天文学者たちの間で議論されてきた高速中性子捕獲過程(r過程)が中性子星の合体とやっと結びついたのです。

理論の中でしかなかった中性子星の衝突を実際に捉えて、何年もかけて解析する。宇宙の謎に迫る天文学者たちの執念は凄まじいものがあります。

宇宙の錬金術! 金やプラチナなど重い元素が生まれた謎に迫る

reference:sciencealert,phys/ written by KAIN

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