液体が生み出す一瞬の芸術!流体力学が生み出す不思議な映像世界

米国シアトルで11月23日〜26日に開催された、第72回米国物理学会 流体力学部門 年次大会では、流体運動の作り出す美しいビデオクリップのギャラリーが公開されています。
流体運動といえば「はごろもフーズ」しか知らないという人も多いかもしれませんが、流体運動は不思議で美しい様々な映像を作り出してくれます。
その美しい映像の裏には科学的な原理も潜んでいます。この機会に流体の生み出す魅力的な映像世界を見ていきましょう。
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蒸発する塩水

これは超疎水性の素材表面に置かれた、塩水の液滴が蒸発する様子を撮影したもの。
超疎水性は、自然界でもっとも水を弾く性質のことです。超疎水性表面はナノスケールで非常に鋭い表面を持っており、常に空気の層に覆われています。それが水の表面張力を増幅させるのです。
この映像は、海水淡水化プラントにおいて、パイプ壁に損傷を与えてしまう塩の堆積問題を研究する過程で撮影されました。超疎水性表面で飽和塩水を蒸発させるとほぼ球形の結晶が形成され、水がほぼ無くなると脚のようなものが成長して、球を表面から持ち上げていきます。
最終的に出来上がる結晶は、ゾウやカニといった動物のような形になります。

結晶に細い脚ができるのは、水が超疎水性の表面より塩に引き寄せられるためで、表面に僅かに残って接触する水の蒸発が細い脚の結晶を成長させていくことになるのです。
この研究は美しい結晶化の様子を見せるだけでなく、こうした超疎水性表面では塩が張り付かず、剥がれやすい結晶構造を形成する可能性を示していて、船舶などの海水による腐食の予防に役立つと考えられています。
コーンで跳ね返る液滴

こちらも超疎水性表面を用いた映像です。超疎水性の平らな表面に液滴を落とした場合、液滴は損失なく全てが跳ね返ります。
そして、コーン型の表面に液滴を落とした場合は、この映像のようにリング状に液滴が跳ね返り、その後小さな液滴に分裂するのです。
液滴のリングは不安定で非常に珍しい存在です。映像を撮影した研究者たちもこれは嬉しい驚きだったと語っています。
花の形の結晶

これはシリカナノ粒子のコロイド溶液を乾燥させた際に、溶液の膜が結晶化する様子を写したものです。
コロイド溶液とは、大きい粒子が均一に液体の中に広がっている状態を言います。身近なものだと水分に脂肪が均一に広まっている牛乳はコロイド溶液です。
この溶液を膜状に広げて乾燥させたとき、内部に張力が発生し、まるで花が開いたような不思議な結晶を作るのです。
この花模様は、コロイド粒子の密度を調節することで発生する溝(花びら)の数を制御できるとのこと。

シンプルな水の粒子が、多様なパターンを生む非常に魅力的な例です。
水面を跳ねる液滴

APS Physics
これはシリコンオイルの水槽を垂直に振動させたとき、同じオイルの液滴が液面上をトランポリンのように跳ねながら移動する様子を撮影したものです。
ウォーカーと呼ばれるこの液滴の周りには波紋が発生しますが、それはバウンドするとき逆位相の波紋を生み出し最初に作った波紋を打ち消します。
そのため、常に一定の波動を伴って移動しているように見えるのです。

この様な波動を伴った粒子の移動は、量子力学の波動と粒子の二重性や、1つの光子だけで回析や干渉が起きるといった問題を、古典的な方法で理解できる可能性を秘めているとも考えられています。
普通肉眼では捉えられない流体の作り出す一瞬の不思議な光景。
物理的な意味はよくわからなくても、撮影した研究者も感動する自然の芸術は、見事という他ありません。