原子が結合して分子になる様子を「動画」で撮影することに成功

chemistry 2020/01/20
カーボンチューブ内のレニウム分子のイメージ。/Credit: University of Nottingham
point
  • 非常に小さいスケールで起こる原子が結合する様子の撮影に成功した
  • 実験はカーボンナノチューブ内に捕らえられた2つの金属原子を使って行われた
  • 動画からは原子が距離によって一旦は構造を切断するが、再び結合し分子として安定する過程が見て取れる

この世界に存在する全て物質は原子の結合によってできています。

ネバネバと糸を引く粘液も、ツルツルと硬質な金属も、「原子がどう結合しているか」で作られているのです。

近代の原子論が登場したのは16世紀頃と言われていますが、量子論が登場し始める20世紀初頭でさえ、多くの物理学者は物質が原子で出来ているという考え方に懐疑的でした。

それはすべて、原子が小さすぎて見ることができなかったからです。

しかし、現代技術は電子顕微鏡を使うことで原子を見ることができます。そして、新たな研究では、髪の毛の幅の50万分の1というスケールで起こる、原子同士が結合して分子を構成する様子の撮影に史上初めて成功したのです。

この研究論文は、ドイツのウルム大学のUte Kaiser教授と英国ノッティンガム大学のAndrei Khlobystov教授を中心とする国際研究チームより発表され、科学ジャーナル『Science Advance』に1月17日付けで掲載されています。

Imaging an unsupported metal–metal bond in dirhenium molecules at the atomic scale
https://advances.sciencemag.org/content/6/3/eaay5849

極端に小さな世界

今回の研究の課題は、化学結合の長さが0.1〜0.3ナノメートル(ナノは10億分の1)という原子のペアを撮影することでした。

通常の光学顕微鏡は、可視光を使って物を見ていますが、可視光は原子より波長が長いためあまり小さいものには干渉できず見ることができません。

そこで登場したのが電子顕微鏡です。電子は可視光より遥かに波長が短いため、原子同士の隙間まで見ることができます

可視光より波長が短ければいいなら、X線じゃだめなの? と思う人もいるかもしれません。しかし、X線のような短波長の光は非常にエネルギーが高いため、観測対象に影響を与えずに見ることが難しくなります。

また、X線はレンズで屈折させにくいというのも問題の1つです。顕微鏡には当然レンズが必要です。電子ならば磁力を使ったレンズで簡単に屈折させることができるので、顕微鏡の利用には都合がいいのです。

今回使用されたのは透過型電子顕微鏡(TEM)と呼ばれるタイプです。これは影絵のように電子を透過させて、その投影図を見るタイプの顕微鏡です。

Credit:Jubobroff,Wikipedia Commons

撮影されているのはレニウム(原意番号75番,Re)の原子で、レアメタルの一種です。原子番号の大きい重い金属が使用されたのは、軽い元素よりTEMでの観察がしやすいためです。

実際映像でレニウムは周囲のカーボンチューブの炭素よりもはっきりと黒い影として識別することができます。

そして、直径1ナノメートルほどのカーボンナノチューブを利用することで、原子や分子の動きを制限し、正確な位置を把握して撮影することが可能になりました

原子の結合と離散

カーボンナノチューブ内で2つのレニウム原子が結合する様子を撮影した映像。/Credit:University of Nottingham

研究チームは電子ビームを原子の位置の特定や画像化に利用するだけでなく、原子にエネルギーを与えて化学反応を活性化させるためにも利用しています。

今回の結合する原子の撮影は、チームがこれまでの研究で培ってきた豊富な電子ビームの技術によって成し遂げられています。

原子を撮影すること自体はこれまでも行われてきました。今回の研究で重要な点は、リアルタイムで時空間的な連続性を保ちながらその様子を撮影できたということです。

動画では原子間の結合の様子がはっきりと映っています。原子は移動しながら結合長を変化させていて、周囲の環境に応じて結合が強くなったり弱くなったりしています。

Aの赤枠の状態を色強調した画像(B)とRe原子の状態(C)/Credit:Kecheng et al., 2020/DOI: 10.1126/sciadv.aay5849

ここでは、Re原子は結合したあと、振動しながら楕円形に歪んで結合を引き伸ばしています。結合長がそれぞれの原子半径の合計を超えると、結合が切断され振動が止まり、互いに独立した原子になりますが、その後距離が縮まるとまた結合してRe2分子を形成しています。

原子同士がくっついて分子を形成するのは、原子の最外殻にある電子が余ってしまうことで不安定になっているためです。

原子はエネルギーが低く、電気的に中性な安定した状態を好みます。

窒素結合のアニメーションイメージ。/Credit.ViCOLLA Magazine,© 2018 ViCOLLA Magazine.

原子の結合は最外殻の電子が、どの軌道にいくつ余っているかで、結合の仕方が変わります。上の図は窒素の結合ですが、窒素は3つの電子がそれぞれ余っていて3重結合を起こします。

今回の研究で使われたレニウムは遷移元素といって、この結合に関与する電子の数が状況によって変化してしまい、単結合から5重結合まで起こす少し特殊な元素です。

こうした元素の結合は特に理解が難しいものです。今回撮影された映像はレニウム原子の4重結合が映されているそうですが、こうした様子を視覚的に観察することは、このわかりにくい結合を理解するための新しい重要な洞察を提供しているのです。

かつでは見ることもできず、存在も信じられていなかった原子。それが結合する様子さえリアルタイムに観察して動画で撮影できるようになったというのは、とてつもない進歩です。

難しい物理現象についても、様々なわかりやすいイメージ解説が作られていますが、やっぱり最後はちゃんと目で見て理解したいですね。

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reference: ノッティンガム大学,phys/ written by KAIN

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