「生物のようなウイルス」と「ウイルスのような生物」が発見され、生物と非生物の境界がゆらぐ

science_technology 2020/02/26
典型的なファージウイルスはDNAとタンパク質の殻で作られている。足部分で細胞にとりつくと、頭に入ってるDNAを細胞に注入する。他にも球状や棒状のウイルスもいる/Credit:wikipedia
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  • 生物より多い遺伝子を持ち、免疫能力を備えたウイルスが存在することがわかった
  • 単独ではエネルギー代謝も自己複製もできない生物が存在することがわかった

上の図のように、ウイルスは核酸とタンパク質の殻からできています。単独ではエサをとったり、光合成でエネルギーを生み出したりことも消費することもできません。

自分の力だけでは増えることができず、感染した細胞の自己複製装置を利用します。

このような性質から、ウイルスの遺伝子は「ただ増殖命令だけが記された簡素なもので、生物と無生物の間の存在だ」と言われてきました。

しかし、近年になって複雑な遺伝子を持った「生物のようなウイルス」や、生命活動に必須な遺伝子の多くを宿主に依存する「ウイルスのような生物」が発見され、生物と無生物の境界が非常に曖昧になっています。

そこで今回アメリカの研究者によって、膨大な遺伝子を持つウイルスである「巨大ファージ」の詳細な遺伝解析が行われました。

ファージとは、機械的な外観をした、主に単細胞のバクテリアに感染して増殖するウイルスです。

なぜ巨大ファージは不必要なはずの免疫力を持つに至ったのでしょうか?

研究結果はカリフォルニア大学のBasem Al-Shayeb氏らによってまとめられ、2月12日に学術雑誌「nature」に掲載されました。

Clades of huge phages from across Earth’s ecosystems
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2007-4

生物より多い遺伝情報を持ったウイルス

細菌に感染するファージのイメージ画像 / Credit: depositphotos

研究者たちはまず、妊婦の内臓からチベットの温泉まで、30の異なる地球環境から351種類の巨大ファージウイルスを特定し、遺伝解析を行いました。

巨大ファージは主に、宿主となる単細胞のバクテリアがいる環境に存在しています。

結果、最も大きなファージは73万5千塩基対を持ち、多くの細菌よりもはるかに大きいDNA量を持っていることがわかりました。

これら余剰とも言える遺伝子は、通常はバクテリアにみられるものです。

巨大ファージは感染した宿主の細菌に自分のコピーを作らせるだけでなく、宿主のバクテリアから大量の遺伝子を引き継いでいたのです。

これらの遺伝子の中には皮肉にも、元々はバクテリアがウイルスと戦うための獲得免疫を担うCRISPRシステムも含まれていました。

ウイルスに免疫システムがみつかったのは、今回の研究が初めてです。

ただし、感染を恐れる必要のない巨大ファージのCRISPRシステムは少し特殊で、感染した細菌のCRISPRシステムを強化して、競合する他のウイルスの排除に使われていました。

さらに巨大ファージの遺伝子には、これまでウイルスには存在しないと考えられていた、自己複製にかかわる遺伝子もみられました

巨大ファージは宿主の複製能力を乗っ取ると、これらの遺伝子を使って自己の複製速度をブーストすると考えられます。

この発見は、ウイルスが自己複製を他者に頼り切ってきたとする従来の見解を覆すものです。

エネルギーの代謝も遺伝子の複製もできない生物

ヒモ状の細胞がカルソネラ / Credit:豊橋技術科学大学

今回の研究によって、生物を上回る遺伝子量を持つウイルスの存在が明らかになりましたが、近年行われた他の研究では多くの微生物が、独立して生きていくための代謝や自己複製に必要な遺伝子を欠いていることもわかってきました。

例えばキジラミに寄生するカルソネラと呼ばれる細菌は遺伝子を182個しかもっておらず、エネルギー代謝や遺伝子複製に必要な遺伝子のほとんどを失っています

カルソネラが代謝や自己複製を行うときは、宿主から必要なタンパク質や遺伝子を拝借するしかありません。

カルソネラが世代を超えて生き残るときには、キジラミの生殖細胞に紛れ込み、生殖細胞が受精卵となった後は、キジラミの細胞と共に分裂しながら増えていきます。

単独では生存できず、他種族の細胞に依存しているのはウイルスと同じであり、カルソネラは細菌に分類されていても生物の定義から外れているのです。

研究者の中には、カルソネラはミトコンドリアや葉緑体のように、細胞内器官に進化している最中だと考えている人もいます。

しかし生物をやめてしまうことを進化と呼ぶのかは、まだ議論の余地がありそうです。

生物の定義は曖昧になった

Credit: depositphotos

近年の研究で、膨大な遺伝子に加え免疫能力すら持つ「生命のようなウイルス」がいる一方で、単独では自己複製すらできない「ウイルスのような細菌」がいることが分かってきました。

巨大ファージはバクテリアの遺伝子と免疫力を備え、普通のウイルスとは異なり、バクテリアの外部遺伝子貯蔵庫として機能しています。

また巨大ファージの感染は、抗生物質に対する耐性をバクテリアの中に拡散するのにも役立っていると考えられます。

巨大ファージは感染によって、バクテリアと複雑な共生関係を築いている可能性もあるでしょう。

一方で、カルソネラのように、代謝能力も自己複製能力も失い、生物の定義から離れていく細菌も存在しています。

巨大ファージやカルソネラの存在は、既存の生命の定義をどんどん曖昧にしています。

何を生命として尊び、何を非生命として利用するかの倫理も、考え直す必要があるかもしれません。

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reference: sciencedaily / written by ナゾロジー編集部
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