鍵は「古新聞」!?実用化困難だったカーボンナノチューブの成長方法を発見

science_technology 2020/01/03

point
  • 実用化が困難だったカーボンナノチューブを成長させる新しい方法が見つかった
  • 古新聞紙を触媒にすることで、低コストかつ環境にやさしい方法が実現
  • 中国の磁器の原料「カロシン」を使った新聞紙が最適

黒炭、ダイヤモンド、グラファイト(黒鉛)、フラーレン……。これ全部、炭素原子(C)から構成される分子(同素体)です。炭水化物や糖にも含まれるなど、われわれ人間にとっても不可欠な炭素。これがなければ地球に生命が誕生しなかったといっても過言ではありません。

炭素分子の仲間のなかでも近年注目を浴びているのが、カーボンナノチューブ。タッチパネル用のフィルムや曲がる素材や繊維、5G用のアンテナなど多様なエレクトロニクスデバイスへの応用が期待されています。

カーボンナノチューブを実用化するには、編み物のように炭素原子を紡ぎ、長い繊維にする必要があります。ところがネックだったのがそのコスト。アメリカのライス大学とイギリスのスウォンジー大学の共同研究チームは、古新聞紙を使ってカーボンナノチューブの合成に成功したと発表しました。論文はオンラインジャーナルのC-Journal of Carbon Researchに10月29日付で掲載されています。

From Newspaper Substrate to Nanotubes—Analysis of Carbonized Soot Grown on Kaolin Sized Newsprint
https://www.mdpi.com/2311-5629/5/4/66

ゴミから発見された新素材・カーボンナノチューブ

Credit: depositphotos

カーボンナノチューブは、蜂の巣状になった六角形が網目状に並んだ炭素膜(グラフェンシート)を丸めた構造になっています。直径わずか1nmから数十nm、長さは数μmから数mmの小さな円筒です。※1nm=100万分の1mm、1μm=1,000分の1mm

鋼鉄よりも数十倍の強度をもちながら、非常に軽く、いくら曲げても折れない、さらには薬品や高温にも強く、電気や熱を通しやすいといったまさに万能素材なのです。

実はこのカーボンナノチューブ、日本の飯島澄男博士が1991年に偶然発見した分子。

別の炭素の同素体(フラーレン)を合成する際に、装置内に残っていたゴミに目を向けたのが、飯島博士でした。炭素膜の丸め方によって物性を変えられるので、半導体や金属にもなることが明らかになったのです。

長繊維化可能なカーボンナノチューブの応用として期待されているのが、宇宙エレベーターです。高度約36,000kmの静止軌道にある人工衛星まで伸びるロープは、軽くて強く、しなやかな材料が求められます。カーボンナノチューブはこれらすべてを満たす唯一の材料なのです。

カーボンナノチューブの成長に必要な触媒

カーボンナノチューブを実用化可能なサイズにするためには、小さく細い分子を紡いで「成長」させる必要があります。当初は粉末化したカーボンナノチューブしか利用されませんでしたが、成長させることで本来もっていた優れた特性を活かすことが可能になります。

カーボンナノチューブの成長には、触媒となる物質が不可欠。触媒のもとに炭素原子が集まり、円筒状のカーボンナノチューブへと成長します。

さまざまな成長方法が提案されていますが、問題はそのコスト。従来、鉄などの金属が触媒として利用されてきましたが、長繊維化や大量生産のためには成長を手伝う触媒のコストを下げる必要があります。

アメリカのライス大学とイギリスのスウォンジー大学の共同研究チームが目をつけたのが、新聞紙。古新聞紙を触媒にすることで、カーボンナノチューブへの成長が可能になりました。ただカーボンナノチューブといっても、多層構造をもつものや内部にフラーレンが入ったものまでさまざま。

Credit: depositphotos

共同研究チームが成功したのは、単層構造のカーボンナノチューブの成長です。古新聞紙ならリサイクルにもなりますし、コストも抑えられるので一石二鳥です。

中国のカオリンを使った新聞紙しか使えない

Credit: AFP-JIJI

ただし、新聞紙なら何でもいいわけではありません。通常新聞紙は、光沢や色、耐久性を変えるために、「填料(てんりょう)」でコーティングされています。

原紙を顕微鏡で覗くと、繊維と繊維のすき間がスカスカな状態です。一方コーティングした紙の場合、填料がそのすき間に入り込んだ状態になっています。この填料の原料がカーボンナノチューブの成長に重要なのです。

新聞紙の填料として使用されるのが、滑石(タルク)や炭酸カルシウム、酸化チタンなど。共同研究チームがさまざまな素材を調べた結果、中国の有名な粘土の産地である江西省景徳鎮付近で採取されるカオリン粘土から作られた新聞紙だけが、カーボンナノチューブの成長に役立つそうです。

カオリンは、中国人が磁器作りに使う材料です。カオリン粘土で器を成形し高温で焼成すると、磁器が完成します。このカオリンが新聞紙のコーティングに使われるのですね。

そのコーティング用にカロシンを使った古新聞紙だけが、カーボンナノチューブを成長させるそうです。

そして実験を重ねた結果、インクで印刷されていない新聞紙だけが役立つとのこと。

そのため、新聞紙の端を切り取って集められたようです。カオリンでコーティングした紙製品は全世界の60%にも及ぶので、量は問題ないようです。

従来の研究ですと、カーボンナノチューブを成長させる触媒として、食べ物の残りカスや野菜のゴミ、動物や鳥、昆虫の排泄物などが考えられてきましたが、限度があったとのこと。

研究チームが発見した古新聞紙なら、コストも下げられ、有害物質の発生や二酸化炭素の排出もありません。そのため、環境にやさしい方法としても期待されるでしょう。

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reference: rice.edu, wansae, sciencedirect, phys / written by ナゾロジー編集部

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