- 中国の研究により、手袋の上からでも高い触覚能力を維持できる「フィンガーセンサー」が開発される
- 足先に高度な感覚受容器官を持つ「クモ」にインスパイアされて誕生した
人間には発達した触覚能力が備わっており、そのおかげで道具を巧みに操ることができます。
一方で、外科医や宇宙飛行士など手袋やグローブを用いる職業では、触覚が鈍ってしまいます。
手や指先の感覚が人命を左右する職業においては、このような触覚の鈍化は死活問題です。
そこで中国科学アカデミーの研究チームが開発したのが、指先の触覚機能を向上させるフィンガーセンサー「UCSS(ultrathin crack-based strain sensor)」。
これを使うことで、手袋やグローブ越しでも高度な感覚能力を維持できます。
研究の詳細は、2月18日付けで「Applied Physics Review」に掲載されました。
https://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.5129468
「クモ」にヒントを得て誕生
UCSSは、足先に高性能の感覚器官を持つ「クモ」にインスパイアされて誕生しました。
クモの足先には、特定の「ひずみ」や切れ目のパターンがあり、それによって、接触部のかすかな感覚変化や微細な動きを検知します。
研究チームはそれをヒントに、銀でコーティングした極薄のポリマー層にひずみのパターンを彫り込みました。
これら一連のひずみが、物に触れたときに生じる電気抵抗の変化を察知するチャンネル(通路)となり、触覚機能を向上させるのです。
実証テストでは、UCSSを手袋の指先や手の甲に取り付けることで、接触部に感じる動きの微細な変化を検知することに成功しています。
例えば、鳥の羽表面の細かな羽弁や指先に落ちる一滴の水や、目に見えないほど細い人工ワイヤーなどを敏感に感じ取ることができました。
さらに、研究チームは、UCSSを「信号取得ユニット(下の画像b)」および「視覚読み取り装置(c)」と組み合わせることで、「VATES(視覚支援触覚強調システム)」をデザインしています。
VATESは、触覚情報をリアルタイムでコンピューターに送信することで、目ではなく触覚から、今触っているものを再構成するシステムです。
テストの結果、VATESは、人の表情の変化(笑顔やしかめ面、まばたき)を検知できるほど敏感であると判明しました。
同研究員のCaofeng Pan氏は「UCSSは、職業的な用途だけでなく、皮膚表面に外傷を負って、感覚能力が低下した人にも応用できる」と話しています。