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周囲の時空を「引きずる」天体が実際に観測される

2021.01.28 Thursday

2020.01.31 Friday

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連星系「PSR J1141-6545」に見られる「フレーム・ドラッギング効果」の想像図。/Credit: Mark Myers, OzGrav ARC Centre of Excellence
point
  • 相対性理論では、回転する物体は周囲の時空構造を引きずるように歪ませると予想されている
  • これは非常に微弱な効果で、検出の難しい現象だった
  • 新しい研究では、白色矮星と中性子星の連星系で、慣性系の引きずり現象が検出できたと報告している

100年前、アインシュタインは相対性理論によって、重力は時間と空間の曲率から発生していると説明しました。

この重力理論の中で、アインシュタインは「すべての回転する物体は時空を巻き込んで引っ張っているはずだ」という予想を述べました。

これは「フレーム・ドラッギング(慣性系の引きずり)」効果と呼ばれていますが、非常に微弱なため、長く検証する方法がありませんでした。

しかし2004年、NASAの重力探査機B(GP-B)は、搭載したジャイロスコープによって、地球の自転によって起こる「フレーム・ドラッギング効果」を検出。見事アインシュタインが正しかったことを証明したのです。

ただし、ここで確認された歪みはとんでもなく微細なものでした。

ところが今回の研究者たちは、白色矮星と中性子星パルサーの連星系「PSR J1141-6545」では、この効果が非常に明確に確認できると言います。

この連星は「フレーム・ドラッギング効果」が、地球の1億倍も強く現れていて、さらに連星の1つがパルサーであるため、歪みの影響が正確に測定できるのというのです。

この研究論文は、ドイツのマックス・プランク研究所の研究者Vivek Venkatraman Krishnan氏を筆頭著者として、1月30日付けで権威ある科学雑誌『Science』に掲載されています。

Lense–Thirring frame dragging induced by a fast-rotating white dwarf in a binary pulsar system
https://science.sciencemag.org/content/367/6477/577

フレーム・ドラッギング(慣性系の引きずり)

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Credit:Dragging the Space-time Continuum/OzGrav ARC Centre of Excellence

今回の研究で観測されたのは、白色矮星と中性子星パルサーの連星です。

白色矮星は外層を失いコアだけとなって予熱で輝く星です。パルサーは宇宙の灯台に例えられる、非常に規則的な電磁波を極点から放射させる中性子星です。これはどちらも核融合を終えて死んだ恒星です。

白色矮星は地球と同サイズで、密度は30万倍という星です。一方パルサーは直径がたった20kmでありながら、密度は地球の1000億倍もあります。

そしてこの2つの星は、互いに非常に近い距離にあり、互いの影響で高速回転しています。公転速度は1年が5時間であり、白色矮星の自転速度は1秒間に2回以上です。

フレーム・ドラッギング効果は、大きな質量を持つ天体が回転することで、時空を歪ませる現象を指しています。この極端な連星では、地球に見られる効果の1億倍以上の強力な効果が確認できるのだと言います。

今回の連星について、本研究の筆頭著者であるKrishnan氏は次のように語っています。

「蜂蜜の入ったボウルの中に、ゴルフボールと食品着色料を入れたと想像してみてください。ボウルの真ん中で、ゴルフボールが高速で回転すると蜂蜜が捻れてかき混ぜられます。着色料は蜂蜜の流れに引きずられて渦を巻くように伸びるでしょう。

このとき、ゴルフボールが白色矮星で、蜂蜜は時空の湾曲、着色料はパルサーを表しています」

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Credit: Mark Myers, OzGrav ARC Centre of Excellence.

通常このような連星では、パルサーが先に誕生し、主星から物質を奪って白色矮星が誕生します。このときパルサーは急速回転する一方、白色矮星の回転は緩やかなものになります。

白色矮星の回転が緩やかな場合、フレーム・ドラッギング効果はあまり大きく現れません。

ところが、今回の連星は白色矮星が先に誕生し、その後パルサーが現れたと考えられています。そのため、白色矮星がパルサーのガスを奪って回転速度を増して行き、フレーム・ドラッギング効果が非常にはっきりと現れる状況が生まれたのです。

さらにパルサーは、メトロノームのように規則的な電磁波を放つため、これによって時空の湾曲は正確に観測できる状態になったのです。

アインシュタインは遥か以前に予測していた重力の影響ですが、その現象を観測できるようになったのはごく最近になってからです。

重力波の直接検出が発表されたのは2016年ですし、存在の予測されていたブラックホールが実際撮影されたのは2019年です。

この連星は、一般相対性理論の効果を非常によく観測できる珍しいものです。予想はされていたものの、その効果をはっきりと確認できるようになったのはごく最近のことなのです。

研究チームの1人であるBailes氏はこの研究を振り返り次のように語っています。

「多くの科学の結果がそうであるように、終わってみれば予想の通りで驚くようなものではありませんでした。しかし、それはとても美しいものです」

突飛な理論と初めは思われていたものが、事実と認められ、しかも宇宙の極端な環境下でなら実際に見ることできるようになりました。

かつての科学者たちの知恵の凄まじさと、人類の観測技術の進歩を感じる素晴らしい報告です。

死んだ星が近くの伴星から物質を奪う「吸血鬼星」を観測

 

reference: scientificamerican, OzGrav/ written by KAIN

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