海王星の衛星ナイアドは正弦波で移動する? 宇宙に潜む数学の神秘

space 2019/11/22
海王星の衛星ナイアドのCGイメージ。/Credit:JiFish/en.Wikipedia Common
point
  • 海王星のもっとも内側を回る衛星は、傾いた奇妙な軌道を持つことがハッブル宇宙望遠鏡の観測でわかった
  • 傾斜した軌道の報告はあまりなく、ここには軌道共鳴という神秘的な数学の原理が潜んでいる
  • NASAの公開したアニメーションでは、タラッサを中心に見ると、ナイアドが綺麗な正弦波を描いているのがわかる

海王星は探査機ボイジャー2号以外、調査したことがないという謎多き惑星です。

しかし最近はハッブル宇宙望遠鏡の力によって、次々と新しい事実が発見されています。

今回発表された研究も、海王星のもっとも内側を回る2つの衛星ナイアドとタラッサに関する興味深い事実が報告されています。

それによると2つの衛星は片方が傾いた交差軌道を回っていて、タラッサから見るとナイアドがまるで波打つように移動して見える、というのです

NASAの公開してるアニメーションでは、ナイアドが綺麗な正弦波を描いて移動して見える様子が描かれています。

普通惑星も衛星も傾斜した軌道を回ることはありません。この軌道についてはボイジャー2号の調査でも見つかっていなかった事実です。

「こうした軌道のパターンはこれまで見たことがない」と発見した研究者自身も驚く衛星軌道。そこにはどんな秘密があるのでしょうか?

この研究は、NASAジェット推進研究所のMarina Brozovic氏を筆頭著者として発表され、11月13日付けで惑星科学の学術誌『Icarus』に掲載されています。

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https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad190298

軌道がぐらついてる? NASAの謎アニメーション

Credit: NASA/JPL-Caltech

今回の発表について、NASAが公開したアニメーションではなんと衛星ナイアドの軌道がグラグラ揺らいでいるようなすごい表現がされています。

「軌道がぐらついて衛星がジグザグに海王星を回っているの!?」と驚いた人もいるでしょうが、もちろんそんなことはありえません。

衛星や惑星の公転は毎回同じ経路を通るわけではありませんが、それは精密な測定でわかる僅かなズレです。こんな立て付けの悪いネジのようにグラグラ動いたりはしません。

よく見るとわかりますが、これは1つ外側の軌道を回る衛星タラッサを固定した場合に、ナイアドがどのように動いて見えるかを映像化したもの

要はタラッサ中心に天動説的なモデルで眺めた場合のナイアドの動きを表したというわけです。

地球でも天動説が一般的だったころの天文学者は、地球中心に天体の動きを見ていたので、惑星の軌道がとんでもないものに見えていました。

遠方の天体はきれいに円を描くのに太陽系の惑星だけは奇妙な軌道を描くので、昔のギリシアの天文学者はこれらの天体に「さまよう者(πλανήτης :プラネテス)」という名を与えたのです。

青が地球。黄色が太陽。赤はその他の惑星。左が地動説。右が天動説の太陽系惑星の動き。/Credit:gifmagazine

ナイアドは約7時間、タラッサは約7.5時間で海王星を一周しています。ナイアドの方が公転速度が早いので、約5日に1回ナイアドはタラッサを周回遅れにして追い抜きます。

そしてナイアドの軌道面は、海王星の回転と平行に浮かぶタラッサの軌道面に対して約5度傾いています。

こうした関係にあるため、タラッサから見たナイアドは、上から追い抜かれるときもあれば、下から追い抜かれるときもあるという、とても不思議な動きをしています。

こうした関係性はとてもめずらしいものです。それを表現するためにNASAはこんなアニメーションを作ったのですが、衛星がジグザグに動いているようないらぬ誤解を生むと言って、海外の科学系掲示板redditでは批判する意見も上がっています。

ナイアドの軌道が傾いた原因 軌道共鳴とは?

では、衛星ナイアドの軌道はなぜ傾いてしまったのでしょうか?

これには太陽系の惑星や衛星が、なぜ互いにぶつからずにうまい具合に軌道を保ち続けているのかという問題と同じ原因が潜んでいると考えられています。

それが軌道共鳴という神秘的な原理です。

惑星や衛星の軌道は、「2体問題」という中心天体と公転する星の2つだけの影響で考えた近似計算では安定するのですが、他の天体の影響を考慮した場合、崩壊してしまうという問題が存在しています。ところが現実には星は軌道を保ってうまく回っています。

この軌道を安定されるメカニズムとして発見されたのが軌道共鳴です。発見したのは「ラプラスの悪魔」で有名な数学者で物理学者のピエール=シモン・ラプラスです。

軌道共鳴は、数学に精通したラプラスが発見したように、非常に数学的神秘に包まれた不思議な現象です。

惑星や衛星の公転周期が簡単な整数比になった場合、天体同士は共鳴してぶつかったり接近しすぎることなく軌道が安定するのです。

ちょっと何を言っているのかよくわからない、と思う人もいるかもしれません。しかし惑星の公転周期などが整数比になっているという数学的に美しい状態は、もっと簡単な例で理解できます。

地球と金星は公転周期の比が、5:8となっています。これは地球が太陽を5週する間に金星は8週するという意味で、8年間に地球と金星は5回、太陽に対して直列に並ぶことになります。

そしてそのポイントを図に描いてみると…あら不思議、五芒星(ペンタグラム)になるのです。

Credit:大阪市立科学館研究報告(2011)/石坂千春

こうして見ると、先程の天動説の惑星の動きもスピログラフのような綺麗な図形になっているのがわかります。

ナイアドとタラッサについても、この軌道共鳴が働いていると考えられます。

ナイアドとタラッサは100キロメートル程度しかない小さな衛星で、互いの軌道は1850キロメートルしかありません。これは本州よりちょっと長いくらいで、宇宙ではあまりに近い距離です。

そのため2つの天体は非常に近い距離で横に並ぶことより、僅かに軌道を傾けて上下に離れた距離で定期的に並ぶことを選んだのでしょう。

ナイアドはタラッサの上で2回、下で2回追い抜いて直列に並ぶことになります。このとき両者は常に3540キロメートルの距離を空けています。この綺麗に調和した運動が衛星の軌道を安定化させたのです。

redditに投稿されたスケッチ。軌道の角度は強調されている。2つの衛星は4つのポイントで重なるがその時常に同じ距離を空けている。/Credit:reddit/phosphenes

その証拠に金星と地球の例のように、この2つの衛星はタラッサを中心に見た場合、綺麗な正弦波を描いているのです。

軌道共鳴で生まれるこうしたパターンは、これまで見つかったことのないものだと言います。

なんとも不思議ですが、宇宙にはこんな美しい数学の神秘が隠れているのです。

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reference:universetoday,NASA/ written by KAIN

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