- レゴブロックが、絶対零度近くでも非常に優れた断熱特性を持つという研究が発表
- ABS樹脂のレゴブロックは適度な空隙を持ち、組み立てた際の接触面が少ないため断熱特性に優れる
- これは極低温環境の断熱材を容易に3Dプリントできる可能性を示していて、量子コンピュータにも利用できる
レゴブロックといえば、一般的には手軽にいろんな形が作れるおもちゃ、というイメージしかありませんが、なぜだか世の中には熱狂的なレゴブロックファンの科学者たちがいて、想定を超えた利用方法をいろいろ提案しています。
そんな中でも、極まった研究が新たに発表されました。それは、レゴブロックを絶対零度に近い環境下で断熱材に利用しようというものです。
現在量子コンピュータは、量子ビットの重ね合わせ状態を維持するために、絶対零度に近い極端な低温環境を作る特殊な冷蔵庫の中で運用されています。
レゴブロックはこうした冷蔵庫の新しい断熱素材にできる可能性を秘めているというのです。
この論文は、ランカスター大学Dmitry Zmeev博士率いる研究チームより発表されており、12月23日付けでネイチャー・リサーチ社より刊行されているオンラインジャーナル『Scientific Reports』に掲載されています。
https://www.nature.com/articles/s41598-019-55616-7
絶対零度に近い環境を作る希釈冷蔵庫
温度とは分子の持つ運動エネルギーのことを指します。絶対零度はこの世の全て静止した世界のことで、摂氏-273.15℃または0K(ケルビン)という温度を指します。
現在、絶対零度に近い非常に低温な環境を作り出すのに活躍しているのが、希釈冷蔵庫という少し特殊な冷蔵庫です。
希釈冷蔵庫は希釈熱を利用して100mK(ミリケルビン)レベルの低温まで物体を冷やすことができます。
希釈というのは、化学溶液などの濃度を薄めることを指します。
理科の授業で、濃硫酸の濃度を下げて希硫酸を作る際、「濃硫酸に水を加えては絶対にいけない」と注意を受けたのを覚えているでしょうか?
この忠告は希釈熱の発熱を警戒したものです。濃硫酸に水を入れると希釈熱によって水と濃硫酸の間に高熱が発生します。これにより水が急激に沸騰して爆発し濃硫酸が飛び散って大惨事を起こすのです。
そのため、希硫酸を作る場合は必ず水に濃硫酸を入れることで、水に希釈熱を奪わせながら硫酸を薄めていく必要があります。
たまにこれを間違えて、理科の授業で大爆発を起こす困った先生がニュースになったりしているので、なんとなく希釈熱の危険については記憶している人も多いでしょう。
この希釈熱は常に発熱を起こすわけではありません。希釈する物質によっては、吸熱を行うものもあります。希釈冷蔵庫というのは、この希釈熱の吸熱反応を利用して温度を下げる冷蔵庫です。
利用されるのはヘリウムの同位体である3Heと4He。これは原子核の中性子数が異なるヘリウムで、この4He溶液に3He溶液を注いで希釈すると、極低温領域まで吸熱する反応が起こります。
こうした装置は、量子コンピュータにおける量子ビットの重ね合わせ状態を維持するために利用されたりしています。